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価値と報い

何かを成し遂げて、嬉しい気持ちで満たされた時、こんな言葉をかけてもらうことがある。

Du hast es verdient!

【VERDIENEN】
・仕事の報酬として、賃金、給料、手数料などの形で得ること

・取引をするために一定のメリットがあること

・利益として一定の反応、評価などの価値があること

・自分の行為によって正当な権利があること

私がかけて頂いた言葉は「報酬を得る」という意味ではなく、「あなたにはその価値がある」という訳になるだろうか。

映画やドラマなどでは、こんな言い方を聞く。
Du hast was Besseres verdient.
あなたには、もっといい物(人)がいますよ。

Du hast mich nicht verdient!
あなたには、私を得る価値などない!

Das hat sie verdient!
彼女にはそれが相応しい!

3つ目の、Das hat sie verdient(彼女にはそれが相応しい)には、2つのケースがある。

例えば、彼女が何かに向けて努力をし続け、ようやく目標を達成し認められた場合、賞賛の意味を込めて、この言葉がかけられる。

逆に、彼女が悪行を続けてきて、ようやく天罰が下った時にも、この言葉が使われる。
まさに、因果応報。

*****

日本語では、お金を稼ぐことと、何かの価値を評価することは、別の言葉だと思う。
しかし、こう考えてみると、仕事というのは、自分の時間を相手に与え、相手の指示に従い何かを成し遂げ、その対価として給与を得ているという基本的な概念に辿り着く。
つまり、自分の価値を、報酬という対価で得ている。

大学時代に、ある教授が語ってくれたお話を思い出す。

将来必ず、良いベッドと、良い仕事を見つけなさい

1日をざっと分けると、8時間は睡眠。
(もっと少ない人も、多い人もいるだろうが)
そして、8時間は仕事。
(こちらも、残業や通勤時間を考慮すると、もっと多い人が大多数だろう)
残り8時間は、その他の時間。

貯蓄を増やしたい時には、まず固定費の見直しから始めるべきである。
それと同様に、毎日の生活のうち、固定された時間をどのように使うかを、真剣に考えるべきだと教えてくれた教授。
まずは、良いベッドを手に入れて、良い睡眠を得る事。
ベッドだけでなく、心地良い住環境もそれに入るだろう。

そして、仕事。
当時はまだアルバイトの経験しかない私にとって、定職に就く事はまだ想像の中の話だった。
自分の価値を売るという考え方、自分の価値とは何かを教えてくれたあの教授の授業は、今でも忘れられない。

仕事とは、たくさんの事柄が複雑に絡み合っているのだと、今なら分かる。
知識だけ詰め込んでも、全く役に立たない時もある。
時には、とりあえずやってみる勇気も必要だからだ。

そして、仕事で何が一番大切かと問われたら、私は人間関係だと答えるだろう。
人は一人では働けない。
誰かに助けてもらっているからこそ、気持ち良く働くことができる。
会社の内部も、そして外部の人とも、人間関係というのは、私にとって非常に大切なキーワードだ。

そして、大切な事がもう一つ。
それは、責任を背負い過ぎてはいけないということ。
これは、手を抜くという意味ではなく、自分は大きな組織の駒だと割り切る考え方だ。

私は、良く言えば働き者で、悪く言えば自己犠牲をしがちな人間だという自己分析をしている。
そのせいで、何度か酷く身体を壊してしまった事もある。

今の私は、自分に負荷がかかり過ぎそうな時は、高級腕時計を思い浮かべるようにしている。
それは、スケルトン状態のもので、内部構造が見えるもの。

私自身は、一人で高級腕時計そのものにはなれないけれど、その中の一つの部品であればいい。
時計を覗き込むと見える、小さく、しかし正確に時を刻むあの部品。
あの高級腕時計は、部品の一つでも欠けたら動かない。
正確に時を刻むという役割を果たすために、私はただ実直に動いていれば良いのだと、そう考えるのだ。

私が動けば、隣の部品が動く。
小さな力は、それでもきちんと役目を果たしている。
私は、それだけをやれば良いのだと、そう自分に言い聞かせる。

時には、私はどうにも動けなくなり、錆びつきそうになる。
それでも、隣の部品が動いてくれているから、何とか一日を乗り切ることができる。
あとは、明日の朝にでも、ご主人様がネジを巻いてくれるまで、ひと休みすれば良い。

私はそうして部品としての役割を担い、そして時には自分が高級腕時計の一部だと認識することで、わずかな誇りや、周りとの協調性を感じながら過ごす。

仕事も友情も、結局一番大切なのは、自分の生きかたや振る舞いなのだと思う。
そんな時に、思い出す諺がある。

Ehrlich währt am längsten
誠実であることが一番長続きする

まったく逆の意味で、こんな諺もある。
Lüge hat kurze beine
嘘は足が短い

嘘をつくことで、成功を手に入れることは簡単かもしれない。
しかし、すぐにばれるので、その成功は長続きしない。
正直であることが、一番の秘訣という事だろう。

正直であり続けることは、時には遠回りをするかもしれない。
でも、いつかはポジティブな意味で、Du hast es verdient!と言ってもらえるだろう。
それは、自分にとって最高の報いの言葉だと思うのだ。

正直でいること。
それこそが私の「価値」だと、そう言える人間でありたい。

ドイツでは、秋が新しい期の始まり。
そして、私の勤めている会社でも、定期人事面談が行われる。
半年を振り返って思う事は、周りのみんなへの感謝の気持ちと、そして自分の中の新たな決意。
自分に正直に、そして頑張り過ぎないこと。
頑張り過ぎないことは、私にとってはなかなか難しい。
手を抜くのではなく、力を抜き、たおやかに生きていきたい。

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ドイツの様々な諺について

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