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ばあばは、ただただ祈ってる


猛ダッシュで逃げました。
いや、逃げたというか立ち去るというか、とにかく自転車でしたので、目一杯こいででその場を離れました。


どうしよう
いかんかったかなぁ
益々怒らせなかなぁ…
迷惑だったよねぇ
余計なお世話だったよねぇ

でもさぁ、ほっとけなかったんだよ


買い物の帰り道でした。
自転車の前カゴに買い物を載せて
ゆったり帰っていました。


道端におんぶ紐で赤ちゃんを抱っこしているお母さんと4〜5歳ぐらいの女の子が立っていました。

お母さんが怒っていました。
怒鳴っていました。
「疲れた、疲れたって
あんたが公園に行きたいって言ったんでしょ!
みんなで遊んだんでしょ
それで疲れたって言って泣いたって知らんが!
なんがつまらんのよ
つまらんなら行きたいなんて言わんどいて!」


お母さんが赤ちゃんを前抱っこしていました。
だっこ紐からほんの少し頭が見えるぐらいだから、生後2〜3ヶ月でしょうか?
首が座っていないようで、お母さんは抱っこ紐の上から左手を赤ちゃんの体に沿うように添えて、右手にはいろいろ入ってそうなマザーバッグ。

女の子は白いワンピース、髪が長くて下を向いているので様子は分かりませんが、たぶん涙ぐんでいるのでしょう。
両手を握りしめていました。


あまりのお母さんの声の大きさに私まで
怖くて、そーーと通り過ぎたのですが…


なんかね、ほっとけなかったんですよ。

きっとお母さんも女の子も疲れてただけで、ちょっと余裕がなかっただけなんですよ。

私の勝手な想像なんだけど

お母さんは赤ちゃんを産んで
まだ授乳をしているだろうし、睡眠不足だろうし体力も下がっている時期。
長いゴールデンウィークの最中
こんな小さな赤ちゃんを連れて旅行にも行けず
遠出もできず、とにかく毎日赤ちゃんのお世話に追われている

女の子は、きっといつも遊ぶ友達が親とお出かけしてて、遊び相手がいなくてつまらない。
家にいてもつまらない
でも一人ではどこにも行けない。

女の子が公園に行きたいと言えば、
親としては連れて行こうかな、と思うよね。
でも、ほんのちょっとの距離でも
ほんのちょっとの時間でも
赤ちゃんを連れてお出かけするとなれば
お湯、ミルク、タオル、おむつ、お尻拭き。
更にお砂場遊びの道具からなんやかんや。

いろいろあるんよ、持っていかなければならないものが。

それに、外出前に赤ちゃんに授乳して、おむつを変えなきゃだしね。

「ほんのちょっと」なのに
もう外出前の準備から疲れる。

女の子はきっと公園に行けば楽しいと思ってたんだろうね。
でも、砂場で遊んでも滑り台をしても
お母さんの手は赤ちゃんを抱っこしている。
もしかしたら、強い日差しから赤ちゃんを守るために木陰のベンチに座っていたかもしれない。

つまんないよね。

ほんの数ヶ月前までは
女の子はお母さんと手を繋いで歩いていただろうに、今は赤ちゃんを抱っこしているから手も繋いでもらえない。

甘えたかっただけかもしれない。
お母さんと手を繋いで帰りたかっただけかもしれない。

だから、「疲れた」と言ったのかもしれない。
疲れたと言えば、手を繋いでくれるかもしれないと…
赤ちゃんに添えた手を、私に向けてくれるかもと。

ばあばの勝手な想像です。

でも、もう想像したら止まんなくてさ。
ほっとけなかった。

200メートル先に自販機があるので、そこでアクエリアスを買って引き返しました。

怒っている人に声をかけるって
とてもとても勇気がいるのですね。
めちゃくちゃ怖かったです。
でもね、ばあばは頑張りました、この時だけは。

「あの〜、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが…」
と、まるで道を尋ねるかのように。

ここで、お母さんに睨みつけられたら
すみません!って逃げようと思っていましたが、意に反してお母さんは何故か「はい、なんでしょうか?」とごく普通に答えたんですよ。
人間の感情ってこんなに一瞬で流れるように変わるもんですかね?

まあ、そこでしめたと思って
「あの〜、ちょっとだけ気になったんですけど、娘さんはもしかしたら脱水症状かもしれません。私は、医療関係の仕事をしていて、なんとなく気になったもんですから。」

「これ、そこの自販機で今買ってきたんですけれど、よかったらどうぞ。アルコール消毒綿もありますから。(コロナ禍でいつも携帯用消毒綿を持っています)  よかったら、娘さんに飲ませてください。」

嘘です。
もう、精一杯の嘘です。
ばあばは医療関係の仕事とは一切関係ありません。通りすがりで脱水症状なんて判るはずもありません。

ただね、お母さんが「えっ?」って顔をしてんです。

だから
「この時期は意外と熱中症になりやすいんですよ。余計なお世話ですけれど、お気をつけて」

女の子に「はい、どうぞ」
って手渡して受け取ったのを確認したら
もうめちゃくちゃ猛ダッシュで
逃げるように立ち去りました。


心臓バクバクです。


女の子が飲んだのかわかりません。

でも、お母さんが怒鳴り続けるのを遮ったのは確かです。


余計なことをしてごめんなさい。
でしゃばってごめんなさい。
要らぬお世話だったかもしれない。
もっと怒らせたかもしれない。

それでも


お母さんがちょっとだけ冷静になってくれたらいいな。
女の子が泣き止んだらいいな。


ばあばは、祈ることしかできない。





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