なでがた猫是

少数派、変わり者、はみ出し者、物好き。そんな人達が感じる「かゆい所」に手が届く記事を書…

なでがた猫是

少数派、変わり者、はみ出し者、物好き。そんな人達が感じる「かゆい所」に手が届く記事を書きたい。変態は嫌だが変態性のある人やモノに惹かれる。無宗教だが宗教性を持った人は好き。色んなことがグレーゾーン。あらゆる境界線の真上に立ってる。

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

メロスの敗北(全編)

●1 その日、勇者は死んだ。 メロスが刑場に転がり込んだ時、かの友は確かに生きていた。彼の叫ぶ声が聞こえたからだ。 その叫びは焼けるほど熱く、凍りつくほどに冷たく、メロスの頭に響き渡った。 友が生きて叫んでいる。この群衆の向こうで。 メロスは全身が総毛立ち、これ以上ないほどに目を見開き、必死にその叫びに応えようとした。 「まて、そのものを殺してはならない。殺されるのは私だ。このメロスだ」 だが疲労は極まり、息も絶え絶えで、どんなに叫んでみても、その口からは嗄れた音し

    • 拝啓、K先生

      私はK先生のことをよく覚えている。 K先生は小学校3年と5年の時の担任である。 正確な年齢は知らないが、おそらくあの当時で30代半ばくらいだった気がする。 K先生は長身で筋肉質、頭は短い角刈りで、浅黒くイカツイ顔立ちをしていた。中学ならいかにも体育教師または生活指導といった風貌で、ジャージがよく似合い、一言で言えばスマートなゴリラといったところか。 記憶の中の彼の顔は大分ぼやけてしまったが、その鋭い眼光、煙草のにおい、腹に響く声は今でも覚えている。 K先生は、その威

      • ダシにされてるだけなのかも。

        都心のとある飲み屋街に小料理屋のような雰囲気の小さなラーメン屋があって、そこで出されるあっさり系煮干しベースのラーメンがとても美味だった。 出汁を取るために大量の煮干しを使っていて、そのスープは臭みもなく馥郁とした香りでなんとも言えないコク深さがあり、何度でも食べたくなる味だ。 そのにぼしスープを無心で見つめながら啜ってたら、美味しさのあまり心がゾーンに入ったのかスープに焦点が合わなくなった。 この美味しさってどこから来るんだろ。 にぼしになった魚たちから取れる “

        • 誰がために記事はある

          不思議に思うんだけど、Noteに何か記事をあげようとするとき、スマホのメモアプリで書き始めるよりnoteの投稿フォームから書き始めるほうが、なぜだかスイスイと指が動く。 メモアプリのほうが色々と使い勝手が良く便利なのに、それだと何故かいつまでも言葉が出てこなかったりする。 noteのほうが考えをアウトプットすること=誰かに見てもらうことを意識するから自然と考えに具体性がでるのかもしれない。 誰かに見てもらうことか。 誰かに見てもらうためなのに、誰にもみてもらえないような

        • 固定された記事

        メロスの敗北(全編)

        マガジン

        • 小説
          2本

        記事

          痛みのある世界に生まれてしまった

          先週末、ちょうど休日の前の晩だったか、休みを見計らったようなタイミングで左下の奥歯が鈍く痛みだしてきた。 その痛みは1日ごとに強まり、週明けの月曜にはいよいよ放置できないレベルまで酷くなっていた。 食べると染みる。飲むと染みる。冷たいもの、熱いもの、甘いもの、何でもかんでも染みる。奥歯の中に感圧式の痛み発生スイッチがあって、口にものを入れるたび誰かがじわりじわりと圧を強めながらそれを押し込んでいるんじゃないかと思う。 いよいよヤバくなってきたので、朝イチで近所の歯医者に駆け込

          痛みのある世界に生まれてしまった

          人生最後の飲み会

          週末、仕事終わりに会社の飲み会があることをそれなりに楽しみにしてる自分がいた。 夕方5時すぎ、業務に辟易して疲労とストレスが限界を迎えつつあっても、3時間後の飲み会のことを考えると、自暴自棄にならずに済むセーフティネットが心に敷かれているように思える。 先の楽しみがある時は頭の片隅にごく小さな明るい小部屋があるような感じだ。心が軽い。 いったい大人数で酒飲んで騒ぐことの何がそんなに楽しみなのか、自分でもよくわからないんだけども。 そんなこんなで気力を振り絞って業務終了

          人生最後の飲み会

          仲の良かった同僚が、辞める最終日に一言も言わず帰った

          Nは私の同期だった。 海外に行く資金を貯めるため、1ヶ月だけの短期契約で入社してきた。 Nはバイタリティーに溢れた人間で、人当たりもよく、コミュニケーション能力が高かった。 私はNを親しみやすく、魅力的な人間だと思った。 お客様と話す時は非常に大きな声で笑い、いかにも信頼のおける、人情味溢れた営業といった態度で接客していた。同期で入った社員とも男女関わらずたいてい誰とでもすぐ打ち解けていた。 Nは私に対しても同じように接した。 この1ヶ月間オフィスで席が隣同士だった

          仲の良かった同僚が、辞める最終日に一言も言わず帰った

          木々や葉っぱを見てると、晴れの日も雨の日も変わらず美しく活き活きとしてる。日光も雨も両方が恵みでどちらも必要だからだろう。人間だって同じはずなのに、ほとんどの人は雨の日に気分が沈む。雨粒に濡れた葉っぱのように瑞々しくいれたらいいのになと思う。

          木々や葉っぱを見てると、晴れの日も雨の日も変わらず美しく活き活きとしてる。日光も雨も両方が恵みでどちらも必要だからだろう。人間だって同じはずなのに、ほとんどの人は雨の日に気分が沈む。雨粒に濡れた葉っぱのように瑞々しくいれたらいいのになと思う。

          「ごんぎつね」のその後の話

          あれは小学校の3〜4年ごろだったと思うが、国語の授業で『ごんぎつね』を読んだ。 有名な話なので知っている人ばかりだと思うが、簡単にあらすじを書くと、 いたずら好きのキツネごん。毎日悪さして村の人たちに迷惑かけまくり。 病気の母を持つ兵十という男がせっかく母のためにとった魚やうなぎを、ごんが逃がしてしまう。 その後兵十の母のお葬式を見たごんは、自分が逃がした魚が兵十が母親に食べさせるために獲ったものだったと知り、後悔する。 罪滅ぼしがしたいと思ったごんは、魚とか栗とか

          「ごんぎつね」のその後の話

          毛玉

          ある朝目を覚ますと、ほんの目と鼻の先、私が頭を乗せている枕の端っこに、白い毛玉があった。 小さめのプチトマトくらいのそれはふわふわして、誰かがそこにそっと置いたのか、それともまるで長い時間そこにあったのか、使い古した水色の枕の上にちょこんと乗っていた。 私はその真っ白いふわふわの毛玉を、目覚めたままの横向きの体勢のままぼんやりと眺めた。 埃とか糸くずの塊じゃなく、なにか生き物の毛玉のように思えた。 綺麗だな。 飽きもせずじっと見つめる。寝起きの頭も手伝ってか、私はそ

          間に合わなかったメロスのその後の話⑥

          メロスの敗北 最終話 ●●●●● ●6 メロスは、夢を見ていた。 目の前に生きて縄を解かれたセリヌンティウスがいた。間に合ったのだ。メロスは万感の思いで友の元に歩み寄り、その手を握りしめた。目に涙が浮かんだ。 「私を殴れ。力いっぱいに頬を殴れ。正直に言う、私は途中で一度君のことを見捨てようとした。あの悪い男を許すわけにはいかない。どうか殴ってくれ」 セリヌンティウスが頷き、周囲がぎょっとするほど力を込めて頬を打った。頑強な石工の腕っぷしだ。たまらず倒れるところを友は

          間に合わなかったメロスのその後の話⑥

          間に合わなかったメロスのその後の話⑤

          メロスの敗北 第5話(全6話) ●●●●●5 先生と二人になったとたん、私はこらえきれず涙を落としました。先生は格子から腕を伸ばし、彼の肩を叩いて慰めてくれました。 私は先生を引き留めたい気持ちをこらえました。未練がましい言葉が出てきそうになるのも胸の内に押し込めました。 ネストル様の話で私は先生の覚悟を知りましたから、共に過ごせるこの最期の時に、先生を困らせるようなことはしないと固く心に決めていました。 私は乱暴に目をこすって、泣くのを止めました。これから聞くのが先

          間に合わなかったメロスのその後の話⑤

          間に合わなかったメロスのその後の話④

          メロスの敗北 第4話(全6話) ●●●●4 とうとう明日だ。 メロスはきっと約束の刻限までに戻ってくる。そして人の真実の存するところを王に見せてくれるだろう。 そうして、 そうして……磔にされる。 私の友が、明日、死ぬ。 まさかこんな風に別れが来るとは夢にも思わなかった。 この二日間ひどく腹を立てたり疑心と恐怖に怯えたりと冷静に考える余裕がなかったが、今このときになってようやく、明日友を失うのだという事実が押し寄せてきて、自分がどのような心持ちでそれを受け止めればいい

          間に合わなかったメロスのその後の話④

          『メロスの敗北』 あらすじ

          “もしも『走れメロス』の主人公メロスが約束に間に合わず親友を死なせてしまったらどうなっていたのか” を、パロディではなくシリアスなアナザーストーリーとして書きました。 メロスだけでなく人質となる親友セリヌンティウスとその弟子フィロストラトスの人物像や心理にも焦点を当て、原作で語られなかった親友の人質として過ごした3日間とその死の翌日の出来事を、原作に登場する他の人物たちを交えて、エピソードを膨らませました。 間に合わない=バッドエンドという話ではなく、別な希望があるという

          『メロスの敗北』 あらすじ

          間に合わなかったメロスのその後の話③

          第2話↓ メロスの敗北 第3話(全6話) ●●●3 メロス、私の口から直接君に伝えられぬことを許してほしい。 私達は本当に佳き友であった。早くに親をなくし兄弟もいない私にとって、君は友であり兄弟そのものだった。 石工になるため君の故郷を離れるとき誓いあったな。どれだけ離れても、何年会わずとも、友に恥じない生き方をしようと。 君はずっと真っ直ぐな男でいてくれたのに、私はそう在れなかった。 君と再会したとき、実をいうと私はひどく動揺していた。真夜中にいきなり兵隊が訪ねて

          間に合わなかったメロスのその後の話③

          間に合わなかったメロスのその後の話②

          メロスの敗北 第2話(全6話) 第1話↓ ●●2 日没からさらに時間が経った。 メロスはいよいよ抜け殻のようになって、座り込んだまま放心状態で地面を見つめていた。 フィロストラトスもまたずっと傍で押し黙って立っていたが、あるとき意を決して口を開いた。 「メロス様」 メロスは答えなかった。 「帰りましょう。私達の家に来て下さい。食べ物もありますし、寝床もあります。今はまずその身体を休めなければ」 私が、友の家に行けると思うのか。 殺した友の家に、殺したその夜に上

          間に合わなかったメロスのその後の話②