「神さまの轍」を見て今どき(?)の青春について考える。

「神さまの轍」(作道雄監督)という映画を見た。

青春×京都×自転車というキャッチコピー。サブタイトルでついている英語は"checkpoint of the life"。

自転車映画といえばそうなんだけれど、あくまで中心にあるのは「青春」で、その青春物語に大きく関わるのが自転車、という映画だ。

以下は、イチ観客の勝手な感想であり解釈なので、ぜんぜん作者たちの意図とは違ってるかもしれない。でもまあ、トークショーで監督自らが見方は自由と言うてはったので良しとして、書いておくことにする。

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この映画で中心に描かれている「青春」は、いわゆる「青春」とはちょっと違う。

青いんだけど、青クサくはない。
描かれてる季節も春じゃなくて、秋だしね。(これはこじつけか)
青春、と聞いてパッと想像するような、挑戦や挫折や克服、恋愛や友情、みたいなものはほとんど描かれない。
ちょっとあるけど、激しい温度ではない。かと言って冷めてもいない。フラットな温度なのだ。

登場人物それぞれが抱える悩みは、他者や社会との関わりではなく、自分の中に向いている。やりたいこと/夢、を持てるかどうか。それも激しい悩みとしてではなく、極めてさらりと描かれている。「モラトリアム」と盛大なラベルを貼るのをためらうくらい、みんなあっさりと悩んでいる。

それは現代的なのかもしれないし、単に作道監督的なだけかもしれない。

中学時代の先生が言う。「夢を持て」と。このセリフを発する時の温度の高さは、ものすごく「青春」的だ。
でも、それは先生世代の価値観であって、受け取る世代にとっては、夢は持つことに対して温度を上げたり、まして必死に探したり見つけたりするもの、とは限らない。

対になるようにつぶやかれる、主人公のひとりのセリフが象徴的だ。
「やりたいことが目の前を通り過ぎるのを待っている。その瞬間、飛び乗るんだ。」(記憶だけで書いてるんでちょっと違うかもですが)

そう、彼(ら)にとって夢とは、あらかじめ定められた道を通って、人生のある地点で、やってくるもの。
そして、出会ったその瞬間に、それだ、と気づいて乗っかるものなのだ。

こう考えると、タイトルにとても合点がいく。
人生は、自分で道を切り開くというより、神さまが引いた轍をたどるもの。
その道の途中にあるのはターニングポイントや分岐というより、チェックポイントなのだ。

運命論的な人生観である。

でもそれは、悲観的なニュアンスじゃなくて、あくまで適切で温かいフラットな温度なのだ。

ひょっとすると、これは、青春に対して熱くなったり、逆に冷めたりもできない若者に対する、作道監督からの、よくある表現を借りれば"応援歌"であり、この作品に通底する温度感を借りて表現を試みれば”提案"なのかもしれない。

今、やりたいことがなくても、夢がなくても、焦らなくていい。
心配しなくても待っていれば、神さまに、その人それぞれの轍に導かれるよ、と。
でも、その轍の上を走る自転車には、自分で乗って、自分で漕ぐんだよ、がんばって漕ぐんだよ、と。

その温かくフラットな目線は、演出にも表れている。
必要以上に説明をせず、過剰な音や演技がない。

登場人物たちは、それぞれ(物理的にも比喩でも)自転車を漕ぎ、チェックポイントを通過して、人生を進んで行く。
主人公たちの過不足なく丁寧に描かれるチェックポイント、とくに過去のチェックポイントとつながるところとかは
抑制が効いているのに、いや、抑制が効いているからか、心を動かされた。
さらに、チェックポイントが描かれないような他の登場人物の人生を想像させるやり方も楽しめる。

冒頭、アインシュタインの言葉から始まる。
"人生とは自転車のようなものだ。倒れないようにするには走り続けなくてはならない。"
この作品は、その後にこう続けた。
"走り続けていれば、神さまに、その人それぞれの轍に導かれるはずだ。”

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ちなみに、作道監督自身、長編映画初監督、ということで、この作品は確実に人生のチェックポイントなんだろう。

スタートは町おこしの短編ウェブムービープロジェクトだったものを、長編映画として完成させ、しかも
全国ロードショーにまでこぎつけた思いと行動力は、ほんとにすごいと思う。

この作品では、粗削りな印象を受けたけれど、
これから、監督の人生の轍の先にはどんな作品が待っているのか、作られるのか、非常に興味がある。

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最初に書いたように、これは全くもって、イチ観客の勝手な感想であり解釈であるので、監督の意図とは違うかもしれない。
しかも、状況が良くないことには、予告篇を見ると「がむしゃらに生きる」とか「ロードバイクに青春を捧げた」とか書いてある。

俺が今どきの青春ってこうなのかも!って思ったことは、実はそんなことないのかもしれない。

俺の解釈は、部が悪い。

が、まあ、それだけ多彩な解釈ができる良い映画ということで。
ご興味あれば、見てみてくださいな。

http://kamisamanowadachi.com


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