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イェナ プラネタリウム100周年の街へ

世界のプラネタリウム施設の数は、3500個程だそうだ。
その中でも、日本には多くのプラネタリウムがあり、アメリカに次ぐ第2位の422個が設置されているという。
うち、はまぎん子供宇宙科学館にあるものは、2023年2月に、世界で一番多くの星を映し出せるとして、ギネスブックに登録された。
その数、なんと7億個。

その他、世界の上映回数上位も、日本勢が占めている。
つまり、日本人はプラネタリウムが好きな国民と言えるだろう。

さて、現代のプラネタリウムの発祥の地は、ドイツにある。
それが、イェナ Jenaの街に設立されたカール・ツァイス Carl-Zeiss社。
1923年にヴァルター・バウアースフェルト氏が発明した世界初のプラネタリウムは、4500個の星(6等までの星)を映し出す事が出来たそうだ。
前述した現在のギネスブック記録が7億個なので、100年間の科学の進歩は凄まじいものだ。

今年は、プラネタリウム発明からちょうど100周年だと知り、私はどうしてもこの街に行き、ツァイス社のプラネタリウムを見てみたくなった。

今年が終わってしまう前に、私は駆け込むようにイェナの街を訪れた。
街はクリスマスムードに囲まれ、小さいながらもとても温かみのある街だった。

Marktplatz マルクト広場
夜の賑わいが街を華やかにしている。

市役所もイルミネーションが綺麗。

ヨハニス門と火薬塔
Johannistor und Pulverturm
このヨハニス門について、面白いものを読んだ。
イエナ大学の学生達は、この門を通らないという。
何故なら、ここを通ると次の試験に落ちるという迷信があるのだとか。

こちらが、火薬塔。

この辺りは、クリスマスマーケットが開かれており、賑わっていた。

シラーハウス Schiller Gartenhaus
ドイツの詩人、劇作家、シラー。
シラーと言えば、ベートーヴェンの第九、喜びの歌の詩が浮かんでくる。
ゲーテと交友のあったシラーは、イェナ大学の歴史の講義を斡旋され、1789年からこの街に滞在したそうだ。
10年ほどこの街に住んだので、彼の生涯のなかで一番長く住んだ街でもある。
ガーデンハウスという名の通り、ここは夏の間に訪れる言わば別荘のようなもので、居住地は別にあったそうだ。
しかし、ゲーテは頻繁にシラーを訪れており、このガーデンハウスにも来ている。
庭のテーブルは当時のままで、ここで二人は語り合っていたという。

イエナ大学キャンパス

ドイツ光学博物館 Deitsches optisches Museum
残念ながら、この博物館は修復のため長い間閉鎖されているようだ。

カール・ツァイス像 Carl-Zeiss Denmkmal
ツァイス社の原点は、光学博士カール・ツァイス氏による顕微鏡製造のための工房で、1846年にイェナの街に設立された。
戦後は、拠点が東西に分かれた過去もある。
また、国内のライカのみならず、京セラ、ソニー、富士フィルムなどの日本企業にも、レンズの提供をしているそうだ。

また、財団を有するツァイス社は、労働時間を含む福利厚生の改善を、世界に先駆けて行った会社でもある。
当時は、14時間労働から12時間労働への切り替えが検討されている中、当社は9時間労働を導入しており、更に1900年には8時間労働を導入し先陣を切ったという。

イェンタワー Jen Tower
1972年に、ツァイス社の研究所として設立。
127mの高さは、当時ドイツで一番高い建物だったそう。
その後は大学に売却され、大学の校舎として使われていたものの、現在一部はオフィス、ホテル、レストランなどとして利用されている。

ホテル スカーラ
イェンタワーは現在オフィスやホテルとなっており、今回はこちらのホテルに宿泊。
29階のうち、27階がホテル部分。
部屋は17部屋のみ。
写真を見ると素っ気ないが、全てスタイリッシュに纏められていて心地良かった。

部屋からも綺麗な景色が見られるが、28階のプラットフォームに出ると、360度の景色。
朝焼けも夜の景色も、どちらもとても美しい。

プラネタリウム Carl-Zeiss Planetarium
そして、この街を訪れる目的となったプラネタリウム。

こちらは、カールツァイス1型と呼ばれる、世界初の光学式プラネタリウム。

こちらの2型が作成された1926年に、このプラネタリウムが開業したのだそうだ。
現在は、改良を重ねたユニバーサリウム8型と呼ばれる装置が稼働している。これは最新の装置で、全天周映像が映し出される。
(この間には、2つのそれぞれ改良された装置が稼働していたそうで、今の装置は最初の発明品から5つ目となる。)

そしてこの2型は、1960年に日本の明石市立天文科学館に送られ、それは今も使用されているという。

なお、一つ前の装置、Cosmoramaコスモラマは市内のショッピングモール ゲーテ・ギャラリー内2階部分に飾られており、見ることができた。
このショッピングモールは、カール・ツァイスの工場跡地を利用しているそうだ。
世界で初めてプラネタリウムがテスト投影されたのも、このギャラリーの地だとか。

カール・ツァイス氏

こちらのギャラリーのイルミネーションも、とても豪華だった。

星を映し出すプログラムだけではなく、オーロラに焦点を当てたショー、宇宙の始まりまでタイムトリップするもの、またはQueenのミュージックショーなど、プラネタリウム施設には様々な楽しみ方があるようだ。

プラネタリウム。
満点の星が、私を包む。
オリオン座の説明から始まり、有名な星座の数々が表示されていく。
そして、地球から一番近い惑星、金星から太陽系の説明が始まった。
それぞれの惑星が、どんな特性があるのか紹介されていく。
そして、ハレー彗星などの紹介まで。

星空の美しさとは裏腹に、私はほんの少しだけ、居心地が悪くなる。
自分という存在の小ささを感じ、急に自分が砂漠に取り残されたような、不安な気持ちになってしまうからだ。
100年前の人々は、この宇宙を映し出す発明を目にした時、一体どのような気持ちになったのだろう。

そして私は、どの惑星よりも、地球が一番美しいと感じた。
青く、そして緑に覆われた地球。
この惑星に住むことができることは、それだけで幸せなのではないだろうか。

そういえば、オリオン座の見つけ方は、父が教えてくれた。
私はオリオン座の説明を聞きながら、その夜の事を思い出していた。
何故あの日に星の説明をしてくれたのか、その理由は覚えていないのに、父が教えてくれた星座の見つけ方は今でも覚えているなんて、不思議だ。

父は今、数えきれないあの星の中の一つ。
こんなにはっきり見えるけれど、手が届かない。

プラネタリウムを出た後、私はふいに空を見上げた。

お父さん、今年も冬の大三角形が綺麗に見える季節になりましたよ。
ねぇ、お父さん。
私は今、とてもお父さんに会いたいのです。
寒い季節は、無意識に温かみを求めてしまうからでしょうか。
お父さんは、夜空の星の中の、どこかにいるのでしょう?
でも今日は、厚い雲に覆われていて、私には星が見えないのです。
それでも今、お父さんは私を見てくれていますか?

私の右頬に、一粒の雨が落ちた。
それはきっと、父からのお返事だろう。
父はいつもどこかで、私を見ている。

ライカの街、ヴェッツラーについてはこちら

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