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【小説】好きの方向 vol.14

 その日のアスファルトの道路が白く、歩道に生えている草も霜が降りて真っ白になっている。2月の冬の朝は、氷点下2℃の気温だ。
 午後になって陽が差しかかっても気温は5℃にしか上がらなかった。
 滋田桜子がアルバイトをして働いているこの倉庫の中も、コンクリートが敷きすめられて地面からの冷えが、氷の上を歩いているかのような冷たさだった。ボーリング場のレーンのような長い棚が相変わらず幾重にも並び、この日も寒さに耐えながら桜子は、皆から遅れをとるまいと気にかけながら作業に取り組んだ。
 そういえば、坂上くんは午前中からこのアルバイトの仕事が入っていた。
 なのにもう、午後の部仕事を私より半分は終えていた。
 
 休憩のチャイムが鳴った。
 ポケットからスマホを取り出して、何か坂上くんからメッセージが、届いてないか確かめてみたが、どこかのアプリからの、お知らせのメッセージのみだった。
 桜子は、スマホ画面から目を離し、正面を見ると、坂上くんが休憩に行こうとしているところだった。
「坂上くん!」
「あっ、滋田さん」坂上くんは、休憩しに行く足を止めた。
「もう直ぐ、卒業だね」桜子は、走って坂上くんの近くまで来て、そう言った。
「はい。明日は、高校最後の学食なんですよ。美味しくいただいて来ます」そう、答える坂上くんの笑顔は、アイドルっぽくて、可愛いらしさと男らしさがあった。
「そうだね。ところで、浜田レイさんは今日は、お休みなの?」
「浜田さんは、最近午前中だけのシフトですよ」
「そうなんだ」

 この日、アルバイトが終わって自宅へ戻った桜子は、直ぐに坂上くんに
「お疲れさま」のメッセージを送った。
 すると、直ぐに坂上くんから返信が返って来た。
 坂上くんは、高校を卒業すると就職することが決まっていて、卒業すると当たり前だがアルバイトを辞める。
 
 次の日、大学で午後からの講義前に桜子は、坂上くんに、
「最後の学食、味わって食べましたか?」のメッセージを送った。
 講義を終えると、坂上くんからメッセージが届いていた。
「うん。カレーだったけど。味わって食べたよ。満足」
 そんな簡単なメッセージだったけれど、彼の純粋さが表現されているように桜子は、思えた。

 
 大学の満開の桜が、風で散り始めている。
 桜子は、あのいつものアルバイトは辞めた。
 坂上くんが、高校を卒業して就職すると、坂上くんにメッセージをしても返信が来なくなった。
 
 そんなある日、夜の空に下弦の月が輝いているころ大学から自宅に着くと、坂上くんからメッセージが届いていた。
「お疲れさまです。そしてお久しぶりです。お元気ですか?僕は、仕事に少しばかり自信が持てなくなりました。でも、そんなとき前々から気になっていた浜田レイさんに相談して。会うことになりました。そして、今ではお付き合いするようになりました」と嬉しそうな絵文字も入っていた。
 
 好きだった坂上くん、好きだった里中先輩どちらも私には背を向けられてしまった。どちらかの二人にと「好き」とハッキリ言えばよかったのだろうか?
 たとえ言ったとしても、好きの方角は、初めから決まっていたのかも知れないのだと、桜子は思った。
 
                了


 ご愛読いただき、ありがとうございました。
 拙い文章ですが、最後まで読んでいただいて感謝しております。
 これからも精進してまいりますので、
これからも宜しく、お願い致します。

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