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岩手出張④紫波町の酒蔵と水分神社

岩手から戻ってきてからというもの、色々と業務に追われてすっかり更新できておりませんでした!!

続きましては、岩手レポート第四弾です。
本当は紫波町の酒蔵1件1件レポートしたかったのですが、書き切れそうにないので、まとめてレポート致します!!

「廣喜」醸造元の廣田酒造は、大改装中。

月の輪酒造と同様、女性杜氏が酒を醸す廣田酒造は、酒蔵改装の真っ最中でした。
全体的に年季の入った蔵と道具が印象的な紫波の酒蔵ですが、廣田酒造はそろそろ限界を迎えることもあり、洗米機から麹室まで、大幅な改装と機械の入れ替えをされるそうです。

やはり道具は大事ですもんね。
昔ながらの道具にしか出せない味もありますが、どうしても味にバラつきが出たり、時に雑味やオフフレーバーの原因になってしまったり、雑菌汚染のリスクが有ったり。
また、何より蔵人が効率的に作業できることによって、より良い酒造りに専念できるのは良いことと思います。

さらに、廣田酒造さんでは29BYより全量「酸基醴酛(さんきあまざけもと)」の酒造りにシフトされるとのこと。これは大きな決断ですね!!
酸基醴酛とは、簡単に言うと甘酒に乳酸菌を添加して酒を醸す製法だそうで、大手酒造メーカーの大関さんがこの仕込みの酒を商品化されている他にはあまり事例のない珍しい造りだそうです。
米の旨味が引き出せるのが特徴とのこと。

写真一番右がプロトタイプになり、まだ販売されていない超レア品。
わざわざ口開けで試飲させていただきました!

全体的に柔らかく甘めの酒質である他の酒に対して、酸基醴酛の酒はより濃醇で複雑な味わいです。
愛知県の「長珍」の生酒に似たニュアンスを感じました。
これは、もしかしたらお燗にしたら面白いかも!?

27BYの廣喜がどう生まれ変わっているのか、とても楽しみです!!

しかし、月の輪酒造の酒がキリっとしているのに対して廣田酒造の酒は柔らかかったので、不思議に思い聞いて見たところ、仕込み水の水脈が違うそうです。

月の輪酒造は井戸水だからやや硬水。
廣田酒造は、伏流水だから軟水だそうです。
軟水の方が、まろやかで甘い酒に仕上がりやすいんですよね。

この地域は昔から山の伏流水が潤沢で、「水分神社」という水の神様が宿る神社では水が豊富に湧き出し、毎日水を汲みに来る地元の人が絶えないそうです。廣田酒造が仕込み水にしているのも、水分神社の水脈。

ということで、そんな情報を聞いたならば行くしかない!
早速水分神社に行ってみました!山道を車でズンズン進みます。

樹齢700年と言われる杉林に囲まれた水分神社は、ひっそりとしていて涼しく、霊験あらたかな雰囲気。

たまたま水汲み場には誰もおらず、貸切りで汲み放題でした!

コンビニで買った水の中身を捨て(笑)、水分神社の水をチャージ。

一口飲んでみたところ、本当に口当たりが柔らかく、まろやかで澄んだ味でした。荘厳な雰囲気もあってか、なんとなく心も体も浄化された気分になりました。
一説によると、この水は腐らないんだとか…。真相やいかに??

水分神社はパワースポットとも言われていますが、確かにその通り。
スギの老木からも、足元の草や土からも、生命力を感じます。

マイナスイオン、きれいな空気、きれいな水…そんな簡単なものではなく、なにか自然の発する力強いパワーを全身で感じました。

危なげな蜂がブンブン飛ぶ中、本堂にもお参り。
賽銭箱は有りませんでした。

2日目にして薄々感じるのは、紫波の人たちの欲の無さ。
紫波に来て出会った方々は、控えめでおっとりしていてガツガツ感が無く、必要以上の利益を求めない感じが有りました。

何を食べても何を買ってもとにかく安くて「これで採算あってるのか!?」と思ってしまうのですが、「お客さんが楽しんでくれたら…」というスタンスのようです。都会には無い感覚が新鮮です。

…そんなことを頭の中でグルグル考えながら、3件目の酒蔵さんに。

紫波町最古の酒蔵!「吾妻嶺」醸造元の吾妻嶺酒造。

なんと、そんなふうに紫波町の人柄を考察した直後に、イレギュラーな豪快な雰囲気の蔵元さんと出会うことに!!これまでの考察が覆される事態。

吾妻嶺酒造は紫波町最古の酒蔵と言われており、南部杜氏発祥のきっかけとなった近江商人「村井権兵衛」が創業した酒蔵が前身とされています。

13代目の蔵元である佐藤元さんは、いかにも大酒飲みという雰囲気で、よく喋る明るい方でした。
この日はたまたま南部杜氏講習会で紫波町の杜氏さんが一堂に会しており、佐藤さんはこの夜、講習会後に毎年こっそり行われる「裏南部杜氏品評会」で、元杜氏の70〜80代のおじいさま方と酒を酌み交わし、罵詈雑言を浴びるとのことでした。笑
長老の方々から、さぞかし可愛がられているのでしょうね〜!

早速、蔵を大規模改装している廣田酒造さんの話題になったのですが、対する吾妻嶺さんはこれまで設備投資をあまりしてこず、設備には重きを置いていないとのことでした。設備よりも「人の手」を重視しているそう。

「テクノロジーは良いけれど、造るのも人、飲むのも人、売るのも人。
技術の虜になると、仮面ライダーで言うところの"ショッカー"になってしまう。」

まさかのショッカーという例えには驚きましたが、なるほどその考えも納得できます。
ふむふむ、酒造りというのはそもそも造り手の考え方が違うので、同じ「日本酒」という枠は同じでも、造り手が違えば全く別物なのですね。
それは、味噌も醤油も酢も、全て一緒。野菜だってそうですね。
教科書では「酒は酒、味噌は味噌」ですが、本当は一括りにできない部分が沢山有ります。

そんな吾妻嶺のお酒はどんなお味なのか?
蔵には在庫が無く試飲できなかったので、帰りの盛岡駅で飲んでみました。

おお、これはすごい!!
「かかってこい!」と言わんばかりの正々堂々とした図太く旨味とコクのある味わい。まっすぐな酒造りをされていることが伺えます。
蔵元の雰囲気、想い、それらが本当に味に反映されているので面白い。これはちょっと感動。
ちなみに、弟さんが杜氏をされているそうで、酒造りの方向性についてはよく喧嘩するそうです。笑

さてさて、お次は大トリの酒蔵さんに訪問です!

鑑評会の金賞常連!「堀の井」醸造元の高橋酒造店

最後は、堀の井を醸す高橋酒造店へ。
こちらでは、東京理科大出身の理系インテリ蔵元杜氏である高橋誠さんがお酒を醸しています。

高橋さんは、紫波×理系という真面目とインテリのサラブレッド。
かなり実直な性格の持ち主に伺えました。

(左が高橋さん。右は今回の案内人である小地沢さん。)

高橋さんはあまりお酒は飲めないそうで、ビールなら1杯、お酒は1合が限界だそうです。
吾妻嶺の佐藤さんと比べると、老練な杜氏さんたちとお酒を酌み交わして情報交換するというよりは、コツコツと的確に技術を磨いていくことに時間をかけているのではないかなと想像。

だとすると、かなりお酒の味は違いそうな予感。
また、全国新酒鑑評会では金賞の常連ということなので、きっと香りが華やかで綺麗な味の酒を造っているのではないか?
…勝手にお酒の味を推測することにワクワク。笑

そもそも、飲める蔵元の造る酒と、飲めない蔵元の造る酒は、圧倒的に味に違いが出る気がします。
前者は、飲み疲れしないダラダラ飲める酒。香りや甘さは控えめです。
一方、後者は一口飲んで、そのものが美味しい酒。香り高く、甘めなことが多いです。

毎晩お酒を飲まないぶん、酒造りにかけられる手間と時間が変わってきたりもしますよね。高橋酒造では、吟醸系の造りの酒は手間のかかる蓋麹で仕込んでいるそうです。
これは、ますます香り高そうな予感。

こちらも試飲ができなかったので、盛岡駅で飲んでみました!

わー!あまりにもどんぴしゃ過ぎて目をパチクリさせてしまいました。

大吟醸だったこともあると思いますが、ふわっと鼻腔に広がるフルーティーな香り。綺麗な甘みと綺麗な余韻。
なるほど、吾妻嶺とは正反対なフレッシュフルーティーな酒ですね。

本当に、紫波の酒蔵は四者四様。

水が違えば、人も違う。それぞれに目指している酒のスタイルの違いや、性格や生活そのものの違いが、そのまま酒の味に現れている。

これは、一つの市の酒蔵を全部巡ったからこその実感です。

新潟の淡麗辛口に代表されるように、それぞれの地域に味の特徴というのはあるものですが、一概に「〇〇県の酒だからこんな味だ」とは決め付けられないですね。

これからも、「決めつけ」とか「枠にはめる」ということをせずに、広く柔軟な視野を持ってモノづくりと向き合っていきたいと思います。

いやいや、今回も非常に勉強になりました。
お忙しい中ご対応して下さった蔵元様、本当にありがとうございました!!

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