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人生初のアルバイトをたった1日で辞めた話。

決死の大学受験を終えて晴れて大学生となった私。
ありがたいことに一人暮らしで、仕送りも十分すぎるくらいもらっていたけれど、周りがどんどんとアルバイトをはじめていくのを見ていていてもたってもいられなくなって、私はある日、アルバイトをしようと思い立った。

いろんなアルバイト失敗談はたくさんネットで収集していたので、安心安定、誰でも知っているところで働こうと私はみんな知ってる某コンビニチェーンを選んだ。

まずは面接。
はじめて書く履歴書。何度も失敗して書き直してやっとのことそれを提出すると、経歴を見るまもなくあっという間に採用が決まり、明日からきてほしいと言われた。

そして、初出勤。
ちょうど授業もない休みの日だったので、長く入ってとにかく仕事を覚えようと何時間だったかは忘れたが、ロングのシフトに入った。

結論から言うと、アルバイト未経験の私にとってそこは戦場であり、地獄だった。

まず、最初に思ったのはコンビニって予想以上に覚えること、やることが多かったこと。とにかく言われたことをこなそうと必死にメモをとりまくったが、全然追いつかない。

レジ対応も、商品をスキャンするだけではない。
カフェメニューだったり、ホットスナックだったり、スキャンする以外のページがいくつもレジに並んでいる。そして、公共料金や配達物の対応まで矢継ぎ早に説明されるからすぐにキャパオーバーになった。

そして、そこから、品出し、廃棄の商品についての説明。
レジの様子を確認しながら、素早く、お客様の邪魔をしないように、お客様を待たせないようにちゃちゃっと終わらせていく。

無理無理。
その時点でギブアップだった。

コンビニ店員さんてすごい。
ぬくぬくと生きてきた私にとって
目からうろこの事実だった。
勉強できるのと、てきぱきと仕事をこなすのって全然違う。
そう学んだ。

そして極めつけは方言ギャップだった。

私が進学したのは関西の大学であり
勤務したコンビニも地元の方が多く、関西弁のものすごいスピードで説明をされた。
九州の田舎出身の私にとっては、テレビで見る関西弁であり、あ~これが本場の関西弁か~。などと感心するのもつかの間、その勢いとスピードに一気に恐怖を感じてしまった。

「怖い。」

そう感じてしまったが最後、今だから思うが、私を指導してくれた方はきっと丁寧に説明をしてくれていたであろうはずなのに、何を言われても恐怖しか感じなくなってしまった。

そして事件が起こる。

少しお客さんが落ち着いたとき
店頭に並べているホットスナックの時間の期限がきたようで
先輩から

「そこにあるホットスナックほかしといて。」

そう告げられた。
「ほかす?」
「ほかすってなんだ?」

疑問符が浮かんだのだけれど、これ以上私の指導に時間を奪ってしまうのも申し訳なくて、私はとにかく頭で考えた。

「ほかす、。ほかす、。あっほかほかにするってことか!!」

そう閃いて私は並んでいたホットスナックをもう一度油に入れる選択を選んでしまった。

「なにしてんねん!」

そう怒られてしまいあーもうだめだ。私はそう悟った。
「ほかす」=「捨てる」という意味だったという。
まさか、同じ日本で、言語の壁を感じる日がくるとは。。。

そうして、あまりの情報量と、人に怒られたり、挫折した経験がほぼほぼなかった私は、メンタルがズタボロになって帰宅した。
一人でいるのがつらくて、苦しくて、高校時代の同級生に泣きながら電話をかけたのを覚えている。
そのときの友人にも今も感謝しているのだが、その友人は、バイト初日で教える量じゃないとか、怒るとかありえないと言って、ただただずっと私を慰めてくれた。
そして

「別に死ぬわけじゃないんだし、とりあえず辞めたら?また合うとこ探したらよくない?」

「たしかに。」
それなりにずっと体育系の部活に所属していた私は、つらいことがあっても、辞めない、めげない。みたいな精神で育ってきていたから、その発想がなさすぎて驚いたけれど、なんか悩んでる私がばからしくなってきて、翌日やっぱり辞めます。お給料?はいらないです。と言って二度とそのバイト先を訪れることはなかった。


それから早10年が経とうとしている。


今となってはこの話は私にとって笑い話である。
当時は全然笑えなくて、そこからアルバイト恐怖症になって、1年くらいアルバイトできなくなったり、コンビニで聞こえてくるBGMに背中がびくついたりみたいな結構しんどい状況が続いていたけれど、ほんとに今となってはいい想い出で、いい笑い話になった。


そして改めて良い経験をしたなと思う理由が2つある。

1つ目。
私自身、比較的裕福な家庭で育って、それなりに賢い進学校へ行き、大学もそれなりに名前のあるところに受かった、ある意味ぬくぬくとした、社会の厳しさ的なものとは無縁なところで育ってきた人間だった。
だからこそ、正直アルバイトをする前は、所詮、コンビニ店員。勉強ができてきた私、そのくらい、楽勝だろって心のどこかで思っていたのである。
けれど、それは愚かなことだ。そう気づいて、大人になれたことは本当によい学びだったと思う。
今でも、コンビニ店員さんのきびきびした動きをみるとすごいなって思うし、最近増えてきた、海外の留学生の方が店員をされているのを見ると、こんな異国の地で、難しい言語をしっかり習得して、きびきび動いているのにはなおさら感動してしまう。
仕事に優劣なんてものはない。それを身をもって学ぶことができた。


2つ目。
所詮少しミスったくらいで。とこの文章を読んだ方の中にはそう思う方もいるかもしれないが、正直驚くほどに私はこの出来事に落ち込んで病んだ。
私はアルバイトすらできないのだから、社会に出れないかもしれない。とか
なんとか言って、本当に病んだ。
けど、そのうち大学でやりたいことができて、そのやりたいことをやるためにはお金が必要で、だからやっぱりバイトしなきゃって思ったら、結構すんなり私はまたアルバイトをはじめることができたのである。
そう、アルバイトも仕事も所詮は、ただのアルバイトであり、ただの仕事。
それが人生のすべてになりうるはずがなくて、ある種お金を稼ぐための手段だったりでしかないんだよって。そうやってアルバイトとか、仕事を自分の人生の中心においてしまおうとするからつらいんだよって。意外と今聞いてもあーそうかって改めて思ってしまうような大切なことを気づかされた瞬間になった。


よき経験としてこれからも胸のうちにしまっておこうと思う。



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