針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

針間有年

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マガジン

  • 夢に現れるそれらの話

    夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。

  • うちゅうのおはなし

    ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。

  • 五行で遊ぶ。

    五行の中で自由に遊ぶ。

  • 終の集いし月の終

    Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。

  • 写真を描く

    写真の情景を映しながら描く小説。

最近の記事

洗濯機

 洗濯機はいたずら者だ。  だけど、その動きを見張ることは難しい。  何故なら洗濯をしはじめたら最後、  その中を覗くことはできないからだ。  乾燥を済ませた洗濯物を取りだすと、  白いTシャツが虹色に染まっていた。 「困るよ」  僕が言う。  すると、洗濯機はくすくす笑う。 「綺麗でしょ」 「綺麗だけど」  僕は呆れてため息をつく。  すると、彼はこう言った。 「君がこんなに洗濯物を詰め込まなければ、いたずらはしないさ」  ぐうの音も出な

    • 張りぼて

       張りぼての街があった。  虚栄心に溢れた住民は、  見掛け倒しの素晴らしい街を作った。  それは観光客を喜ばせ、  外部の人間から称賛を浴びる。  金が集まった。  張りぼてはやがて、本物の素晴らしい街になる。  誰もがその街が張りぼてだったことを忘れた頃、  大きな、大きな、嵐が来た。  街の旧市街地はきれいさっぱり消えてしまった。  そこはまだ張りぼてだったからだ。  更地になった土地を見て、住民たちは唖然とする。  そして、声を上げた。

      • イニシャル

         イニシャルの盗難が相次いだ。  自身の名前を奪われ、  人々は混乱した。  警察は捜査を進めているが、依然犯人は分からない。  中でも皆が知りたがったのが犯行動機だ。  こんなものを集めて何になるのだ、と。  高額での取引か。  ただの愉快犯か。  人々は固唾を飲んで捜査の行方を見守る。  そんな中、僕は苦笑交じりにカクテルを作る。  街外れのバー。  隠れ家のようなそこで、イニシャルたちの宴が開かれていた。  人間の混乱模様にイニシャルたち

        • 金塊

           金塊で殴られて死んだ。  そんな僕の周りに人が集まる。  容疑者、探偵、その助手、それから、野次馬。  死体な僕はのんびり聴き耳。  探偵は案外まともな推理をしている。  もっと素っ頓狂な輩だと思ったが。  犯人が震えはじめた。  いい調子だ。  だが、誰かが言った。  ――金塊で殴り殺されるなんて、縁起がいい。  その場が混乱。  縁起が悪い?  縁起がいい?  来世はきっと安泰だ。  そんな結論で幕引き。  みんなが笑顔になった。

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        記事

          走り書き

           誰かの走り書きを見つけた。  駅の構内の白い壁。  こんなところに何故。  辺りを見渡すが人はいない。  その走り書きは読めないほど汚い字だ。  何をそんなに焦る必要があるのだろう。  後ろから足音が聞こえる。  やたらと、大きい足音が聞こえる。  振り返ると、何か、がいた。  僕は悲鳴を上げて走り出す。  袋小路。  もう助からない。  その瞬間、思い出した走り書き。  ――逃げろ。  今更気づいても遅い。  何か、が目の前に現

          走り書き

          返り咲き

           こんなに寒いのに、花が咲いている。  返り咲きだ。  ――君は春に咲く花だろう?  僕の言葉に花は答える。  ――今は春ではないのですか?  ――もう冬がやってくるよ。  だが、花が驚くことはなかった。  ――やはりそうなのですね。  花はため息をついた。  ――お前は狂っている、と。  返り咲き、またの名を、狂い咲き。  ――だけど、綺麗だよ。  僕の言葉に花ははにかんだ。  返り咲いた花の元、僕は小さな花見を開く。

          リュックサック

           リュックサックが重い。  荷物を入れすぎるのはいつものことだ。  だが、それにしても、重い。  下ろして確認するのは面倒だ。  なんたって人の多い道。  止まると迷惑そうに睨まれるのが目に見えている。  僕は重いリュックサックを負いながら歩く。  だが、その重さはだんだん無視できないものになってきた。  それに人々がこちらを見て、そして、逃げていく。  僕は慌ててベンチを探し、リュックサックを下ろした。  人間の四肢がはみ出していた。  リュ

          リュックサック

          火炙り

           火炙りの祭り。  良いにおいで溢れた祭り。  あっちで火炙り。  こっちで火炙り。  豚に魚にぬいぐるみ。  火にくべられて、悲しそう。  おこげが付いて、おいしそう。  僕は焼きあがった馬を丸かじり。  響くサイレン、始まる鬼ごっこ。  次に火炙りされるのは?  僕らは無邪気に笑って駆け回る。  誰かの脚を故意に引っ掛けた。  誰かが僕の脚を強く掴んだ。  笑って笑って、  捕まったのはたった十。  僕は火炙りされたそれを喰う。

          発光

           世界が発光している。  植物も、街も、人でさえも。  それは僕が彼らを羨んでいるから。  僕は影よりも尚、暗い。  発光したくて塗料を塗った。  雨に流された。  発光したくて電飾をまとった。  すぐに混線してちぎれた。  発光している世界が辛くて、  路地裏に逃げ込んだ。  暗い暗いそこはほっとする。  だけど、そこにも淡い光が。  僕は苛立って、その発光源を探す。  それはガラスに反射した僕の光だった。  僕は自分の手足を見る。  あ

          窮屈

           窮屈だ。  やることなすこと窮屈でならない。  何をしたって飛ぶ叱咤。  何をしたって禁止事項。  何をしたって、何をしたって。  誰にも見られず、逃げ出せる場所。  物語に制限はない。  自由を求め書き始めたそれが、  窮屈になったのはいつからだろう。  僕はそれに何を求めているのか。  自由か、誰かの称賛か。  その考えすら窮屈で、  僕は何もできずに縛られている。

          習字

           習字をしている。  文字の意味は分かっていない。  知らない文字を書かされ続けている。  絵ではない。  文字である。  それくらいしか分からない。  先生が何か言う。  僕には理解不能だ。  きっと、今筆先から生まれるこの文字と同じ言語だろう。  習字をしている。    ふと、気付いたその意味。  僕は怖くなってその文字を塗りつぶす。  先生がこちらを向いた。 

          まな板

           白いまな板の上に鯉が乗っている。  鯉は逃げ出そうと藻掻いているが、  まな板はその平面から腕を突き出す。  白い手で鯉を鷲掴みにして、離さない。  僕はありがたく鯉に包丁を入れていく。 「あ」  僕は声を上げた。  誤って、鯉と一緒にまな板の手を切ってしまったのだ。  何度も謝るが、まな板は許してくれない。  鯉の次に拘束されたのは、僕だった。  誰かが包丁を持って部屋に入ってくる。  僕はこれから捌かれるらしい。

          陥没

           二十年前、ある地域一帯が陥没した。  あまりに深く落ちたので、  誰も探しにいけなかった。  地域住民は誰も帰ってこない。  僕らは毎年、黙祷を続けている。  研究のために僕はその地域に向かう。  一歩足を踏み入れた。  地面が陥没した。  僕は暗闇へ真っ逆さま。  目が覚める。  ――いらっしゃい。  そう言ってたくさんの人に歓迎された。  陥没したその地域は、  今もそのままの姿で地底に残っていたのだ。  地上に登る術のない僕はそ

          分解

           世界を分解してみようと思った。  まずは手元の機械から。  世界と繋がっていたそれは、  金属とプラスチックになった。  次は手近な人間を。  言葉を話していたそれは、  肉と骨になった。  たくさん、たくさん、分解した。  ついでに、この星を分解した。  地面やマントル、ガスや水。  そんなものは、出てこなかった。  ただただ、きらきら光る石になり、  それはやがて、砂になって宇宙に溶けていく。  そんなものになりたい。  最後に僕

          不時着

           僕が不時着したのは、白骨化した星だった。  降り立った地平には白いものしかない。  廃墟、死骸、その景色、すべてが白だ。  生き物は見当たらない。  植物も虫も何もかも。  足を進める。  歩く度に、ぱきんぱきん、と音が鳴った。  骨が折れるような音だった。  かつてランドマークだっただろう建物。  それも異様なほどに白く骨組みだけになっていた。  僕はそれが大好きだった。  知らない星に不時着したと思った。  だけど、この場所であっていたのだ。

          チラシ

           ポストに入ったたくさんのチラシ。  それを手に、僕は家に入る。  野菜ジュースを片手にチラシを繰っていくと、  気になる一枚。  皮専門店のチラシだ。  牛の皮、蛇の皮、猫の皮。  多種多様な皮が安く出そろっている。  チラシの目玉は、人間の皮。  僕はそれに興味を持つ。  そろそろ兎の姿にも飽きてきた頃なのだ。  僕はクローゼットから白兎の皮を取りだし被る。  ぴょんぴょんと愛らしく跳ねながら、  チラシを手に皮専門店に向かった。