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神さまのスカートの裾

海の遠くから聞こえてくる
声にならない声を
意味にならない
音の連続を
知らない土地から
吹いてきた風を
顔にびゅうと浴びている

海に質問をするのは
いつも
僕らがどのように
はじまったかである
僕らは存在に対して
意味ばかり求める
理由ばかり作ろうとする
存在というものは
目に全て見えるものと
思い込んでいるのだ
理由なきものは
存在できないと
信じているのだ
それが全てと
思っているのだ
肥大した思想は
人間を複雑混迷にした

はじまりの話をするときに
いつも海は黙ってしまう
何もいうことがないからだ
多くを語る彼らだが
そこにあることだけが
語りうる全てであるから

足元に押してきては引いていく水
途方もなく人間の単位を超えた連続
さざなみ かみさまのスカートの裾

僕らが言葉を交換するなら
海もその海と生命とで
交信するだろう
疏外された僕らだけが
ずっとずっと考え続けている

誰かが降りてくる
遠い沖
波と波の間に
白いスカートの裾をつまんで
酸素や窒素のことを忘れて
星の色が青だったことを思い出す
空がここまで降りてくる
僕らは言葉を手放そうとして
しかしふと逡巡した顔で
言葉が溢れかけた手を握り直す
だから人間だったのだ

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