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【小説】好きの方向vol.12

 近くを通る店のほとんどは、ハロウィンの飾りからクリスマス仕様に塗り替えられていた。
 時々吹く風は、滋田桜子のアイビー色のロングコートの裾をなびかせた。
 大学を通う駅の改札口を通って、駅のホームで電車を待った。
 あの手紙を里中先輩は、読んでくれたのかな?
 
 軽音部のサークルの部費を渡す時、桜子は封筒の中に部費のお金を入れるのと一緒に手紙もいつも中に添えていた。「好き」や「愛してます」的なことは書かないと自分なりに心に決めていた。
 
 あれ出来たらいいのにな〜って、人が集まった時、言い合ったら楽しいらしいです。
 あと、もし落ち込むことがあったら、新しい知識を身につけるといいそうです。
 私、高校生の入学前にsnsで、◯◯高校でバンド一緒にやりましょうって呼びかけたんです。入学して、そして来た人が男子1人で、
「お前、レベル低く〜」とか言われて、おしまい。
 そんなこともありました。
 すみません。
 つまらない文章でしたね。
 では、部費入れておきます。

 そんな、どうでもいいような手紙。
でも、里中先輩に自分を印象付けたかったのだと桜子は思った。

 電車が、桜子の前に止まった。そんな時、鞄の中にある携帯電話が振動した。
 里中先輩からメッセージが届いている。
 なんなんだ、この手紙。
 まあ、いいけど。

 来週空いてるか?
 久々に飲みに行こう。

 思わず、ガッツポーズをした。座席に座っている。中年の女性が、少し変な様子で桜子を見ていた。

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