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終の集いし月の終4 2021.7-2021.12

ここでは第十四話から最終話までを掲載しています。

【第十九話:2021/07/30】

 当たり前のように交わされる、ただいま、と、おかえり。再就職先は、君の好きなスイーツ屋の近く。僕がその箱を見せると、君の顔が輝いた。夕食をとった。風呂に入った。君が僕を待っていた。いや、待っていたのはスイーツを食べる瞬間か。それは幸せだった。そこに終わりなんて、あるはずがなかった。

「あまりに愚かだ。終わらないものなどあるはずがない。などと。そんな目で見ないでください。ああ、もしかして、あなたも終わらないものがあると信じていたのですか? これは失礼しました。でもそれは、ただの幻想ですよ。それでは、また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第二十話:2021/08/30】

 彼の人生は順風満帆だった。誰もが憧れる人生を送っていた。ある日突然、親友の裏切りを受けるまでは。全てを失った彼は再起を目指し奮闘した。だが、何年か経つと、彼はスマートフォンを片手に己を死に至らしめる方法ばかり考えていた。それを自覚した時、彼は己の希望が終を迎えたことを知った。

「この後、彼がどうなったか、私は知りません。ですが、希望を失った人間ができることなどごくわずかです。もう一度希望を見つける、なんて夢のまた夢。できるはずもない。彼だけでは。彼一人ではできないのです。それでは、また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第二十一話:2021/09/24】

 とても、天気のいい朝だった。休日。君と一緒に買い物に出かける予定だった。だが、残業が続いていた僕はベッドから起き上がれずにいた。そんな僕を見て君は笑う。自転車の鍵を持ち、一人で出かける君を見送った。二度寝した僕に着信音。電話越しのけたたましいサイレン。君の終を告げる電話だった。

「彼女の頭部は破壊されていました。トラックって重いんですね。……。もし、過去に戻れたら。いや、無理だ。だって、彼女はもう帰らない。あの日、終を迎えたんだから。それでは、また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第二十二話:2021/10/29】

 それでも僕は日常を続けていた。君は帰ってくると信じていた。これは悪い夢なのだと。いつか覚めるものだと。だが、ある日理解してしまう。君は、もう戻らない。何もかも無意味に思えた。仕事を辞めた。人付き合いをやめた。食事もやめた。人としての生も終わらせようとした。目の前が真っ暗になった。

「気付けば私はここにいました。この暗く、何もない空間に。はじめは恐れを成しました。ですが、それが救いだった。何もないことが救いなんです。ここには、彼女がいないなんていう事実も存在しないから。お願いだ、許してくれ。……また来月の終の金曜日にお会いしましょう」

【第二十三話:2021/11/26】

 この何もない空間に一人。いない君と話をし、我に返り、苦しむ。そんな意味のない時を過ごしていた。そんな僕に囁きかけるものが現れた。それは終の物語だった。聴きたくもないのに、それらは僕に話しかける。耳を塞いでも、頭に直接言葉を流し込んでくる。やがて、僕は諦めた。彼らを受け入れたのだ。

「そして、私は終の語り手となった。どうですか? 私は語り手として正しく振舞えているでしょうか? ありがとう。あなたとはもう随分長いお付き合いですね。だからといっては何ですが、一つ、あなたに頼みたいことがあるのです。来月の終の金曜日、こちらでお待ちしています」

【最終話:2021/12/31】

 お越しいただきありがとうございます。あなたへ頼みます。どうか私の終の物語を見届けてくれませんか。私は己の意思でこの23:59に留まり続けた。彼女の終を認めたくなかったんです。でも、あなたと話をして気づいてしまった。もういいやと思う自分に。ほら、時計が進み出した。3、2、1。さよなら。

 気付けば男は見知った道に立っていた。先程まで己は終の世界にいた。そして、終わらせた。己自身を。なのに何故。戸惑う男に光が射した。朝日だ。ああ。思わず漏れた声。気付いたのだ。終は終わりであり、はじまりであると。己は終わり、はじまった。その苦しさを噛みしめ、それでも、男は歩き出す。

【完】

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