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髙田裕大 アーティストトーク(12/16)

公募展「清須市はるひ絵画トリエンナーレ」の受賞者を個展形式で紹介する「アーティストシリーズ」。第102回目は、2021年に開催した「清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ」で審査員賞[杉戸洋]を受賞した髙田裕大さんの展覧会です。
今回のブログでは、12/16に開催した髙田裕大アーティストトークの様子を一部ご紹介します。

髙田裕大さん

・話し手:髙田裕大(本展出品作家)
・聞き手:加藤恵(清須市はるひ美術館 学芸員)


加藤:本日はたくさんの方にお集まりいただきありがとうございます。
最初に自己紹介も兼ねて今回の展示について教えてください。

髙田:もともと絵が好きで、高校は美術科ではなかったのですが美術の先生に教えてもらい進学した美術大学で日本画という手法に出会いました。在学中から自然物を描くことが多かったのですが、現在は測量の仕事に携わっていてそこで見た景色や経験が今の制作に繋がっています。

加藤:大学で日本画を専攻されたということですが、髙田さんの作品はぱっと見ただけではどういった画材で描いているのか分かりにくいのではないかと思います。加えて、画風が漫画的と言うかキャラクターのようで、それがさらに日本画のイメージから遠いと感じられるようにも思います。こういった表現に至った経緯は?

髙田:自分では特別なことをしている意識はないんです。自分が学んだ金沢美術工芸大学では絵具を厚く盛る描き方を教えられましたが、昔の絵巻物や日本絵画*といわれる作品と比較すると全然別物のように感じていました。
今回の展覧会を観に来てくれた知人から「なんで(作品に)ラメを入れたの?」と言われたのですが、岩絵具の粒子がキラキラ光ってラメのように見えたのだと思います。

加藤:岩絵具というのは、もとは天然の鉱物を砕いた細かい粒子状の顔料ですね*。それを膠液という動物性の接着剤で溶いて絵具として使用するのが日本画では一般的かと思います。

髙田:実は今の制作では「アートグルー」という樹脂膠*を使っています。
もちろん動物性の膠も使っていたのですが、膠は腐るスピードが速く普段の仕事のペースと制作のペースがあわなくなってきて…。今回出品している《キジ》と《ヨウシュヤマゴボウ》は膠を使って描いたと記憶していますが、大きなサイズの作品はアートグルーを使っています。

《キジ》2019年
《ヨウシュヤマゴボウ》2019年

加藤:今回の展覧会では「続 測量の日々」というサブタイトルが付いています。測量のお仕事で経験したことを作品にされていますが、まず「測量」の仕事について教えていただけますか?

髙田:自分が携わっている仕事では、土地の形と大きさを測る、明確にすることが主な業務です。誰かが家を買う時や、土地を親から相続する時などに関わることになります。過去の資料を遡って土地の境界を調査するのですが、その一連の業務のひとつとして山林に入ったりします。

加藤:実際に作品に描かれるものは、その場面に遭遇した時の気持ちや感情など、髙田さんの主観的な視点で描かれているように思います。結果的に測量の仕事の内容とは離れた表現になってるようにも見受けられます。

髙田:自分は調査士の補助者という立場で現場の仕事を任されているのですが、現場でしか見えない景色、自分しか知らない風景があるんです。しかし、測量の仕事で必要なのは土地の正確な図面と面積であり、自分が見た景色は誰も知らないまま埋もれていくことになる。それが勿体ないと感じて、形に留めておきたいという気持ちで描き始めました。


ドローイングについて

ドローイング(奥壁)

加藤:ドローイングでは髙田さんが測量の仕事を通して遭遇したできごとやその時の気持ちがよりダイレクトに伝わってきますね。

髙田:ドローイングは現地でいい石ころを拾って家に持ち帰って飾るイメージです。なので、できる限り色やかたちを変にこねくり回さず描こうと思っています。その石ころをきれいに磨いたのが絵画作品という捉え方をしています。

加藤:「測量」という言葉から浮かぶかたい印象とは相反するようなイメージが描き出されていますが、実際に現地で遭遇する風景やできごとと描くことをどのような意識で繋げているのでしょうか?

髙田:できるだけその場面から受けた印象をダイレクトに描くことは意識しています。そのため取り組み方が粗くなってしまうこともありますが、それも自分のストックになっていく。現地と帰って来た時の状況や気持ちは違うので、うまくいかない時もあります。仕事から帰ってきた時に描けず、ストックしておいたものはずっと取って置けるわけではなくて、あとで思い出したら大したものではなかったと思う時もあります。

加藤:そうした取捨選択もしながら作品化しているんですね。

髙田:はい。また、測量をもとにした作品だけではなく、違うテーマの作品も同時進行で制作しています。


コンピュータ上で描いた作品について

髙田:測量の仕事では、現地調査から帰って来たらコンピュータ上で図面を引きます。測量をテーマにした作品や展覧会を考えた時、こういった図面作成の技術を制作に落とし込めていないのは何か欠如しているように感じたんです。
具体的には地図上で緯度経度の代わりとなるXY座標を使って描いています。《石》は上野の森美術館で作品を出品した際に制作したものですが、上野恩賜公園をベースにしています。
(ドローイングにみられるように)自分の制作してきた絵は個人的なもの、想像を描き出したものが多かったのですが、この図面の作品では実際に存在する土地の座標を使って描いているので社会と直接関われる表現だと感じています。

《石》2021年


《ダンゴムシ》2023年

加藤:《ダンゴムシ》は今回の展覧会にあわせて、清須市はるひ美術館周辺の地図をもとに制作された作品ですね。

髙田:はい。1/100の図面になっているので100倍したら実際の土地の寸法ということになります。《石》から変化したところは、折れ点の座標点名を表記して図面っぽさを残したところです。これらの作品は、航空写真をなぞって机上のコンピュータで落書きをするような、いわば「机上絵」と捉える事もできるのかなと思ってます。


モルタル造形について

《測る人》2023年

加藤:モルタル*に油性塗料で着彩した作品も出品されていますね。

髙田:モルタルは測量の仕事で境界の杭を埋めて固める時に使うので自分にとって身近な素材と言えます。
境界は動かないと言いますが(ドローイングの《杭さがし》にも描かれている通り)実際には動いていることもあります。土の中は見えない。先ほどの航空写真で見るXY座標では分からない部分になります。

《杭さがし》2023年

髙田:実際に土の中から掘り起こした杭のイメージを描いたものが《under the ground(boundary marker)》で、入口の《under the ground2》から継続したテーマの作品になります。

《under the ground (boundary marker)》2023年
《under the ground2》2016年

加藤:測量の仕事と作品制作を繋げていく中で、実際に自分の目で見て体験したできことだけでなく、宇宙から土地を眺めるような視点や、実際には見えないけれども地中の世界を想像するような表現など、共通のテーマを通してさまざまな観点で制作された作品を一望できる展覧会になったのではないかと思います。

―――

*日本絵画:江戸時代が終わるまでの絵画。対して、明治以降の日本の伝統的な近代絵画を「日本画」と呼ぶ。
*岩絵具:近代以降は人工的に作られたものが普及している。
*樹脂膠:アートグルーではアルカリ可溶性アクリル樹脂がベースとなっている。
*モルタル:セメントと砂、水を混ぜ合わせたもの。

【参考文献】
・荒井経『日本画と材料-近代に創られた伝統』武蔵野美術大学出版局、2015年
武蔵野美術大学造形ファイル


来場者からのご質問

___《ヘビの壺》が気になりました。

髙田:実はこの作品は測量の仕事を始める前に制作したものなのですが、今回の展覧会にも繋がると考え出品しました。
アトリエが田舎の古民家なので、これまでも庭の手入れなどを通してふれてきた自然や、あるいは「火」など普遍的なモチーフを対象にして、対象を遠くから眺めるような俯瞰的な感覚が強かったのですが、今回の展示作品群は生活の大半を占めている測量の仕事をモチーフにしているので「今、ここ、自分」というかなり限定的なものになってます。
かなり対象の近くまできてしまった感覚がありますが、それについてはそういう時期かなと思っています。今後また変わっていくかもしれません。

《ヘビの壺》2015年

___描く風景やモチーフは写真に撮ったものを描いていますか?
あるいは(測量の)現場で作業をしている自分の頭の中や身体感覚を描き出している感覚でしょうか?

髙田:写真は撮っていません。作品制作はその感覚に近いと思います。

___《開拓者》の人物は自分自身ですか?また、鑑賞者に対して正対している理由は何かありますか?

髙田:自分を描いたつもりはなかったのですが、過去に作品を観た人に同じことを聞かれて、考えてみたら自分の体験をもとに描いていった絵なので限りなく自分だなと思うようになりました。
正対についてはポージングに対する意識があります。測量は基本的に2人1組でおこなうので、作業中に相手と目あわせの状態が多々起こるんですね。そういった経験が絵にも表れているように思います。

左・中央・右すべて《開拓者》2021年

___人物の身体が長く顔との比率に非現実的な印象を受けました。何か意図があるのでしょうか?

髙田:これは感覚的な問題で、自分がそれでいいかどうか判断して作品化しています。

加藤:このトークの前に髙田さんと打合せする中でお聞きしたのですが、ドローイングだけでなく絵画作品も下絵を描かずそのまま描き進めていくそうですね。

髙田:この描き方でも許せるようになったというか、自然とそうなっていきました。運動(スポーツ)に近い感覚があって、手を動かしながら自分が思い描く状態にもって行けるかという意識があります。
また、細かい準備をすると絵が固くなってしまう問題もあり、ドローイングだけでなく絵画作品でも直接描くことで生きた線が描ける感覚を大事にしようと思うようになりました。いつかまた急にしっかり下絵を準備してから描き出すこともあるかもしれませんが。

加藤:《開拓者》の石の影の表現では、先に描いた石のかたちを追うように影を即興的に描いていくというお話も面白いなと思いました。

髙田:いったん画面全体に手を入れてから影や細かい部分を描いていくのですが、その行程がコンピュータゲームに似ていると思っていて、一回クリアしたステージをもう一度プレイすると敵が増えていたり同じステージなのに変化しているような感覚です。
単純に影を付けるとリアルに見えるという節もありますが、影があることで隣同士や前後関係が画面の中に生まれてくることを面白く感じています。

アーティストトークの様子

髙田裕大さん、ご参加のみなさま、ありがとうございました。
2回目の髙田裕大アーティストトークは2024年1月6日(土)に開催します。
1回目とは違ったお話になる予定ですのでぜひぜひご参加ください。