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島暮らし。グラジオラス

 島の北辺に畑を持っている西さんは、グラジオラスを作っていた。季節が来るとつぼみのうちに収穫して出荷する。
 グラジオラスは色が命、ガラスハウスでなく、露地で作っていた。
 だいぶ昔、だいぶん昔のことなので、今とは事情もだいぶん違うと思う。あの時見た景色が忘れられない。それでここに記してみた。

 出荷用だから、夏ではない。たぶん、11月か12月。

 出荷は手間と時間がかかる。市場に一度に持ち込まなくていいように、時期をずらして植えるのだけど、天候が相手、一斉に咲き出してしまった。島はグラジオラスの花であふれた。出荷適期のものから手当てするから、一番日当たりのいい畑はどんどん咲いてしまう。

 我が家に電話が来た。
「グラジオラスあげるよ、取りに来ない」
 そのころ、我が家は引っ越してきたばかり。たまたま職場の西さんが、畑の持ち主である西さんのお身内だった。私たちは事情が分からないまま、ただうれしくて頂きにあがった。

 グラジオラスは見事だった。あのボリュームがまっすぐそろって、花は畑じゅうを覆うのだ。
 しかも、太陽のもと、先の方まで花開いて輝いていた。
 赤、ピンク、紫。ああ、あの紫。オレンジ、斑入り、鮮やかな黄色。
「全部摘んでいいから。残ったのは畑に鋤こむんだし」
 私たちは夢中になって、ポリバケツ3つほど、収穫し、夢見心地で帰宅した。家の中はグラジオラスであふれた。

 残りの花も摘んで、球根を太らせて来年に備えるらしい。
 グラジオラスは連作障害が発生しやすいので、一度作ったら4年程休ませる。そうして植える番(年)が来る。
 せっかく植えたものを捨ててしまう悔しさ。来年は別の畑に植える、計画はどうなるのか。西さんはそうしたもの、と淡々とおっしゃっていたが。

 グラジオラスの語源はローマの剣である「グラディウス」葉の形から来ている。だから葉の美しさも売りになる。
 畑にフラワーネットを敷いてマス目に沿ってうえ、成長に従って、それを引き上げて行って、倒れないようにする。ガッチリと立てた支柱とネットの連携。
 グラジオラスの苗が倒れるとしよう、生命力の強いグラジオラスは倒れた茎はそのままに、蕾の方向をまっすぐ、太陽に向かって方向修正する、つまり、曲がってしまうのだ。
 そうした花も出荷できない。
 西さんは喜ぶ私たちに職場経由でたびたび届けてくれた。

 その後の話ではガラスハウス内で計画的に育成することにしたとか。
 今はどうしているだろう。

  



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