私の砂糖漬け
ストロベリージャムは、いちごの味がした。
当たり前だ。
「リカ?何してるの?はやく風呂場から出てきて。今日のカメラマンさんは時間にうるさいの。そういえば体重、あと1.8キロ落としてね。ねぇ、聞いてる?ネイルもそろそろ変えないと、次の流行はまた、チークネイルですって」
シャワーの音がする。
ダマスクローズのバスソルト
ネロリジャスミンのボディジェル
ピンク色の泡立てネットに
香水瓶の形のアロマキャンドル
はずしたままの、パールの首飾り
冷たいミルク色の大理石に
猫足のバスタブ
「リカ?聞いてるの?今日はメイクさんが早めに入ってくれるから、そんなに念入りにケアしなくて良いのよ!とにかくはやく上がってきてちょうだい」
鏡に映る裸の私は、間違いなく美しい。
入念に手入れされたこの身体は、
一体いくらで作り上げられたのだろう。
産毛の1本もないこの肌は
艷めきながら、ゆらりとゆれるこの髪は
整ったボディラインに、
桃色に染まった爪先は
「リカ!いい加減にして!」
変えのきく歯車になりたくなくて、
「かけがえのないもの」になりたくて、
私は自分を作り上げた。
人よりも綺麗に、素晴らしく、
品位があって、特別で、凛として。
だけど「かけがえのないもの」になったはずの
私は、もはや「何者か」であり、「私」ではなかった。
特別であり続けなければいけない。
ポテトチップスよりも、パンケーキを
麦茶よりも、レモングラスティーを
つくしより、薔薇を愛さなければいけない。
いつもそういう「選択」をし、
自分を作り上げなければ、そのへんのコピー品になってしまう。
わたしは「特別」でありつづけるのだ。
例え「私」でなくなっても、「何者か」に
なってしまったとしても、
そういう「私」だけを、「私」は愛するのだ。
砂糖漬けにされ、煮詰められて
瓶に詰められ、綺麗にリボンをかけられる。
原型がなくても、それが私なのだ。
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