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原康介(名古屋高校)が札幌内定を掴んだ日〜ラストチャンスを活かせた理由は断固たる決意と学習能力の高さ〜

まさに土壇場でのプロ内定だ。高3の1月末という卒業も迫る異例のタイミングで札幌入りの切符を勝ち取ったのが、名古屋高校3年・原康介。

先立って行われた全国高校サッカー選手権で、初出場ながら、ベスト8という大躍進を見せた名古屋高校の背番号10を背負った逸材だ。

「選手権はプロ入りに向けた最後のアピールの場だと思ってました。もっと出せる部分もあったと思うんですけど、初めての割には自分の特徴を出せかなと思いますと語る原。

「選手権は就職活動の場でもある」と公言し、大会後に内定〜素晴らしいプロキャリアを歩んだ、札幌のレジェンド・吉原宏太氏の言葉を想起させるが原の決意の大きさは大会中のプレーの随所に表現されていた。

日章学園と戦った1回戦。チーム史上初となった選手権の舞台でも中心選手として躍動。決着はPK戦にまでもつれたが、緊張感漂う中、1番手を担ったPKでも独特のリズムからキッチリと決め切り、全国初勝利の火付け役となった。
続く、北海高校との2回戦では、彼の最大の特徴のスピードを活かしたドリブル・抜け出しとゴール前での落ち着きを存分に見せて1得点2アシストを記録するなど大爆発。原の評価は一気に上昇した。

札幌が原に練習参加を依頼した理由

一見、コンサドーレもこの北海道勢との一戦で原に目をつけたようにも思えるが、決してそうではない。名古屋高校のスタッフと札幌の強化部は日頃から情報共有する関係だったこともあり、注目選手として、原の存在は大会前から注視。データ面における彼の特異なスタッツ、プレーの特徴などをしっかりと事前にチェックしていた。

そんな状況における選手権での大活躍。この2試合を見届けた札幌のフロント陣の心は決まった。

「面白い!後悔したくないので、是非うちの練習に呼びたい」

しかし、そのタイミングは12月31日だ。既に選手権に出場する多くの選手の進路は決まっている。だが、ハードのトレーニングの傍ら、県内有数の進学校の中で、勉学も怠らなかったという原は、推薦入学の誘いを断り、ギリギリまでプロ入りの道を画策。同時に、一般入試での関東、関西の名門大学の受験準備も進めて、自身の可能性を探り続けた。

そんな原の元に〝第一の吉報〟が届いたのは、選手権の準々決勝、VS 市立船橋に敗戦を喫した翌日。Jリーグクラブから練習参加の声が掛かるのは初めてのことだった。

「自分が練習参加を聞かされたのは選手権に負けた翌日で、(名古屋高校の)大久保コーチに、札幌のキャンプ呼ばれたから行くか?と聞かされて。すごい嬉しかったですね。このチャンスに懸けようと

原の意気込みの強さと知性を感じるエピソードが一つある。

札幌のスタッフが「受験勉強も大変だろうけど、時間があれば、是非札幌の試合を見てから練習に臨んで欲しい」そう声をかけると、原は札幌のゲームを数試合分、チェックし、レポートを作成。驚くべきはその内容だったという。チーム戦術やビルドアップの仕方。ポジション毎の動き方が緻密に分析されており、その的を射た内容の深さは一見の高校生レベルを超越し、スタッフ陣も驚きを隠せなかった。

彼のサッカーIQの高さは、約1週間の〝ラストチャンス〟でも存分に発揮されたとあるスタッフは語る。

「彼の武器はまず、スピード豊かなアジリティとその初速です。その上で上手さもあり、プレー選択も冷静。でも、何よりも賢さにびっくりしています。初日の練習で上手くいかなかった部分があり、コーチがコンセプトを伝えて、動き方を共有すると、次の日には理解し、しっかりと表現できる。ワイドとしての動き方も動き出しのタイミングも理解している。学習能力の高さが彼の最大の強みかもしれない」

最後のチャンスに賭けていた当の本人は日本サッカーのレジェンドを含む先輩方にも貪欲に教えを請い、自身の成長に繋げる努力を続けた。「小野さんには、立ち位置だったり、ポジショニングや準備の部分について質問させて貰って、教えて頂きました。他の方々にも色々と細かく教えて頂き、ありがたかったですね。フレンドリーで本当にいいチームだなと。」

コンサドーレでプレーしたい。原の想いは高まったものの最終的な結論が出るのは翌1月28日。

最終試験に向けた前日練習を終えた原は最後にこう言葉を残してくれた。

『札幌のサッカーは難しいけど本当に楽しいです。明日はやるだけです!』

受験勉強をやり切った男の前日談のように感じてならなかった。

運命のトレーニングマッチ

キャンプ帯同最終日のトレーニングマッチ。原の出番は2本目の途中に回ってきた。ユース選手や地元クラブの練習生などが大半を締める急造チームだったが、原はその中でも存在感をしっかりと示す。

左ワイドを定位置に、チームコンセプトを体現しながら、自身のストロングであるドリブルで相手DF陣を華麗に抜き去る場面も作るなど、30分マッチで行われた3本目も含めて、計50分ほどプレーした。

終了のホイッスルの笛が鳴った瞬間、思わず原に視線を送ると、どこかやり切ったような表情を浮かべた。

試合後。チーム全体での締めの挨拶をして程なくすると、原はペトロヴィッチ監督の元に呼ばれた。

「いいプレーだったよ」と声をかけられると、最後はガッチリと握手を交わした。

夢にまで見た、プロ入りが決まった瞬間だ。私も思わず、心の中で拍手を送った。

原は高卒でのプロ入りが叶わなかった時に備え、キャンプ中も、受験勉強を続けており、当初の予定ではこの試合後に帰名し、2月1日に迫った大学受験に臨む算段だった。だが、彼の強い熱意とピッチで示した実力が夢への扉をこじ開けた。こ家族も「本人の望む道」とクラブへ然るべき確認をすると共に、強く後押ししてくれたという。

大学に行った方がいいのか?高卒でプロ入りする事がいいのか?どちらが正解なのかは分からない。だが、一つだけ分かっている事は、原自身が何よりこの道を望み、クラブも覚悟を持って、将来有望な18歳を仲間に迎え入れるという事だ。

強化を担当するスタッフは
「簡単な道では決してないけど、みんなが想像しているより早く試合に絡むかもしれないよ」と微笑んだ。

「速さと初速を活かしたドリブルが僕の持ち味です。でももっともっと上手くなって、結果を出せる選手、違いを見せられるような選手にならないといけない。高校とは違った、この上のレベルを知れたので」

内定が決まった直後とは感じられないほど、紡ぐ言葉に浮つきが感じられない。

地に足つけて、自分のやるべき事をやり続られる選手なんだろう。最後に札幌のキャンプはどうでしたか?と問うてみた。

「札幌のキャンプはめちゃくちゃ楽しかったです!」

微笑んだ笑顔は18歳そのものだった。

原康介くん、札幌入団おめでとう。そして何よりここからの歩みを応援している。

札幌U-18から昇格した出間思努とは同期に当たる。

ここからどんなプロキャリアを歩んでいくのか?我々の想像を超えてくる予感をさせる18歳が二人になった。

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