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千代田区公立中学校(神田一橋と麹町)の10年代


○生徒の確保

出身中学校周りの話題について触れてみる。自分が卒業した後にもあった何かと不思議なその変化についてメモ程度に残しておきたいと思う。自分が千代田区立神田一橋中学校を卒業したのは2011年の3月であり、ちょうど東日本大震災が卒業式に被った時期だった。それ以降、麹町中学校ばかりが人気になってしまい神立一橋中も何かと不遇な感じである。区内には3つの公立中学校が存在するが、正確にいば九段中等はそれ単体での中学ではないので別枠だ。夜の人口が極端に少なかった千代田区も最近では居住区行きを増やす施作を行っておりそれに伴って子供の数も増加している。とはいえ、区内に通っている越境の小学生のほとんどが私立中学校へ進学するため、公立中学校への入学者の多くが区外から流入するという流れもまだ残っている。少なくとも10年前まではほとんどの生徒が越境だったため状況は入り乱れている。同じ規模で安定的な生徒数を維持することがほぼ不可能な状態だ。生徒の取り合いとまではいかなくても区内にある2つの公立中学校が必然的に同じ層にとって選択の対象になってしまう。

○3つの出来事と経緯

3つの出来事(①2010年ホームレス熱湯事件 ②2014年〜麹町中へ工藤勇一が校長へ就任 ③2016年原発いじめ事件)が大きく学校の人気に影響を与えたように見える。2010年に神田一橋中学校の生徒が起こしたホームレス熱湯事件が全国的なニュースになった結果、入学者数が大幅に減少することになる。2014年から麹町中の校長へ工藤勇一が就任し教育改革を行った結果、書籍やテレビなどに大きく取り上げられ人気になる。③2016年には原発いじめ事件が全国的に報じられた結果、神田一橋中学校の入学希望者はさらに減少する。


○麹町中の教育改革

なぜ麹町中学校が人気になったのかはネット記事や書籍を参考にしてもらえればよく分かる。Amazonで「工藤勇一」と検索するだけでも多くの書籍がヒットする。中には有名な劇作家の鴻上尚史との対談本や元政治家の鈴木寛と対談した記事なども出てくる。テレビではカンブリア宮殿や林修なども取り上げていたようだ。端的に言って仕舞えば、「宿題廃止、定期テスト廃止、固定担任制廃止、制服の廃止」という大胆な施作にも関わらず進学実績もきちんと残したという実績である。当時の日比谷高校への進学実績も公立でNo1を取ったとどこかで聞いた。

区内の進学予定者に行った令和2年度の学校選択状況は、麹町中366人(88.2%)なのに対して神田一橋中49人(11.8%)となっていたらしい。9割近い家庭が麹町中学を選択する結果となっていたよう。これを受けて令和2年度から麹町中学は越境入学を受け入れないことが公表されている。いまどうなっているだろうと試しに令和5年度入学予定者について調べてみたら麹町中298名、神田一橋176名と少しは回復しているようだった。


○在校生徒の変化を見てみる

自分でも何やっているのだろうと思いながらも表を作ってみた。影響がありそうな部分は色で塗っておいた。3つの出来事が在校者数へ影響しているかどうか調べてみたかったからである。実際のところそれくらいしか比較する材料がないのでなんとも言えないのだけれど…。2020年度入学生の差が最も開きが多い学年になっている。元々は同程度の規模だった学校のはずだが神田一橋が45人、麹町中は237人となっている。工藤勇一が退職して越境入学を停止したのが次の年だったはずなのでそれ以降は落ち着いたバランスへと少しずつ向かっているように見える。


(2つの中学校の入学者をまとめた)


(千代田区の人口は増加の一途を辿っている)


○雑感

6年前くらい前だったか、あまり詳細は言えないのだけれど神田一橋中の現役生と少しだけ話をする機会があった。ちょうどその当時は原発いじめが取り上げられていた時期だった。学校が荒れていて本当に辛いと教えてくれた。熱湯事件もまだまだ地元では有名だったようだ。事情が分かっている人間を前にしたからなのか、切羽詰まった雰囲気が伝わってきたのを覚えている。公立中学校というのはいろんな層が集まる場所であるから、どこの地域でも荒れがちな傾向だが、それを抜きにしても酷いものがあるという印象を受けた。まあ、あくまでも印象でしかないのだけれど。こんなに勝手に学校の状況をネットに書き込んでしまっても良いのだろうかとは気が引けたけれども自分だってこの話題について取り上げたかったから仕方ない。

今も昔も千代田区の公立学校は話題性が多い。学校群制度が導入される前の当時は東大へ入学する典型的なルート(番長小学校→麹町中学校→日比谷高校→東京大学)のひとつだった。麹町中学校といえば現首相の岸田文雄の出身校でもある。現世田谷区長の保坂展人が卒業後に学校を相手に裁判を起こしたことも判例として非常に有名である。当時のことが分かる資料が書籍として残っている。タイトルは『麹町中学へ死の花束を―造反の青春を生きる』(たいまつ社)という過激なものだ。また、判例については『憲法から大学の現在を問う』(勁草書房)に内申書と表現の自由をめぐるこの裁判の詳細が掲載されている。

当時の中学校と比べたらずいぶん緩くなったはずだ。工藤勇一が行った「宿題廃止、定期テスト廃止、固定担任制廃止、制服廃止」の教育改革がどの程度の効果をもたらすのか期待したいところではある。ただ、良い面ばかりを賞賛するのではなく、結局はその裏でも色々な問題が生じているのかもしれないと疑いながら見ていく必要はあるのだと思う。隣の中学校では傷害事件もいじめ問題も発生しており何かしらのコンフリクトが足下で生じているのだから無視はいけない。教育の効果は客観的に測定できるようなものではない。だからその教育方針が素晴らしいと持ち上げたところで本当の意味でまだ結果など出ていないのだ。子供は大人の抱く期待と幻想に絶対的に振り回されるのが常である。新しい教育を実験してみるのも良いが、そこで割を食ってしまう人が出てくるのは間違いない。制度が変わりゆくその隙間に被害者がいる。親の強い希望で私立を受験して失敗して挫折感を味わった生徒たちや、いろんな意味において地元に居られなくて越境した生徒たち、学ぶ環境が整っていない生徒たちがどうか救われてほしい。

麹町中の教育改革は「極めて普通の公立高校だったのに…」と語られることが多いが、それは少し嘘があるだろうとは思う。ひとつだけ指摘しておかなければならないのは、これが千代田区だから局所的に成立した教育だった可能性が高いということだ。イメージだけで成り立っていたとはいえ事実それなりに千代田区は進学実績を残していたし当時は越境がほとんどだった。その残り香がまだあった中での試みなのだとしたら、やや特殊な状況での取り組みだったのではないかと思ってしまう。受験に熱心な生徒によっては塾での勉強が主であり学校の勉強が邪魔になっているような場合も多くない。そういう家庭にとっては定期テストや宿題がないことはメリットでしかない。内側にいない人間からはそこら辺の実態は見えないのでその可能性の指摘しかできないとはいえ純粋に千代田区の公立中学校を卒業した自分からすればそのようにしか思えない。事実、2019年の麹町中は生徒の45%が数学で『5』を、英語を除く他教科でも生徒の50%超が『4』以上を取っていたのだそうだ。工藤勇一は雑誌のインタビューなどで「生徒全員に5を付けて何が悪いのか」とも発言していることからも、なんとなく想像がついてしまう。内申点を目的として越境してくることで人気を保っているのであれば、それは学歴競争社会に迎合しているような形になってしまうが大丈夫だろうか。

最近、朝日新聞のネット記事で「麹町中学校が改革転換を検討しているため保護者に波紋が…」という趣旨の内容が書いてあった。定期試験の実施、学級担任制の導入、指定の制服・体操着の着用などを進める方向で調整しているらしい。有料記事だから読むことができず残念だ。

○参考文献

・ホームレスに熱湯、中3少年を傷害容疑で逮捕

https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1200T_S0A011C1CC0000/

・日刊スポーツ「東京の中学で福島いじめ 原発避難生徒をカツアゲ」

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/1751584.html

・千代田区の震災避難者、いじめ「小学生の頃から」 弁護士が会見

https://www.sankei.com/article/20161215-BGNVXFF2EVIO7FAAHDZKYOIRBA/

・麹町中学の越境停止と中学校区選び

https://mommapapa.hatenablog.com/entry/191213_koujimachi-ekkyou

・「定期試験なし」の千代田区・麴町中、改革転換を検討 保護者に波紋

https://www.asahi.com/articles/ASR825V8GR7VOXIE04B.html

・千代田区の名門公立中学校で通知表に「1」を連発した新校長の主張

https://www.news-postseven.com/archives/20210413_1649683.html?DETAIL

・書籍『麹町中学へ死の花束を―造反の青春を生きる』(たいまつ社)

・書籍『憲法から大学の現在を問う』(勁草書房)

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