姫宮はるか

セクシャリティー、美しさ、少女性、死生観をテーマに小説を書いています。ゴシックロリータ…

姫宮はるか

セクシャリティー、美しさ、少女性、死生観をテーマに小説を書いています。ゴシックロリータ、お人形、天使などをキーワードにして、切なくも美しい情景を描けたらなと思っています。-箱庭幻想-Rose Gardenという名前をブランド名として使っています。

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陽だまりの気配

 先輩は一番窓際の席で、机に突っ伏していて、一見しただけでは起きているのか寝ているのか分からなかった。先輩の柔らかそうな茶髪に外から差し込む光が当たって綺麗だと思った。僕はできるだけ気配を消して先輩に近づくと、前の席の机の上に自分のスクールバックを置いた。見ると先輩はやりかけの補修プリントの上に突っ伏していて、僕が近づいても起きる気配は無かった。 「まったく・・・全然プリント終わってないじゃないですか。」 僕は小さな声で呟きながら前の席の椅子に横向きに座って、目を閉じている先

    • 夢で会ったキミ

       この頃毎晩、夢の中で会う女の子が居る。場所やシチュエーションは毎回違うけれど、いつも同じ女の子が出てくる夢。女の子と僕は夢の中で恋人同士だ。告白して付き合うシーンの夢を見たわけじゃないけれど、夢の中の僕は、ごく当たり前のようにそう認識している。  この前も、記念日の夢を見た。僕たちは水族館でデートをしていた。彼女が空を飛ぶペンギンが見たいと言うから、そんなペンギンショーが見所の水族館まで来たのだ。こっそりペンギンのぬいぐるみを買って渡したら、彼女は 「もう、ぬいぐるみで喜ぶ

      • 戦う姫レインハード

        「私は許しませんよ。エリス。見損ないました。」 「申し訳ございません。姫様。」 エリスは床に片膝をつき、頭を垂れて真っ直ぐな声で言った。 「私は・・・、私は、あなたに謝ってほしいわけじゃない。頭を上げなさい。」 私は、唇を固く結んで堂々と私を見上げるエリスに近づき、その頬を平手でぶった。エリスはその反動で一度床に倒れたものの、またすぐに肩膝をついた元の姿勢に戻った。 「国を捨てるということは、私を裏切るということよ。あなたともあろう人が、それを知らないはずはないわよね。」 「

        • 歌詞「初恋」

          二人きりの観覧車 目の前のキミは俯いて 言葉少なく 髪いじる さっきまで ふざけあっていたのが嘘のような ぎこちない時間 長いまつげ さくらんぼの唇 遠ざかる友達たち 波打つ鼓動 からからの口 近づいてく広い空 一番高いところで 口づけすれば 二人は永遠に結ばれるなんて 作り物の お伽話を 信じたいほど 僕らはまだ子供で ずっと一緒にいようね なんて不確かな約束を交わす 保証なんて無くて良い この約束が 僕らの全て ネットで見て 口づけは 柔らかく甘やかなのだと 想像して

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        陽だまりの気配

          少女

           スピーカーから聞き慣れたベルの音が流れ、女性の声でアナウンスが続く。 「まもなく、3番線に通勤快速…」 私はそれを聞き流しながら、真っ直ぐ線路へと向かって歩いた。怖くは無かった。ただ、さすがに緊張しているのか、自分の鼓動がいつもより大きく感じられた。ローファーの底越しに感じる黄色い凹凸の感触を踏み越えて、私はまた一歩踏み出した。ちらりと左を見ると、小さく電車が見えた。前についているライトがまるで目のように見える。ライトが目なら、車輪を覆っている部分が口で、窓ガラスは広いおで

          滲む茜色

          「先輩は、私のこと、どう思っていますか?」 勇気を出して搾り出した言葉に、純先輩は一瞬横を歩く私を見てから、俯いて考え込むような仕草をした。そして、ゆっくり口を開いて言った。 「ちょっと座ろっか。」 私と先輩は駅に向かう道を逸れてわき道に入った。公園とも言えないような小さなスペース。先輩は自分が押していた自転車を停めて木の柵に寄りかかった。私も隣で真似をして先輩を横から見上げた。 「俺はゆみちゃんのこと、可愛い後輩だと思ってるよ。」 先輩は言葉を選ぶように言った。 「それは、

          煙草味の口づけ

           部屋に入るなり、キミは荷物を置いてタバコに火をつけた。ピースアロマロイヤル。キミのタバコは他の人のそれより、ほんのり甘くて上品な匂いがする。私は昔からタバコが苦手で、たった2時間のカラオケさえ、禁煙ルームじゃないと絶対に嫌だったけれど、キミのタバコだけはどうしても嫌いになりきれなかった。この香りを嗅ぐ度に、私はキミの存在を強く感じて、愛おしくてたまらなくなる。それでもやっぱり、タバコが苦手だという基本スタンスを崩したくはない。 「あー、またタバコ吸ってる。もう止めるって、こ

          煙草味の口づけ

          幻想ハーモニー

           本当はもう会うべきじゃないんだって思っていた。でも、チャイムが鳴って、モニター越しに彼の姿を見たら、私はまた今日も堪えきれずにドアを開けてしまう。夜風は少しだけ雨の匂いがした。帽子を深くかぶった彼を見た途端、胸が苦しくなって、私は目を逸らした。蒼太はいつものように玄関に入ると、ドアを閉めて鍵をかけた。そして、帽子を取ってにこっと笑うと、 「ただいま。」 と言った。ぷっくりと厚い唇、涙袋、さらさらの明るい茶髪。やっぱり顔はいい。 「もう、またこんな時間に急に来てさ。私はいつも

          幻想ハーモニー

          破壊の種が生まれし夜

          「・・・ミラ?」  咎めるように私の名を呼ぶ声が聞こえた。快楽に浸りすぎて油断していた。人に見られた。どうしよう。焦る私の口からは言い訳しか出てこない。 「これはっ・・・、違うの。私じゃない。私がやったんじゃないの。」 私は血と脂でぎとぎとに汚れた赤い手を自分の背中に隠して、ただ首を横に振った。 「嘘をつくのはいけない子だと私、教えなかったかしら?」 彼女が冷たい目をして言った。 「その・・・あのっ・・・。」 その目に射抜かれた途端、鳥肌が立ち、私は何も言えなくなった。 「ね

          破壊の種が生まれし夜

          光と闇の夜想曲

           暗闇の奥で何かの影が揺らいだ。小さな水音が静寂に響き、べたつく生ぬるい風が頬を撫でながら通り過ぎていった。 「もう二度と来ないでと言わなかったかしら?」 私が闇に向かって冷たく言うと、低く汚いがらがら声が返ってきた。 「今日はミキから僕に話しかけてくれた。嬉しいよ。最初の頃なんて、僕がどんなに話しかけても聞こえないふりばかりしていたくせに。ちょっとは僕に慣れてくれた?」 一方的にまくし立てるがらがら声はとても嬉しそうだった。 「勘違いしないで。約束したはずよ。あなたの世界は

          光と闇の夜想曲

          小さな傘

           鉛白色の空。天気予報に反してぱらぱらと降り出した雨は、走る僕の足元を容赦なく濡らしていく。カバンに入れっぱなしになっていた折り畳み傘は少し小さかったが、おかげでびしょ濡れにならずにすんだ。ずぼらな性格も、時には役に立つものだと思いながら、通学路を家に向かって急いでいると、ふと見上げた、歩道橋の上に知った少女を見つけた。それは同じクラスの早川さんだった。早川さんは中学生にしては大人びた雰囲気のミステリアスな少女で、正直言うと、クラスの中で誰かと一緒にいるところを見たことが無か

          彼女の言い分

           心臓がどくんどくんと鳴っている。本当はこのまま楽しいデートを続けていたい。由紀を問い詰めたくなんて無い。友達が送ってくれた写真なんて見なかったことにしたい。でも、今切り出さなかったら、後で後悔するような気もする。密かに緊張している俺とは対照的に、流行りのフラペチーノを頬張る由紀はいつも通りに見えた。 「あの・・・さ。」 からからの口からしぼり出した音は少し震えていた。 「何?そのフラペチーノ、もしかしてあんまり好きじゃなかった?全然減ってないじゃん。」 由紀は小動物のように

          彼女の言い分

          余韻

           夜の食堂は節電のためか部分的に照明が消されていて、広い吹き抜けの室内に学生はまばらだった。お気に入りのカウンター席は窓に面していて、まだほとんどの窓に灯りがついている研究部棟が見えた。 「サークルのミーティングが長引いちゃって。遅くなってごめん。」 陽彦はスタミナ丼を乗せた薄ピンクのトレイを一度カウンターに置くと、背負っていた黒いリュックをもう一つ隣の椅子に置いて、私の隣に座った。 「私の研究室フレックスタイム制だから、いつ帰っても大丈夫だし、ここで考え事するの好きだから、

          きっかけ

           先輩を好きになったのは、去年の丁度今くらいで、桜が葉桜に変わり始めた頃だった。入ったばかりのバトミントンサークルは真面目な人が多く、サークルという名前の割にハードな練習で有名だった。  その日、私は一つ上の蒼太先輩とペアになり、ネット越しにシャトルを打ち合って練習していたが、どうも体調が優れなかった。必死にシャトルを打ち返していたが、次第に足元がおぼつかなくなってくるのが自分でも分かった。 「美優ちゃん大丈夫?ちょっと休む?」 私の様子に気付いた蒼太先輩が、ネットをくぐっ

          第二ボタン

           誰も来ないだろうと選んだ委員会室の前の廊下は少し寂しくて、手持ち無沙汰で寄りかかった壁から、制服越しに感じる冷たさが心細かった。呼び出してはみたけれど、先輩は来てくれないかもしれない。両手を暖めるようにホッカイロを握りながら、いつもより指先が冷たく感じるのは寒さのせいだろうか、それとも緊張のせいだろうかと考えた。  その時、ぱしゅっ・・・ぱしゅっ・・・と上履きを擦って歩く、先輩独特の足音が聞こえた。ゆっくりと近づいてくる。そして、胸ポケットに卒業式のコサージュをつけたままの

          第二ボタン

          優しさはぬかるみの入り口

          「今日はありがとうございました。私、またご迷惑をおかけしちゃって、すみません。」 私がお礼を言うと、 「いいのいいの。俺が内山さんとごはん食べたかっただけだから。」 わざわざ駅のホームまで送ってくれた葉山さんが微笑んだ。スマートにかっこいい言い方をする男になんて絶対に近づかないと決めていたはずなのに、優しい言い方に心が跳ねるのを感じた。会社の先輩である葉山さんは、仕事中、私の元気がないことを察してご飯に誘ってくれたのだった。 「そんな優しいこと言われたら泣いちゃいます・・・。

          優しさはぬかるみの入り口