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第31夜◇秋の野に人まつ虫の声すなり~よみ人知らず

秋の野に 人松虫の 声すなり
我かと行きて いざとぶらわん


(意訳:秋の野に、人を待っているような松虫の声が聞こえる。私を待っているのかもしれないから、いざ尋ねてみよう。)

よみ人知らず 古今和歌集

朝は落花を踏み連れだって出かけ、
夕には飛鳥にしたがって共に家へかえる。

そんな家族と、友人と、大切な人と、いつか別れるときがきて、ひとりぼっちになったら、松虫の声をきいて、いつか待っていてくれた誰かを、誰かとすごした時間を、思いだせるかな。

鳴き声がするほうに、あの人が待っているかもしれないから、行ってみよう。姿は見えなくても、待っているかもしれないから。

長い間わすれて過ごしたとしても、こんな秋の夜は、松虫の声をたよりに、尋ねてみよう。いつか失くした愛しいときも、これから失うあたたかな体温も、手繰り寄せれば、そこでまた会えるのかな。

りんりん…と鳴く声は、わたしを待っている声なのです。