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「口ベタ企業への処方箋」有澤卓也:著(@幻冬舎)を読んでみました。

書籍「口ベタ企業への処方箋」を読んでみました。

 正式な題名は「口ベタ企業への処方箋 企業価値を発掘するブランド戦略」というものです。

 著者は私が20代半ばから一緒に仕事をさせていただいていた有澤卓也さん。株式会社ASTRAKHANという会社の代表取締役をおやりになっています。有澤さんとの出会いは20代半ばに私も有澤さんも通っていた大阪の宣伝会議のコピーライター養成講座時代の受講のご縁などもあり、一緒に大きな広告主のキャンペーンの企画をすることになりました。私も、その頃はまだプロデューサーになったばかりの頃で、ガツガツとした感じで、とにかくおもろい仕事をやりたいという若輩者でした。毎月、業界誌である「コマーシャルフォト」や「広告批評」に自分の手がけたCMが取りあげられることを願って制作業務を行っていました。

 有澤さんは私と同世代なので、仕事を頂ける方であるお客様だったのですが、発注者と請負業者という枠を超えた関係となっていきました。その関係が生まれた最大の本質は一緒に膝を突き合わせて行った企画作業にありました。いかに面白い企画を考え出し、面白いキャスティングを行い自分たちでワクワクする仕事を創っていくのか?若い時期だったのでそこには効率性とか合理性などというものは一切なく、自分たちがある意味納得するまで、本書にも書かれていましたが「肚落ち」するまでその作業は延々と続きました。

 と、同時に、今思うと、自分の当時の引き出しの少なさや、スタッフィングの弱さ、深く思考する能力が欠けていたと反省しきりです。ただ私たちの熱意だけがそこにあり、何かを突破していきたいという無茶な思いだけで突っ走っていきました。そんな時代から仕事を一緒にさせていただき現場のベタなところから、タレント事務所との交渉や折衝、権利関係の締結などの業務も並行して行っていきました。その時間の積み重ねが、私と有澤さんとの関係だったと思います。

 本作では、その有澤さんが、いまの時代をベースに「口ベタ」企業について語っておられます。企業の「口ベタ」をどうすればいいのか?ということを現場での経験などを基に具体的にお書きになっています。
 実際「口ベタ」企業は本当にたくさんあります。東証プライムの上場企業などを見ても、見たことも聞いたこともない企業がたくさんあります。上場企業の数が4000社前後もあるので当然です!さらには非上場の企業や中小企業はもっと多くなります!ざっくり調べると中小機構のサイトには約357万社とあります。

※参照元 以下


 上記のことを鑑みても「口ベタ」企業は本当に多く存在するということになります。
 日本の人口ピラミッドは棺桶型とも言われボリュームゾーンである50歳前後の団塊ジュニアをピークに減少し続けています。この事実は揺るぎないものでこれから若年労働者が確実に減少していきます。海外からの移民政策に関しても我が国は積極的ではないので、これから確実に人手不足が加速していきます。その時に、新たに入社する人が何故この会社を選ぶのか?ということが大切になって来ます。入社したいという理由に「その企業の事を知っていて好きな企業だから、面白い企業だから」というのが確実に企業競争力に影響を与えていく時代になるでしょう!そんな時代だからこそ積極的に自社の情報を発信していくことが大切である。そして、その発信は「行き当たりばったり」ではいけない。ちゃんとした理念とビジョンを持ってそれをわかりやすい言葉のステートメントとし発信する。同時に、魅力的な企業ロゴなど(あるいは社名)などとともに外に開かれていくことがこれからの企業にとって大切なことである、と言うことが書かれています。 

 外に開かれたからこそメジャーになっていくという事例はエンタメの業界を見るとわかりやすいのではないでしょうか?例えばYOASOBI。今年は「アイドル」という楽曲で日本だけでなく世界中で有名なミュージシャンとなりましたが、彼らはボカロPとして作曲をしているAyaseがYouTubeなどに楽曲を発表していました。その時、ヴォーカリストとして幾田りら、ことikuraがAyaseと出会いました。その二人の共同作業によってYOASOBIが生まれコロナ禍の下ヒットし、いまや世界の人が知るところとなって行きました。数年前までは業界の人以外には無名だった二人。でもこうした発信を行うことでYOASOBIというミュージシャンのブランド価値が爆発的に増大していったのではないでしょうか?

 このことを「口ベタな企業」に置きかえるとどうでしょう?発信が弱いだけで大きな「実力」や「価値創造力」を持っている企業、あるいは「熟練した高度な技能を持った職人」や「クリエイター」などが何もしないでそれが上手く使われていないということはこの国の経済界の大きな損失なのではないでしょうか?

 本書には、以上のようなことを少しでも感じておられる会社の経営者や会社員の方々には必読の書ではないでしょうか?あるいは、今のままのやり方でいいんです!と言って過去の成功事例だけを信じているだけの企業には、それで本当にいいんでしょうか?ということを投げかけるという意味もあるテキストなのかも知れません。どちらにしても、この「処方箋」で持続可能な企業にしていくという会社経営の最大のミッションを行う企業が増えて行ければと思いました。そのことが結果、我が国の産業界の価値を上げていくことにつながるのではないでしょうか? 

 実際に、有澤さんが経営している制作会社である株式会社ASTRAKHANも、グラフィック広告の制作会社から始まり、TVCM、WEB制作、WEB CMなどとその範囲を広げていかれ、2011年の東日本大震災以前からソーシャルな課題を解決していく事業に挑戦されるようになりました。2000年代の最初には、制作会社がソーシャルの課題解決の事業をするなんて!という意見もあったかも知れません。しかし、2011年に東日本大震災が発生します。有澤さんの会社はそこで三陸海岸の漁業従事者だった方々に新たな仕事を創り課題解決の方法を実行します。その事業が「浜のミサンガ」として話題になりました。

結果、この年のACC賞で「浜のミサンガ『環』/三陸に仕事を!プロジェクト」(得意先:三陸に仕事を!プロジェクト実行委員会)が審査員特別賞を受賞されました。以下PDF(P15参照)
https://www.acc-cm.or.jp/lib/pdf/acction/kaiho141.pdf

 このように、有澤さん自身が自社を通して「口ベタ」企業にならない取り組みを時代の変化に合わせながら実行されています。制作会社はこれまでは「縁の下の力持ちで良い」「黒子企業として支えていくのが善しとされている」という時代もありました。しかし、今はそんな時代ではありません。広告主自身が新たなクリエイターとの出会いを探しておられているというのも事実です。有澤さんの会社でおやりになっている、それらの事が複合的に結びつき、結果、有澤さんの会社に新たな顧客を呼んでいるのではないでしょうか?そのいくつかの具体的なケースが本書では赤裸々に記述されています。
 お正月休みに企業のことを考えるなどという意味でも本書はとてもわかりやすい入門書となっていると思います。
そして、今の時代だからこそ「口ベタ」はやめようと実感させてくれたのでした。
12月29日からアマゾンとかで発売が始まりました!店頭に並ぶのは1月4日以降だそうです!


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