文鎮
文鎮は我慢強い。
座った場所から一歩も動かず、書類を押さえている。
「退屈じゃないのかい?」
「退屈ではある」
「じゃあどうして?」
彼は難しい顔をしていった。
「私は私として存在しなければならないからだ」
「どういうこと?」
「例えば私が勝手に動いてしまったら、どうなる?」
僕は考える。
「書類が飛ぶ」
「そうだ。それと同時に私が文鎮で無くなってしまう」
僕は頷く。
彼は続ける。
「そうなれば、私はただの重たい鉄の塊」
眉間に寄った皺が濃くなる。
「ただの役立たずさ」
僕は何と返したらいいか分からず、黙ってしまう。
しばらくしてぽつりと一言。
「だけど僕の友達ということに変わりはないよ」
そういうと、彼は少しだけ笑い、口にする。
「いつか君と旅に行きたい」
彼の言葉に僕は大きく頷いた。
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