友人

来週、友人に会う。最後に会ったのはもう1年以上前だ。

わたしたちが出会ったのは高校のとき。
成績はそこまで悪くなかったけれど、彼女はなんだかバカだった。わたしの話が理解できないとき、彼女は「きょとん」という顔をする。「どういうこと?」と直接聞かれることもある。自分の話し方に問題があるのかと悩んだこともあったけれど、他の友人には支障なく伝わるので、「こいつがバカなんだ」と結論づけた。

同じ話を繰り返し説明しなければならないのは面倒だった。それでもわたしは彼女と話すのをやめなかったし、彼女も一生懸命に聞いてくれた。

彼女は目が大きく童顔で、やせているのにおっぱいが大きいなんだかエロい体をしていた。しかもちょっとバカなので、とてもモテる。しょうもない男がたくさん寄ってきて、彼女はそのなかでも選りすぐりのしょうもない男とばかり付き合った。

高校時代に付き合っていたのは、自分たちが2組なのに3組の女と浮気するようなどうしようもない男だった。3組の女もすべて知っているうえで彼女に教科書を借りにくるような嫌な女だったけれど、彼女がいつもにこにこしていたので、わたしはなにも言うことができなかった。

「騙された」と深夜に電話がかかってきたのは、高校を卒業して少したってから。すでに彼女はどうしようもない男と別れていたけれど、なにかのきっかけで浮気されていたことを知ったらしい。あんなにあからさまだったのに、まさか気づいていなかったなんて。驚愕し、それを伝えると、彼女は「言ってよぉ〜」と泣いた。

それからも彼女はどうしようもない男に引っかかり続けた。その男だめだと思う、と伝えたところで、「うーん」と曖昧に笑うだけ。必ず浮気され、嫌な別れ方をした。
地元で有名な占い師のところへ行った彼女から、「あなたにはもっと優しい人が合ってるって言われた!」とうれしそうに報告されたことがある。散々同じことを言ったわたしには少しも耳を貸さなかったくせに、見ず知らずの占い師に5000円払う意味がわからなかった。

わたしが悲しいとき、悩んでいるとき、彼女は困った顔をした。内容は理解されていない気がしたけれど、心許なさのようなものは感じてくれたらしく、ときには泣くこともあった。なんであんたが泣くの、というと、彼女は「だって」といって泣き続けた。サプライズで誕生パーティーを開いたときも涙を流し、なんで泣いてんの、と聞くと、「だって」といって笑いながら泣いた。

そうこうしている間に、彼女はとびきりのろくでなしと付き合い、結婚した。仕事が続かず嫉妬深く、本当にいいところが見つからない男。その男どうかと思う、と伝えたけれど、「そうだよねぇ」と曖昧に笑うばかり。

彼女はろくでもない男が住む土地に引っ越し、連絡を取る頻度はぐっと減った。新婚夫婦が住む家は夫が独身のときから住んでいる6畳のワンルームで、時間帯によっては着信が夫の気に触るらしいと聞いてからは、よりいっそう難しくなった。

出張のときに時間を合わせ、久しぶりに会った彼女は「こんなに遠くまで来てもらってごめんね」といった。出張のついでなんだから気にしないで、というと、「うん、ありがとう、ごめんね」といった。前よりやせていて、寒い時期なのにぺらぺらのワンピースを着ていた。

何度も夫から着信があり、そのたびに「ごめんね」とわたしに断って通話し、悲しい顔をして切った。何度目かの電話のあと、彼女は「ごめんね」といって帰ってしまった。会ってから1時間半。そのほとんどを夫と通話していた。

さみしくなったので、夜に会う約束をしていた別の友人に電話する。すぐに会えることになった。
友人も少し前に彼女と会っていて、ケンカの最中に火のついたタバコを投げつけられたこと、突き飛ばされてぶつかった郵便受けが壊れたこと、会ったときに聞いたという、彼女が夫からされたさまざまな仕打ちについて怒りながら話してくれた。

夜に彼女から「帰っちゃってごめんね」とLINEが入る。そんなことより大丈夫なの、と聞くと、「大丈夫だよー(^^)」と返事がきた。

半年ほどたって、また出張のときに時間を合わせ、彼女と友人で3人で会った。新婚旅行で行ったというフィンランドのおみやげをくれたけれど、前回会ったとき「ダンナには前の仕事で退職金をもらったことを内緒にしてる」と言っていたことを思い出し、素直に旅行の話が聞けなかった。

友人の息子の話や当時のわたしの彼氏の話をしていると、彼女のスマホに着信。彼女は電話口に「ごめんね」といい、わたしたちに「ごめんね」といった。夫が隣の駅で飲んでいるから、帰りの電車を合わせなくてはいけないそうだ。
店の外まで送ったけれど、彼女は振り返りもせず駅に向かって走った。しばらくして、わたしたちふたりに「さっきはごめんね」とLINEが入った。

「DV被害 友人」などで検索すると、いくつものサイトがヒットした。大切なのは解決しようとせず、判断を尊重し、相手の話から自分がとらえたものを見せること。じっくり話を聞くことだと書いてあった。

そんなの知ってる。ずっとそうしてきた。
とびきりのろくでなしだとわかっていたけれど、彼女がいいならしかたがないと思った。どうかと思う、と伝えたけれど、「そうだよねぇ」と曖昧に笑っていた。擁護しようとしたであろう夫の話は、聞けば聞くほどろくでもなかった。

なんでこんなにバカなんだろう。彼女が不幸せだと一概にはいえないけれど、自分がなにを幸せと感じるのか、考えてほしい。それを伝えたら、「どういうこと?」と聞かれるだろうか。「ごめんね」と謝るだろうか。

#エッセイ #DV#友人

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