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2021年版 このアニメーション映画が凄い!(春花編)

はじめに


クリスマスも終わり、はや今年も後1週間となりました。赤赤と色付いた木々もあれよあれよという間に葉を落とし、裸の身体を恥ずかしがるようです。一方で我々の体積は増えるばかり。服も、美味しいご飯も、冷たい冬を乗り切るには必須ですから。そのような時分に、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は散々注射を失敗されるという地獄から始まったクリスマスを、呪術廻戦で何とか乗り切ったばかりです。「劇場版呪術廻戦0」、もう観た方も少なくないでしょうが、まだの方は是非どうぞ。原作に忠実でありながら、原作を視覚的に昇華させた素晴らしい映画でした。MAPPAの意地というか、気合いを感じました。特にアクションシーンは正直原作に勝るといってもいい。基本的に原作派の私ですが、こういうマンガ版と映画版の差別化がしっかりしているマンガ原作の映画は大好きです。(個人的には「バクマン。」とか) なお本論と関係はないですが、秋田孝宏『新版「コマ」から「フィルムへ」マンガとマンガ映画』という書籍はマンガと、マンガを原作に持つ映画との関係からマンガ、映画双方について論じています。大変興味深い内容でしたので、映画、マンガについて興味のある方は是非。

「コマ」からフィルムへ マンガとマンガ映画(秋田孝宏、2020)

さて、偉そうに語る私ですが、今年の夏頃から現在にかけて数多くの(6~70本程)映画を観ました。きっかけは大学の授業でした。映画の技法や背景、先生や受講生の意見を学ぶと、今まで何となく見てきた映画がなんとも面白くなることか!コレぞ知識を得ることの醍醐味です。今回はそんな数多の映画から、今回は特にアニメーション映画から、私が最高に凄いと思った作品を選出し、紹介します。私のような末端ツイッタラーの評価など興味のある方はいないでしょうが、いつか自身が見直した時に懐かしくなるような、或いは何らかの助けとなるような、ある種備忘録として記します。ノミネート作品は今年に私が観たアニメーション映画全て、評価基準は特になし。完全な主観で選びます。しかし、呪術廻戦の話でわかる通り私はややミーハーな嫌いがありますので、選んだ作品は皆さんにも面白いものであることは保証します。映画選びの参考になれば幸いです。

今回はアニメーション編ということで金〜銅賞を進呈します。また、当初は洋画編、邦画編、ミュージカル編と考えていたのですが、思いの外アニメーション編に力が入ってしまったので、気が向けば選出します。

アニメーション編

さて、アニメーション編です。ノミネート作品は、確認できるだけで11作品。記憶にある中で大体20作品。概して、アニメーションは安定して面白い作品が多く、また気軽に視聴出来るので、リフレッシュに観ることも多かった。しかし、ほんの子供向けと思って観た作品に思いの他のめり込んでしまう、そのようなこともしばしばありました。アニメは子供のもの、そんなことは全くありません。アニメーションについて学べば、その奥深さに驚くことでしょう。先程紹介した本はその一助となります。一つ強調しておきたいことは、アニメーションにおける世界は、そこにある世界をカメラで切り取る実写映画とは異なり、全てが「つくられた」世界だということです。これに注意してアニメーションを観てみれば、ただ漫然と観るよりもずっと濃密な時を過ごせること間違いなしです。それでは、発表です。

銅賞 たまこラブストーリー 、リズと青い鳥

たまこラブストーリー(山田尚子、2014)
リズと青い鳥(山田尚子、2018)

初っ端から二作品同時受賞です。甲乙付け難かった。両作共に山田尚子監督の作品であり、また女子高生を主人公とした物語です。いわゆる萌えアニメか?と侮るなかれ、確かに可愛らしいキャラクターが登場する両作品ですが、特に「リズと青い鳥」は非常にリアリティに溢れる作品なのです!

「たまこラブストーリー」は、京都アニメーションによる、やはりこれも山田尚子監督のアニメ「たまこまーけっと」の劇場版にあたる作品。とある商店街を舞台に、主人公たまこが人々のため、街のため、そして愛する餅のため、可愛らしく活躍する日常ものに近い作品が「たまこまーけっと」ですが、劇場版ではたまこと、幼馴染のもち蔵との恋に焦点が当てられています。鈍感な主人公に、思いを伝えられないもち蔵。くっついては離れる、まさに餅をつくような恋模様にムズムズキュンキュンすること間違いなし。果たして二人は美味しく出来上がってしまうのか!?Twitterに感想を上げ忘れていたのですが、私の日記にはこう記されています。「暖かく、瑞々しく、かつ儚い物語だった。久しぶりに胸が踊った。」ああ恋がしたい!そんな気持ちになる映画でした。アニメ「たまこまーけっと」も大変面白い作品です。Amazonプライムからdアニメストアに入会すれば視聴出来ますよ!(Dの一族ではないですので悪しからず。)

「リズと青い鳥」は、「響け!ユーフォニアム!」の劇場版作品。のぞみ(画像左)と、みぞれ(右)のすれ違いと葛藤を描いた青春の物語です。非常に流麗な作画、リアリスティックな表現など、アニメであることを忘れてしまいそうほど引き込まれてしまい、二人の焦れったい関係にドキドキ、ソワソワとしてしまいます。そして、美しさの中に儚さ漂う作画。それは瞬きの内に過ぎ去ってしまいそうな青春の一時を思わせます。この作品を観てもらえればわかるのですが、山田尚子監督の作品には脚を捉えたショットが多様されます。これは「地に足をつける」の表れなのでしょうか。そのような細かな意匠が私たちを知らず作品に没入させます。フィクションの中にリアルを超えるリアリティを描き出す、山田作品の真髄です。

銅賞に輝いた二作品は、どちらもリアリティに溢れる作品でした。リアル(実写)で出来ることを敢えてリアリティ(アニメーション)で表すのは何故なのでしょうか。そのようなことを考えながらアニメーションを観る新たな発見があるかもしれません。銀賞、そして金賞に選ばれた作品もそのような問いを投げかけるようなアニメーションです。

銀賞  BOSS BABY

BOSS BABY(トム・マクグラス、2017)

銀賞に選ばれたのは「BOSS BABY」。先程とは違う意味で可愛らしいキャラクターです。超人気製作会社ドリームワークスによる作品。Amazonでのジャンルはキッズ。しかし、侮ることなかれ。私が先程子供向けと思って観たら思いの外のめり込んでしまったという最初にして最大の作品です。
 主人公の家庭に謎の赤ちゃんがやってきて、家族の関心を攫ってしまった。しかし、実はその赤ちゃんはあるミッションで主人公宅に派遣されたのであり、やがて主人公と和解した二人は敵となる「元 赤ちゃん」に立ち向かう──というのが大まかな筋です。しかし、その一連のストーリーに組み込まれた構図に気がつけば、その発想に感嘆させられます。

 タクシーに乗って、颯爽と現れる謎の赤ちゃん。ワガママで、親の関心を欲しいままにする赤ちゃん。そして、実は「サラリーマン」である赤ちゃん。それは、小さな子供、ここでは主人公ですが、彼にとっては現実の赤ちゃんそのものなのです。何も知らない子供にとっては、赤ちゃんはどこからともなく現れ、まるで図ったかのように親の関心を奪っていく。そして、会社の偉そうな上司のようにワガママで、融通が効かない赤ちゃん。そう、この映画の「BOSS BABY」、それは恐らく普通の赤ちゃんなのです。この映画で描かれる荒唐無稽な、単に可愛らしい世界。それは、主人公である子供の目線を通したリアルなのではないでしょうか。私たちは大きくなるにつれ、過去の記憶を忘れてしまいます。しかしかつての私たちは想像力に充ち、今見えない以上のものを見ていたのかも知れない。「となりのトトロ」のように。それは無知ゆえのものかもしれません。ですが、今私たちはそれについて無知である。知と引き換えに私たちは別の知を失っていったのでしょう。なんて考え始めると止まらないのが私の性分。
 とにかく、このようなメッセージ性、或いは比喩や風刺といってもいいのですが、それを無理なく、かつエンタメ作品として一級品に仕上げる事が可能なことにアニメーションの良さがあるように思います。
 折しも続編が絶賛公開中の「BOSS BABY」、私はまだ観ていないのですが、皆さんもAmazonプライムか何かで一作目を見て、その奥深さに気がついてほしい。そして、続編を観にいきましょう!

 そして、ついに栄えある金賞の発表です。こちらでもやはり、作品に込められたメッセージ性が重要になってきます。

金賞 MIND GAME

MIND GAME(湯浅政明、2004)

 どこから説明しようか悩むので、とりあえずあらすじを映画.comから引用します。 


幼なじみの初恋相手みょんちゃんに再会した西だったが、借金の取り立てにきたヤクザに惨めな殺され方をしてしまう。未練たっぷりの西は神様に逆らって再び現世に舞い戻るが、今度は巨大クジラに飲みこまれてしまい……。一度は死にながらも生き返った男の生きざまを、実写や3D、2Dなど多彩な映像表現を駆使してハイテンションかつエネルギッシュに描ききる。声優は今田耕司、藤井隆ら吉本芸人が多数。

https://eiga.com/amp/movie/41044/

 実写、3D、2D、ハイテンション、エネルギッシュ、吉本芸人多数…ここから察せられるように、この作品メチャクチャです。漫然と観ていたらただ意味のわからない作品。もうホントに訳が分からない。授業で観た映画なのですが、多分真剣にコレを面白いと思ってたのは少数派。つまり、能動的な鑑賞を求められる作品。とはいえ、それほど難しい物語でもありませんので、ご心配なく。

 マンガ『ボボボーボ・ボーボボ』は言わずと知れたくそマンガ(褒め言葉)。脈絡ないギャグと理不尽なツッコミが輝くオンリーワンなギャグ漫画です。また「このマンガがすごい」二年連続受賞の鬼才(奇才)マンガ家藤本タツキによる『チェンソーマン』、これもまた有名です。ジャンプに有るまじき欲にまみれた主人公がある種の更生を経て、ラストで原点に立ち返る。そのカタルシスと映画のワンシーンを思わせる迫力満点の絵、凡人の想像をはるかに超えるストーリー、などなど、これ以上はチェンソーマン賛美になってしまうので控えますが、とにかくこの二作品を掛け合わせたかのような勢いと一貫したパワーを持った映画、それが「MIND GAME」なのです。
 ネタバレを控えるため軽い言及に留めますが、あらすじでわかるように主人公は一度命を落とします。そして、神様に会い、自分の欲に忠実に生きることを誓い復活を果たす。その後は全てがハチャメチャの展開。それでも、彼が心に決めたひとつの誓いだけは揺るがない。逆に捉えると、全ての混沌は彼の強い意志のためにある!2D、3D、メタモルフォーゼ、様々な、揺らぎ続けるアニメーションならではの表現は、その中で普遍的にあるメッセージ性を引き出し輝かせるのです。
 アニメーションをつくること、それは新たな世界をつくることです。ほんの、ワンショットであっても。それは先程も述べたこと。従って、そこには必ず意図が存在するのです。意図──それは、作品を貫くテーマ或いはメッセージ性に繋がる問いを投げかけまた引き立てるもの。物理法則に囚われないアニメーションであるからこそ可能な表現、アニメーションであるからこそ伝わるメッセージがそこにはあります。そのようなことに気が付かせてくれた「MIND GAME」に栄えある(?)金賞を授与したいと思います。(ちなみにこちらもdアニメストアで観れます)

おわりに 

本心からすればあと2、3作は紹介したかったところでしたが、苦渋の決断で4つに絞りました。また映画ではない、普通のアニメーションも沢山紹介したい。オススメは「ODDTAXI」と「魔法少女まどか☆マギカ」。それはともかく、私が今回お伝えしたいのはアニメーションは決して子供向けなどではなく、寧ろ知識を有してこそ楽しめる作品であるということ。何も考えず、ストーリーに心躍らせ、動きの流麗さを耽美するのも、とても有意義なことですが、加えて別の観点を持つことが出来たらそれは素晴らしいことです。この記事がそれを獲得する、ほんのきっかけとなればそれ以上望むことはありません。

おまけ

現在読んでいる『仕事と人生に効く 教養としての映画』(2021、伊藤弘了)は真に映画を観るということの魅力について説きつつ具体的な見方を提示し、また個別の作品についても解説しています。ビジネス的側面はともかく、趣味として映画をぐっと楽しくする指南書として一読の価値ありです。興味のある方はご覧下さい。

教養としての映画(2021、伊藤弘了)






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