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音楽座ミュージカルの魅力が詰まった傑作 『リトルプリンス』

音楽座の作品として知られる『リトルプリンス』が、シアタークリエで上演されると知ったのはいつ頃だっただろうか。

演出の小林香さんは、2020年から『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』『マドモアゼル・モーツァルト』そしてこの『リトルプリンス』と、音楽座作品の演出を3作続けて手掛けている。前作『マドモアゼル・モーツァルト』がとても良かったこと、『リトルプリンス』の出演者を見る限りハズレることは無いだろうことをざっと頭で考えて、チケットを取った。

『リトルプリンス』の原作は、言うまでもなくサン=テグジュペリの『星の王子さま』だ。読んだのが昔すぎて忘れているので、ミュージカルを観に行く前に読み直してみた。

読んでから観てよかった。ストーリーはほぼ『星の王子さま』だったからだ。ミュージカルを彩る曲の魅力に集中することが出来た。

アクシデント

公演に行く2日前、5kgのお米をいつもの入れ物に詰め替え、その入れ物を持ち上げた私の腰に、激痛が走った。

・・・動けない。

それでもしばらくじっとしていたら少し動けるようになったので、ロキソニンを飲んで会社に向かった。どうしても出社しなくてはならない用事があったのである。

事情を話して、用事を済ませた後は早退させてもらった。
ロキソニンを再び飲んで、何とか会社を後にした。

数メートル歩くたび、電流が走ったような痛みが腰を襲う。電車に乗って立っている間は良かったのだが、うっかり座ってしまった。立つのが大変だった。

何とか家にたどり着いたはいいのだが、やっぱり痛い。
翌日は在宅勤務にさせてもらったが、ずっと座っているのもつらかった。

はたと気が付く。

私は公演の間じゅう、普通に座っていられるのだろうか?


早めの到着

MUJIカフェのあったところにオープンした、「カフェ&ダイニング アーチ HIBIYA」でランチにしようと、少し早めに日比谷を訪問した。

メインとアラカルト2品を注文

とても美味しかった。

日比谷でのランチは、シャンテ地下にある「タンドール料理 ひつじや」が個人的定番なのだが、こちらはMUJIカフェ同様、窓から東京宝塚劇場が眺められるのがいい。
東京宝塚劇場でマチネ公演を観る前か後、ここでゆっくりするのが定番になりそうだ。

キャストは・・・

キャストについてざっと紹介しておこう。

王子・・・土居裕子/加藤梨里香(Wキャスト)
飛行士/キツネ・・・井上芳雄
ヘビ・・・大野幸人
花・・・花總まり

ミュージカル『リトルプリンス』公式ホームページより

シアタークリエでキャパシティは大丈夫か? と心配してしまう豪華キャストなのだが、意外にもすんなりチケットは取れた。私が行く公演では、王子役は土居裕子さん。事前に原作を再読したので、飛行士とキツネを同じ役者(しかも井上芳雄さん)が演じることの意味を、あれこれと脳内でこねくり回す。

どうせ、劇場に行ってしまえば全部を歌に持っていかれてしまうのに。

曲の魅力その1:冷たい風

王子の星にやってきた花(花總まりさん)。
水が欲しい、風よけが欲しいとワガママ放題。
それもそのはず。王子の星には火山とバオバブしかない。
コミュニケーションが取れる相手は、王子だけ。
花は、きっと他のたくさんの花たちと暮らしていたのだと思う。
他の花たちと一緒なら、一緒に風をしのげるし、愚痴もこぼしあえる。

誰かと一緒にいることが普通の花。
一人でいることが普通の王子。

うまく相手を理解することができなくて、王子は星を出て行ってしまう。その時に花が歌うナンバーが「冷たい風」だ。

花は、王子がいなくなってしまったことを後悔する。

ワガママ 強がりも
あなたが好きだから
風にささやく

お願い 届けて
素直な気持ち お願い

大空高く 飛んで行く
あなたの姿 探しているの

もう2度と会えない

ミュージカル『リトルプリンス』 「冷たい風」より

この「お願い 届けて」あたりから「あなたの姿 探しているの」あたりを歌う花總まりさんが圧巻だった。声の艶、王子が心を寄せる「花」にふさわしい愛くるしさ、華やかさ・・・決して広くはないシアタークリエが、花の感情と艶やかさでいっぱいになる。

花總まりさんは、NHK『あさイチ』で井上芳雄さんと生歌唱を披露しておられたが、生歌は数段迫力が違った。いや井上芳雄さんも同様なんだが。
参考までにその時の動画へのリンクを貼っておく。

すでに発表されている、秋からの『エリザベート』も楽しみだ。
チケットが取れるかどうかは、まったく分からないけれども。

曲の魅力その2:アストラルジャーニー

王子は、自分の暮らしていた星を出て旅に出る。
小さな星を出ることの不安と、旅への期待感を歌う壮大なナンバーがこの「アストラルジャーニー」だ。

曲の前半は、自分が暮らした星への思いと、残してきた花へのわずかな後ろめたさが胸に沁みる。花と王子と飛行士の3人が奏でるハーモニーが絶妙で、うっとりしてしまう。

転じて後半は、力強く壮大な旅への期待と、見つかるはずの「何か」へのワクワクに満ちている。

壮大で、明るくて、前向きな音楽がどっと身体に流れ込む。
圧倒された。

曲の魅力その3:シャイニングスター

物語のラストで、王子はヘビに噛まれて星に帰る。
その時に歌われる曲が「シャイニングスター」である。

誰でももっているさ ひとつ大切なものを
この空に輝く星 ぼくもひとつ 君も

さよならなんかじゃない 悲しいことじゃないのさ
出会えたことがすべてさ 寂しいときは 空を見上げて

(中略)

輝く星たち 誰でも帰る世界
いつかは君もたどりつく 星空の中へ

僕らは夜空で輝き 時を超えて
いつまでも 見上げる人たちを照らすだろう
行こう あの星へ

ミュージカル『リトルプリンス』より「シャイニングスター」

曲自体が物語を総括する内容になっているのも、勿論心惹かれるポイントなのだが、とにかく土居裕子王子の歌声が素晴らしくて、自然と涙があふれてきた。

「行こう あの星へ」のところのロングトーン。思い出しても身震いする。
と振り返っていたら何と、今夜の井上芳雄さんのラジオに土居裕子さんが出演するという。そして、「シャイニングスター」をデュエットするらしい。

ええと・・・radikoでラジオってどうやって録音するんだっけ?出来ないんだっけ?と真剣に悩んでいる。

土居裕子王子の魅力

音楽座で上演していた時代も王子を演じておられた土居裕子さん。王子そのものだった。

『星の王子さま』の王子は、純粋で、まっすぐで、思いやりがあって、好奇心旺盛だ。土居裕子さんの演じた王子の優しく美しい歌声は、まっすぐ観客の心に届くように感じられた。

土居さんが板の上で見せてくれた、少年性を煮詰めて抽出したようなピュアさに心を揺さぶられた。現在は後進の指導に当たられているようだが、もう少し板の上の姿を見せてくださると嬉しいなと思う。

大野幸人さんヘビの身体能力が凄い

ヘビ役の大野幸人さんの動きが本当にヘビそのもので、度肝を抜かれた。

言葉で表現しきれないのが悔しい。でも、大野さんのヘビっぽい動きはとんでもなく秀逸で、身体の柔軟性と、柔らかな筋肉と、筋肉をコントロールする力とが合わさらなくては実現できないと思う。

とにかくすごかった。

終わりに 音楽座ミュージカルについて思うこと

『マドモアゼル・モーツァルト』の時も感じたことだが、外国のミュージカル作曲家の曲ほど難解ではないものの、じんわり心が温かくなるようなナンバーや心をぐらぐら揺さぶる壮大なナンバーを、物語の適切な箇所で入れてきているように思えた。日本人の脚本家と日本人の作曲家が組み合わさってこそ実現できることなのではないだろうか。

今度は、音楽座が上演しているミュージカルも、ちゃんと調べて観に行ってみたい。

そして、とてもとても贅沢なキャスティングだった。
井上芳雄さんと花總まりさんを次に拝めるのは、来年の『エリザベート』博多座公演だろうか。博多座まで行けるご時世になることを祈ろう。

不安を抱えていた腰は、やっぱり痛かった。
家に帰るのは、一苦労だった。

でもやっぱり、観てよかった。

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