見出し画像

「冒険の書 AI時代のアンラーニング」孫泰蔵:著(@日経BP)を読みました!

「冒険の書 AI時代のアンラーニング」孫泰蔵:著(@日経BP)を読みました!

 発行は2023年の2月。ちょうど、Chat GPTが登場して瞬く間に利用者が1億人を超えたそのタイミングで本書は発行されています。図書館での長い長い予約の期間を経てようやく読むことが出来ました。AIが私たちの仕事を代行してくれる時代にどのように生きて行けばいいのか?の本質が本書には書かれています。それはスキルを獲得するという短期的なことではありません。もっと根源的な人間が善く生きるための方法への孫さん自身の模索と探求の旅がリアルに描かれています。もっとも根源的な価値を見いだし、その先を目指して生きよう!ということ。人生の最期に孫さんが伝えたい言葉は

「世界は自ら変えられる」

ということでした。ここで、孫さんは、マハトマ・ガンジーの言葉を引用されているのですが、ここでは

「世界を自分の思うように無理やり変えていくということではなく、その世界と共存していくために本当に大切なものを守りながら自らが変わっていくことである。」

と書かれています。
この自己変革をすることが大切であると。そのためには「アンラーニング」というプロセスを経て学びなおす勇気を持つことが重要であると書かれています。

 孫泰蔵さんはソフトバンクの孫正義さんの弟にあたる方。東京大学の経済学部を出てあのゲーム会社のガンホー(パズドラとかで有名な会社)を設立されました。現在は新たな教育事業を始めることをおやりになっています。堀江貴文さんと福岡の久留米大付属の学校の同級生らしく現在51歳。実は、先日、私が尊敬する糸井重里さんが運営する会社の「ほぼ日」の株主総会に孫泰蔵さんがいらっしゃるという案内があり、とても行きたかったのですが大阪から東京へ日帰りが難しく断念しました。孫さんと糸井さんとの過去の対談は以下の「ほぼ日」の記事にあります。


 孫さんは50代を迎えて、後世に何を遺せるのか?を真剣に考えておられます。その想いが本書には結集されています。そういう生き方を見て本当にカッコいいい生き方ってこういうことなんやと教えていただきました。
本書の中で「メリトクラシー」という言葉が出て来ます。ベネッセ総合研究所のウェブサイトからその意味を引用させていただきます。(以下)

メリトクラシーとは、もともとは、生まれや身分によって地位が決定された前近代社会から個人の業績(メリット)によって地位が決定される近代社会への転換によって広がった原理である。 それは、生まれや身分によってではなく能力と業績によって社会的な地位が諸個人に配分されるという、近代的社会編成原理を指す概念として用いられてきた。(以上)

 いわゆる能力主義を極端に推し進めたもの。ここには優性思想などの考え方なども含まれており、これでは決して社会が豊かになっていかないのでは?と孫さんは考えておられます。多様な人たちが一堂に会して対話を通じて学び合う社会。そのような教育機関を孫さんは目指しておられます。その環境を後押ししてくれるのが生成AIに代表される人工知能です!メリトクラシーの究極のカタチがAIであるともおっしゃっています。孫さんはAIのこれからのますますの発展を考えると、より多くの知的作業がAIに代替され、しかも私たちの能力を大きく超えるところまで発展してくだろうと考えておられます。そういう時代だからこそ今までの学校教育では不全に陥ることが多々あるということを孫さんは感じておられます。いわゆるメリトクラシーが効かなくなる状態です。

 そもそも「学び」とは楽しく自由なもの。大学院などで研究をし続けている科学者の先生たちを見ると、その研究が楽しくて仕方がない、新たなことを学び続けるのが楽しいという人たちにたくさん出会います。しかし、今の初等・中等教育は明治時代から変わらず、ある規律の中で全員横並び的に画一的に育てるという環境を作って来ました。孫さんはそれで本当にいいのだろうか?と考えておられます。本来楽しく自由であったはずの「学び」を復権することがこれからのAI時代を生きていくためには必要なことなのではないか?とおっしゃっているのです。
 
 本書の中でも一番驚いたのは「学び」=「遊び」=「仕事」という概念。このことを私も新人研修や学部生の前で何度も言って来たことでした。それとまったく同じことを孫さんが書かれており、そのことに本当にびっくりしました。ただし、このような感覚で生きている人は本の一握りの人たちだけであるとおっしゃっています。芸人さんやミュージシャンなどのアーティスト、また研究者の方々などなどは、それが当てはまるのかも知れないですが多くの人は「仕事」と「学び」と「遊び」(余暇)は分断されていると。そうなると「楽しさ」とか「自由さ」は半減してしまいます。孫さんはもう一度、その「学び」ながら「遊び」をする教育を復権させたいと思っておられます。

 そのために、私たちは「アンラーニング」ということを実行しないといけないということです!それは今までの知識や固定概念を捨て去ることと言ってもいいのではないでしょうか?そうしてまっさらな状態で学び始める。孫さんはその「アンラーニング」と「ラーニング」を繰り返すことがこれからの時代にとても大切なことであるとおっしゃっています。「ラーニング」に関して、今はYouTubeなどもあり様々な環境で学ぶこともできますが「アンラーニング」の方が難しいとおっしゃっています。そのためには「アンラーニング」の仲間たちが集まってその多様な仲間たちが集まって対話することから「アンラーニング」が始まるとおっしゃっています。この「アンラーニング」って芸術家の方々は日常的に実行されているのかも知れないですね!破壊と創造の繰り返しです。まさに「芸術は爆発だ!」ですね。

 また、本書の中でデイル・カーネギーの「人を動かす」という書籍に関して言及している箇所があります。(P186-)この本は多くのビジネスマンが読んでいる本ですが、その中に「アプリシエーション」という言葉についてのことが書かれているそうです!引用すると「Give honest,sincere appreciation.」(誠実に、心をこめて、相手の良さを認める)という文章だそうです。「アプリシエーション」には英語で「I appreciate your help.」とか「I appreciate it.」などの感謝を表す丁寧な表現があります。実は、その「アプリシエーション」の意味には「鑑賞する」というもう一つの意味があるそうです!これは「ある芸術作品などを見て、その中で描かれているいろんな意味や考え方を知ることで、そこから作品だけでなく、その創作者をレスペクトする。」ということにつながっていくと書かれていました。感謝しお互いに尊敬しあいながら切磋琢磨していく関係、それを対話を通じて行っていくことこそがこれからの孫さんが考える理想的な学び=教育の仕方なのであるというようなことを語っておられます。

そうした環境の下で自らの頭で考えてきちんとした問いが立てられるようになっていけば環境がいかに変化しても幸福に善く生きることが出来るということを孫さんは何度も強調されていました。

本書の文章はとても読みやすく中学生以上なら、普通に読み進められるように書かれています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?