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地域活動の一環として学生ライターになったら、自分と向き合う機会になった。

2022年5月8日。JR氷見線・伏木駅を出た私は、今回の舞台「古本なるや」に向かった。駅からまっすぐ勝興寺に向かって歩き、すぐ左に曲がったところにある。外観は町並みに紛れた二階建て一軒家で、目の前に置き看板がある。中を覗くとたくさんの本。早速扉を開き店内に入る。

「今日はよろしくお願いします。」
なるやの店主の堀田さんが出迎えてくださった。店内に入ってまず印象に残ったのは、どこかで一度嗅いだことのあるような、ちょっとミステリアスで甘い匂い。来た人にリラックスしてもらうことと、「なるやの匂いだ」と思い出して安心してもらうためにお香を炊いているそうだ。

真ん中には一畳ほどのテーブルとイス。壁に沿うようにして置かれた本棚にぎっしりと並べられた書籍の数々。ぶら下がったチラシたち。そして黒猫のミミちゃん。ジブリ映画の魔女の宅急便のようだ。天井から降りている電球が昼間の少し薄暗い店内の明かりを支えている。

これから、私の初めての取材が始まる。

はじめに

堀田さんは「これからは福祉関係のことに力を入れていきたい」と話す。悩みがあって相談したい人や不登校の子などがこの場所を訪れ、話に来るという話を聞き、私は大学で教育を専攻していることもあり、興味を持った。

以下、取材して印象に残ったことをピックアップして、自分の考えとともに述べていきたい。

古本屋じゃなくてもカフェでもコンビニでもスーパーの一角でもいい。

「自分はたまたま『古本屋』を選んだけど、古本屋じゃなくてもカフェでもコンビニでもスーパーの一角でもいいんじゃないかって思っとる。もっと自由になんでも話せる場所が増えたらいい。」

取材中にそう何度か口にした堀田さん。私は、とても重みのある言葉に感じ、「これが堀田さんの強い思いなのだ」と受け取った。人間って喜怒哀楽の感情があって思っていること、感じていることそれぞれ違うのに、大多数の意見は正しくて、少数の意見は正しくないみたいな風潮がある。特に日本では、自分の感情を隠して周りに合わせたり、社交辞令や忖度などがあったり、謙虚でいることがよしとされる。周りと違ったら否定されるかもへんに思われるかもという恐怖。「自分にはできないんじゃないか。」「相手を傷つけていたら、嫌な気持ちにさせていたらどうしよう。」「自分はダメダメで生きている価値があるの?」「そもそも何のために生きているの?」生きづらさを抱える人は世の中にいっぱいいる。そんな中、思っていること悩んでいることをなんでも話せる場所があったら。きっと悩みがふわっと軽くなったり、新しい自分に出会えたりするだろう。そういう場所の一つが「古本なるや」。普段生活していてもなかなかこういう場所って出会えないけど、いたるところにある未来があったらいいなぁなんて考える。


自分らしさ、ありのままとは?

世の中に溢れた、自己肯定感や自分の生き方に対する書籍やネット記事たち。それらを見ていくと「自分らしさを大切にしよう。」「自分らしく生きよう。」「自分の感情に素直に。」と記されている。しかし、自分らしさってよくわからない。大人になったらだんだん見えてくるものなのだろうか。相手との対話の中で、自分を通し過ぎると相手と衝突してしまうし、自分を押し殺すのも自分らしさかわからなくなる。このような悩みに対し堀田さんは、「その人にはその人の過去や背景があった上での考え方や価値観があるから、自分に合わないという場面は絶対に出てくる。相手がいて合わせなければならない。それが社会。『どうしてこの人はこういう風に思うんだろう?』と対話の中で理解して考えることによって、嫌なものの幅が小さくなったり、嫌なことじゃなくなったり、面白さに繋がったりする。相手を変えたいと思っても結局は変わらないから、まず自分を変えるべきだ。」と答えた。


私は人との関わりで、人それぞれ価値観があるから人の意見を否定してはいけない。と思って毎日を生きている。でも、自分の主張をすると人の意見や考えを否定していないかな?と心配になる。他人を否定するとその人の「自分らしさ」を否定することになり、さらに自分のことまで否定することになる。誰も幸せを生まない。だから、他人の何気ない一言で傷つきそうになった時、もしかしたら嫌なことがあったかもしれないし、どうしてだろう?と考えるってすごく大切だなと感じた。表面的なものしか見ていなかった時では見えなかった相手のことがわかってきて、少し心に余裕が持てる。良いこと尽くしだ。


辛いなら辛いって言えばいい。

先輩や同級生と話が合わず後輩と一緒にいた時期もあったという堀田さん。辛いことがあっても先輩として「後輩に甘えてはいけない。」と思って誰にも相談できなかったという。

しかし、ダメな自分を受け入れることによって人に頼ることができるようになり、さらに周りのダメなところも受け入れられるようになったそうだ。「人に頼っていいんだ。自分を許していいんだ。辛いなら辛いって言えばいい。どんな生き方・働き方があってもいいんだから。」

人は一人では生きていけず、周りの人の助けがあってこそ生きていける。そう思ったら、どれだけ周りの人の存在って大切なのだろう、と考えた。人に頼って助けられて、そうやってお互いににこやかに過ごしていけたらどんなに良いのだろう。


話せる古本屋「なるや」

「誰もが気軽に来て本音を話せる場所にしたい。
そう堀田さんは話す。話をする上で、基本的には聞くことがほとんどで気になるところを探っていくという。話を聞いているとき、自分も感情移入してしまい辛くなってしまうことはないのかという問いに対し、昔はそういう時もあったけど、今はないと答えた。人の話を聞くときに注意しなければいけないことは、「自分の価値観に当てはめて、こういう状況だと自分は辛いから相手も辛いのかなと思ってしまうこと。辛いかどうかは本人にしかわからないし、人によって違うから直接聞くしかない。」だという。

普段の生活で、勝手にこの人は辛いのかなって感情移入してしまうことがある。しかし、よく聞いてみると意外とそうでない時が多くて、感情は人それぞれだなと思った。自分の価値観に当てはめて考えすぎない方がいい、という聞く姿勢についての教訓をいただいた瞬間だった。

最後に

気づいたら学校の帰りの会が終わる時間になっていた。初取材、たくさん聞いてたくさん考えて、良い意味で、6時間目がやっと終わった時のような解放感と疲労感で頭がいっぱいだった。取材中も、将来や今の自分に対する不安が山ほどよぎった。「真面目に考えすぎず、気楽に楽しく生きていこう。」という堀田さんの言葉に、私は肩の荷が下り少し楽になった。

世の中でいう正論が必ずしも自分にとっての「正解」ではないのだと学んだ。人生は何が正解かなんてわからないからこそ面白い。だからこそ、失敗したとしてもそれを人生の経験にして、自分はダメだって思い込んで消極的になる必要はないのだなと感じた。

その人にはその人の過去があり、誰しも何かを抱えている。
人生はどの道を選んだかよりも自分が選んだ道でどう頑張るかが大切だと思うので、もっともっと様々なことに挑戦して前向きに生きていきたい。

「なるや」の取材を通して、なるやはただの古本屋ではない、人と人が話し合ってつながっていく家族のような温かい場所だということがわかった。堀田さんの言葉一つ一つは本当に重みがあって、考えさせられるものばかりだった。

「町のために何かしようとは思っていないが、このお店が町の楽しみの一つになればいい。」


作:学生ライター0

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