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本07 『世界の中にありながら世界に属さない』(著:吉福伸逸)

すべて「胡蝶の夢」である

2014年の折、池田晶子さんの本を読んでいた同時期に、読んでいた本がある。
本屋で、心理学系の本棚をぶらぶらしていたときに見つけた本だった。「◯◯療法」「◯◯学」といったタイトルで分厚く難しそうな本の中に、無駄のないフォントで書かれた背表紙が美しく目を引いた。

この著者である吉福さんと池田さんの著作に共通して感じる点としては、みずから探究し尽くした境地と、シンプルで強い表現、そして、けして読者に依存させない書き味かもしれない。
そう書いていて、中学生の頃に出会って以来、大好きであった茨木のり子さんの詩に似ている気がした。

吉福さんは、トランスパーソナル心理学という領域を背景に持つ方で、人に影響を与える力学、日本人の特徴、自己・自我など、深い洞察が述べられています。人や世界の観方について、ファシリテーションという仕事を志す上で、最も影響を受けてきた。

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冒頭で、指摘しているのが、4つの力について、「思考の力」「感情の力」「存在の力」「パワー・オブ・ダンス」(あらゆる関係性のこと)についてふれている。※枠組みを示した上で、著者は「システマティックにそれを定着させたくない」「ほんとうにラフな形でそれぞれ個人で消化」してほしいと言っている通り、参照までに。

「存在の力(Power of being)」について、著者はこう続ける。

「人生の中で何度も大きなアイデンティティの破綻を経験し、そのアイデンティティの破綻をしっかりと受け止めることができれば、基本的に存在感と存在力が増していくとぼくは考えています。ただし、これを一般社会はあまり認めてはくれません。終始アイデンティティが破綻する人は、他人から見れば飽きっぽい人、信頼できない人、職業に就いても続かない人というように捉えられてしまうからです。
「ーそうやって存在の力がついてくると、受け入れられることがどんどん広がっていきます。受け入れられないものが減っていき、世の中の常識をはるかに外れてしまったことが目の前で行われたり、自身の身に降りかかろうとしても、それを受け入れられるようになっていきます。それが受け入れる力を持つ、要するにハラが据わるということなんですね。」

20代の私は、日本の働き方や上下関係の明確さを求めるコミュニケーションなど、あらゆることに馴染めず早々と断念し、アイデンティティが破綻されてしまったような気がしていました。吉福さんの言葉たちに、どれだけ勇気を頂けたか、わかりません。

ただし、このアイデンティティの破綻を「自覚的」にせよ、同じパターンの繰り返しでは幼少期のパターンの繰り返しでしかない、と述べています。そして、「人間は基本的に成長しない」「変化する」だけ、とも。
「力-ちから-」という言葉は、日本において「◯◯力-りょく-を身につけよう!」みたいな本のタイトルを連想される傾向があるかもしれませんが、そういうムキムキと筋肉のように鍛え上げるという発想ではなく、逆に要らないものが手放されて、自分のエネルギー源が湧いてくる、とかそういうイメージで私は捉えています。

著者が、最後のあたりで伝えているメッセージは、愚かであるすすめ。

「人は世の中で愚かなことをするのが本当にいちばんいいんですよ。」
「社会からどう思われようと、世間からどう思われようと、そんなことは関係ないんですよ」

10年近く経ち、32歳になった自分にとっても、しみじみ響いていきます。
さあ、アイデンティティを破綻するのだ!

ちなみに著者は「それでその後どうなるか。そんなことはぼくの知ったことではありません」と言っています、でも何かは変わるでしょうよ、と。

荘子が言うところのすべては「胡蝶の夢」である。

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『世界の中にありながら世界に属さない』(著:吉福伸逸)

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