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桜を見上げる 記憶は巡る

満開の桜を見上げるたびに、思い出す。

臨月の身体を横たえて、そろそろ寝ようかとぼんやりしていた22時、スマホに着信があった。誰がかけてきたかを確認した後、まあいいかと黙認する。3度目の着信で、様子がおかしいことに気付く。

電話の向こうの友人は、いつになく神妙だった。半年前のカジュアルさは、どこへ。突然の訃報。この前一緒に会ったよね?頭の中を「?」がぐるぐるしたあげく、もうすぐ産まれるし無理、と理解不能な言葉をぶつけてしまう。

家族に事情を話して、通夜へ向かう。
道すがら、壮大なドッキリに付き合わされているんじゃないかと錯覚する。なんの冗談だよ、不謹慎だぞ。顔を見たらそう言ってやるんだ。彼女はあはは、ごめんと笑うだろうか。

友は棺の中にいた。笑いも謝りもしなかった。目の前で行われている読経や焼香の意味が、すとんと腹に落ちてこない。そのまま終わる。通夜振る舞いの部屋に案内されると、まるで同窓会。

中2の時同じクラスになった彼女は、「塾はどこに行ってるの」「部活は何をやってるの」とやたら色々訊いてきた。正直に答えていると、いつのまにか塾では隣のクラス。部活ではチームメイト。志望校は違ったのに、なぜか高校も部活も同じ。あげくの果てに大学も学部も同じ。

知った顔しか居ない部屋でぼんやり立っていると、臨月のわたしに気づいた高校の同級生が椅子を勧めてくれた。座って、たくさん思い出話をした。入れ替わり、立ち替わり。

お腹の中で命が蠢く。これは自分の身体なのだろうか。わからなくなる。

わたしたちの卒業した高校はすぐ近く。誰かが「桜を見に行こう」と言い出す。断る理由はない。のんびり後ろからついていく。

満開までもう少しの桜たちを、みんなで見上げた。夜空に浮かぶ桜は無駄に美しかった。不意に、16歳のわたしと彼女がやってくる。

「おう」「また、よろしく。…ところで、部活決めた?」

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