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シリーズ日英対訳『エッシャー通りの赤いポスト』台詞集①



【この映画について】

 本作は『愛のむき出し』『冷たい熱帯魚』など、強烈な個性を色濃く反映させた作品を世に送り出し、日本映画界に旋風を巻き起こしたことで知られる鬼才・園子温監督と未知なる力を秘めた「金の卵」として期待される無名役者たち51人の鮮烈な演技バトルを繰り広げる青春群像劇だ。

 園監督は、2019年に心筋梗塞で倒れ、生死を彷徨う危機的状況であった。撮影を予定していたニコラス・ケイジ主演の映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』が製作延期となった。しばらく身体の快復に努めつつ、その間に何かできることがないかと考えていた矢先に、劇作家・演出家の松枝佳紀氏が主宰する「アクターズ・ヴィジョン」からの誘いが舞い込んだ。

 当初は、役者の卵たちに少なくない額を負担させて行うワークショップに抵抗意識が強く、決して前向きでなかった。しかし、「受講者全員が出演する映画で役者たちの実績につながること」「”カメラの前で芝居をする”ことが役者として貴重な経験となること」の二つのメリットが実現できると考え、引き受けた。募集を呼び掛けたところ、わずか2週間でなんと697名の応募者が集まった。園監督が応募者の書類に全て目を通し、審査で478名に絞り込んだ。第一次演技面接で95名、第二次演技面接を経て最終的に51名の役者たちが「選ばれし者」となった。

 本作は、ある映画に出演するために様々な境遇の人々が思いを募らせ、赤のポストに投函し、オーディションに向かう。各々の「俳優の卵」たちが監督やスタッフの前で演技にかける情熱(passion)をぶつけ合う場面として描かれている。

 撮影は2019年8月に都内をメインとして行われた。物語の前半では役者を志す応募者たちがそれぞれの個性を存分に発揮し、演技に力を込める。その姿を見たスタッフたちが映画『仮面』の主役にふさわしい人物を探そうと、厳正なる審査を行うシーンが中心として描かれている。物語の後半では園監督の故郷である愛知県豊橋市に移動して、市内の商店街で大規模なロケーションを敢行した。映画でのクライマックスは出演者51人が集結し、エッシャー通りを歩行する全ての人が主役となるという驚天動地きょうてんどうちのシーンに直面することになる。

「エキストラでいいんか!?人生のエキストラで!」("An extra? Are you kidding!? An extra in your life!?")と大衆に向かって叫ぶ安子。彼女の声は映画を観た者に向かって、「自分の人生の物語の主役はあなただ!あなた自身がつくりだせ!立ち上がれ!!」と呼びかけているに違いない。
 物語では鬼才の映画監督・小林正が真剣な眼差しで出演者の演技を見ているシーンが印象的だ。

 浴衣姿の劇団員を務める女性たち、小林監督の親衛隊である”小林監督心中クラブ”、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人・切子、殺気立った事情ありきの女性・安子、プロデューサーから賞賛されるほどの一頭地いっとうちを抜く有名女優たちなど、様々な経歴の持ち主がオーディションに臨んでいる。

 その役を演じる俳優・山岡竜弘氏は熱気あふれた演技力で映画の世界に人々を引き込もうとする姿が観る者を圧倒する。最後に自暴自棄になって逃げるシーンも映画ファンの記憶に刻み込まれるであろう。

 本作は、世界13の国際映画祭で上映され、第49回モントリオール・シネヌーヴォー映画祭では《観客賞》を受賞するといった偉業を成し遂げた。「原点回帰」と振り返る園監督は、数多の若き俊英たちと数々の映画出演の経験を持つベテラン俳優たちとともに、本作にかける情熱、敬愛、そして遊び心を盛り込んでいる。思わず胸が熱くなる作品である。

【キャスト】

藤丸千 Sen Fujimaru (安子 役)
 1994年生 東京都出身 女優
 ソニー・ミュージックアーティスツ主催オーディション「第4回アニストテレス」特別賞受賞後、CM等に出演。本作が映画初出演となる。その後、「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」(2021)にも出演。

黒河内りく Riku Kurokouchi (切子 役)
 1999年生 東京都出身 女優
 2018年より俳優活動を開始。本作が映画初出演となる。園子温監督の「緊急事態宣言」(20/Amazon Prime Video)の「孤独な19時」、「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」(2021)にも出演。その他の出演作品に「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」(2020)、眉村ちあき氏のMV「スクワットブンブン」などにも出演。

モーガン茉愛羅 Mala Morgan (方子 役)
 1997年生 東京都出身 モデル・フォトグラファー
 16歳からモデルを始め、雑誌や広告等に出演しながらフォトグラファーとしても活躍中。女優業では劇作家・演出家の野田秀樹氏の舞台「足跡姫」「赤鬼」等に出演。本作が映画初出演となる。

山岡竜弘 Tatsuhiro Yamaoka (映画監督・小林 役)
 1982年生 東京都出身 俳優
 祖父が俳優だったことをきっかけに役者を志し、2002年より活動開始。舞台を中心に活動を続け、本作が長編映画で初メインキャスト出演となる。その後、『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』(2021)にも出演。日中合作の短編映画『カップケーキ』(2018)で、アメリカ・ロサンゼルス開催のAFMA Film Festival【最優秀主演男優賞】受賞。2022年、映画『この日々が凪いだら』に出演した。

小西貴大 Takahiro Konishi (助監督・ジョー 役)
 1993年生 愛知県出身 俳優
 主演映画『日本製造/メイド・イン・ジャパン』(2018)で注目され、内田英治監督の『家族マニュアル』(2019)でも主演を務める。その他の出演作に『日本独立』(2020)、「東京ラブストーリー」(2020/FOD)、「全裸監督」(2019/Netflix)などがある。真っ直ぐな情熱と繊細な演技で、多くの監督・クリエイターたちから信頼を得ている。2022年は、5作品以上の公開映画に出演した。

上地由真 Yuma Ueji (アノン 役)
 1987年生 奈良県出身 女優
 高校時代より関西を中心にタレント活動を開始。2007年に歌手デビュー。カーコンビニ倶楽部のイメージキャラクター、ドラマ主題歌、ラジオ番組「上地由真のワンダーユーマン」(文化放送)でメインパーソナリティーを務めるなど、多方面で活躍。本作が初出演。

縄田カノン Kanon Nawata (松本ひろな 役)
 1988年生 大阪府出身 女優
 17歳でモデルとしてデビューを果たし、2011年に女優として活動。主な映画出演作品に『女が眠る時』(2016)、『空の鐘とカタツムリ』(2019)、『ミセス・ノイズィ』(2020)などがある。

鈴木ふみ奈 Fumina Suzuki (瀬奈梨々香 役)
 1990年生 埼玉県出身 グラビアアイドル・女優
 グラビアアイドルとして第一線を走り続ける一方、ドラマ・舞台・映画などで女優として活動する。主な映画出演作品に『ギャングース』(2018)、『麻雀放浪記』(2019)、『仮面ライダー令和ザ・ファースト・ジェネレーション』(2019)など。2023年には『レッドシューズ』『レンタル×ファミリー』に出演。

諏訪太朗 Taro Suwa (映画プロデューサー・武藤 役)
 1954年生 東京都出身 俳優
 30年以上に渡り数多くのドラマ・映画作品に出演する。近年の出演作品に『シン・ゴジラ』(2016)、『貞子』(2019)、『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021)などがある。

渡辺哲 Tetsu Watanabe (エグゼクティブプロデューサー・山室 役)
 1950年生 愛知県出身 俳優
 1975年、シェイクスピアシアターの旗揚げに参加。以降、数多くのドラマに出演。主な出演作品に『ミンボーの女』(1992年)、『ソナチネ』(1993年)、『HANA-BI』(1998年)などがある。

【この映画の英語について】

 映画出演をきっかけに芸能活動を試みようとする才能あふれる若き出演者が会話の大半を占めるため、スタンダードな英語を目指した。作品の台詞には、日常会話で使われる口語表現やスラング(俗語)も多く含まれている。
 若者の間でよく使われる曖昧模糊な表現については会話のやり取りでの文脈から判断し、適切な英語表現に翻訳した。たとえば、巷でよく使われる「やばい」という言葉が台詞の中に盛り込んでいる。それがどのように「やばい」状況なのかを文脈から判断し、英語の語句と日本語の解説をつけることで会話の意図を掴むことができるように細心の注意を払った。
 また、物語に登場するキャラクターの中には方言を使用している。その場合、方言は忠実に訳さず、日常で使う会話表現に適用することを念頭において取り組んだ。
 映画業界で活躍する人々と俳優を目指す人々の会話表現を学習することができる。それにまつわる多数の用語解説も載せている。

ご助言や文章校正をしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。