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誰も取り残さないDX -放課後デイ運営会社がDXを積極的に進める意味-


DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれていますが、当社でも数年前から取り組みを進めています。当社で行ってきた試行錯誤からすると、私は福祉事業所のDXは大きく5つに分かれると感じています。

  • 労務のDX

  • 経理のDX

  • 事務管理のDX

  • 人材マネジメントのDX

  • 現場業務のDX

労務のDX

従業員の勤怠管理(打刻や有給休暇、年間出勤日数などのカウント)から給与計算、そして給与明細の発行をデジタルを行う部分です。当社ではKING OF TIMEというクラウド上の勤怠管理システムを利用しています。これで自動集計したデータに基づき、給与計算ソフトで自動計算させます。当社ではマネーフォーワード・クラウド給与を使用しています。そして、算出された給与額が表示される給与明細ですが、当社ではSmartHRというクラウド上の労務管理ソフトを使用してます。

SmartHRは、給与明細発行機能がついていますが、メインの利用目的は雇用に関わる書類のやりとりです。年末調整や雇用契約書、マイナンバーや住所変更など、今まで紙でやり取りしていたものをすべてクラウドで行います。画面上で整然と管理でき、期限があるものについてはリマインドしてくれるので、パートさんの契約更新の期日を忘れたり、書類の回収漏れなどがなくなりました。労務のミスは小さくても従業員さんとの信頼関係に影響がありますので、とても助かっています。その他、従業員さんの履歴書や経歴、社内での異動履歴、資格証明書なども管理できて便利です。社会保険労務士さんにも当社のSmartHRにアクセスしていただき、保険手続きもオンラインで行っていただいています。

当社では勤怠管理はKING OF TIME、給与計算はマネーフォーワード・クラウド給与、労務管理はSmartHRと目的に合わせて使用するシステムを変えています。中にはこれらを一つのシステムで実現するグループウェア、例えばサイボウズジョブカンdesknet's NEOなどもありますが、どれもまとまっていて便利な分、それぞれの機能には不足している部分があると感じ、当社ではばらばらのシステムを使用しています。ばらばらでもデータ連携は可能ですので、スムーズな業務を行うことができます。

経理のDX

当社では、労務部門のDXに目処がついた時点で、経理システムのDXに踏み切りました。当社では顧問税理士の紹介で、TKCのFX4クラウドを使用しています。

経理システムをDX化する最大のメリットは、やはり入力作業の軽減です。給与の流れで言えば、給与計算ソフトで従業員一人ひとりの振込額が確定したら、あとは振込まで自動で行ってくれることです。DX化以前は、従業員一人ひとりの振込額をネットバンキング上で打ち込んでいました。この作業はいっさいなくなります。時間が削減できると同時に打ち間違いもなくなります。

さらに、入力が不要になるのは銀行の通帳の転記、他社への振込、領収書、現金出納帳などあらゆるものが対象になります。通帳はデータを直接、システムに取り込めますし、他社からの請求書や領収書、現場の現金出納帳などは写メやスキャンで自動的に数字に変換してくれてシステムに取りこまります。仕分けも、一度行ったものは覚えていて、次回からは自動で行うようなったり、類似のものを学習していって自社に合った経理システムへと成長していきます。

事務管理のDX

当社では、稟議書や精算、日報やヒヤリハットなど、提出物のワークフローをジョブカン・ワークフローというクラウドのシステムを利用して管理しています。ジョブカンにはさまざまな機能がありますが、ワークフロー機能だけを利用しています。それまではメールやFAXで行っていましたが、上長や社長に行き渡るまでにとにかく時間がかかっていましたが、このシステムを使えばどこにいても承認できますのでとても便利です。

採用の管理にはkintoneを利用してます。kintoneはデータベース機能を持たせることができますので、求人に対して応募があった時から、面接日程の調整や採否、入社手続きの進捗、入社オリエンテーション、入社後の研修などを、総務や人事、研修の担当者など関わる全ての人が閲覧できます。それぞれの担当が職務を終えたら日付を入力することで、次の担当に自動的にお知らせが届きますので業務の進行がとてもスムーズになりました。

社内の伝達は主にChatworkを利用しています。ChatworkはLINEのビジネス版のようなもので、使い方はほぼ一緒です。大きな違いは、Chatworkは社内だけのクローズドな使い方できること、そのためセキュリティが堅牢なこと、メッセージをタスク化できることなどが挙げられます。タスク化とは、メッセージそのものに期限をつけて、期限が来たら知らせてくれるというものです。また、既読機能がないことは賛否ありますが、ビジネス用途としてはありではないかと思っています。検索機能やファイル保管機能も充実していて便利です。当社では役員だけのグループ、マネジャーグループ、研修会ごとのグループ、プロジェクトチームごとのグループなどLINEのグループ機能のような使い方も駆使しています。

人材マネジメントのDX

人事関連については、当社では二つのシステムを利用しています。一つめは評価制度を管理するもので、あしたのクラウドです。当社では一年を2期に分けて評価シートを作成し、従業員のキャリア形成と昇給昇格の評価、賞与計算を行っています。その評価シートをあしたのクラウド上で従業員自らが上長の支援を受けながら作成します。導入前はエクセルで管理していましたので、エクセルに入力したり、印刷して手書きしていたりしていました。エクセルにしても手書きにしても管理が煩雑になったり、定期的にきちんと中間面談や評価面談が行えていなかったりで、評価制度自体が定着できていませんでした。システムを導入することで個別管理や日程管理ができるようになり、やっと評価制度が定着しました。

人事関連の二つめのは1 on 1ミーティングで利用しているカケアイというシステムです。当社では1 on 1ミーティングは評価面談とはまったく違う役割を持たせており、従業員一人ひとりがより身近なところで感じる仕事の悩みや課題、漠然とした将来のことについてなどを1回30分で話します。従業員はカケアイ上でその日に話したい内容を事前に上長に伝えるので、上長は準備ができます。また、その日の感想や1 on 1を行った上での気分の変化を記録することができるので、それを集計した、双方の傾向を表すグラフが後から役に立ちます。このシステムを導入したことで、1 on 1ミーティングが定着したことが大きな収穫です。

現場業務のDX

現場のDXについては、上記の4つより早く取り組んでいました。それは請求業務のシステムです。当社は放課後等デイサービスが多く、リタリコの請求システムを利用しています。とても使い勝手がよく、助かっています。ただ、今後は保護者さんとのやりとりを行うツールや、急にキャンセルがあった時の一斉お知らせメール機能アセスメントや個別支援計画との連動業務シフト作成、配車管理などについてより業務を効率化できないかと考えており、いくつかツールを調べているところです。

個別支援計画の作成についてはco-miiというAIソフトを試験的に導入しています。しっかりしたアセスメント機能があり、それに答えていくことで個別支援計画を自動生成してくれます。それをもとに児童発達支援管理責任者がアレンジしていきます。モニタリングの時期や契約の更新時期などもリマインドしてくれるので、管理という側面からも便利かもしれません。

今後の課題

以上のように、当社ではその目的とする機能に応じてさまざまなDXツールを導入しています。それぞれのツールが専門性が高く、その必要な機能については申し分ない実力を発揮してくれるのですが、なにぶん、使う従業員からしてみれば、「多すぎてわけわからん」「一つのシステムにならないのか」という声もよく聞きます。前述したとおり、さまざまな機能を一つのパッケージにしたものはあるにはあるのですが、機能としては専門のものには劣ってしまう…悩ましいところです。その辺は今後の課題です。

DX導入の目的

当社にとってのDX導入の目的は6つあります。

  • 業務効率化により支援時間増加

  • 人手不足対策

  • ミスを減らす

  • 制度の定着

  • 属人化を防ぐ

  • 新しい価値の創出

今回は当社のDXの取り組みについてご紹介しました。この数年、試行錯誤を重ねてきました。「ツールを選定して導入すればうまくいく」という幻想はもうありません。導入することでそれなりにいろいろな問題にぶつかりました。その問題は会社によってさまざまだと思います。

当社では確実に業務効率化ミスの軽減が進んでいると感じています。ただ、それをデータでお伝えすることができないことは説得力のないところです。業務効率化により支援時間増加という点においても、従業員がデジタルツールを利用することで支援時間を増やすことができているかを立証するには至っていないのが現状です。

今のところ、省力化をいちばん感じているのは経理のDXです。入力作業がなくなったという時点でそれは明白でした。

ミスを減らすという点では、すべてのDXが当てはまると思います。二重入力や手書きがなくなる時点で数字のミスがまずなくなります。給与など特に金銭に関するミスは従業員の信頼を損ねますのでこの改善は大きなものです。

制度の定着については、評価制度と1 on 1ミーティングのシステム導入において大きな役割を果たしています。エクセルや紙ではできなかった時間や期限の管理をシステムがしてくれるのでとても便利です。

属人化を防ぐという点ですが、労務や経理は、ある特定の人しかわかっていない業務や慣習がとにかく多いと感じています。その人がもし急に退職したら業務が止まってしまう、給与支払いが滞ってしまうという状態です。その特定の人しか理解していなかった業務を、システムが覚えてやってくれるということは、経営のリスクマネジメントして大切だと感じています。もちろん、人手不足の解消にもつながります。

新しい価値の創出については、私たちが取り組んできた今までの試行錯誤を通じて、システムに関する新たな発見や価値を見出せないか、何か新しいビジネスを構築できないかと考えています。今のDXツールに足りないものや改善できるものについては、新たな価値創造のチャンスだと捉えています。また、私たちのDX導入の今後の成功も失敗も試行錯誤の過程も、これから導入される方々にお伝えできればと思います。

誰も取り残さないDX

最後に、DXを導入する上で大切にしていることがあります。それは、「誰も取り残さない」ことです。これは総務省が掲げている方針でもあります。DXを進めていること自体、高齢の従業員にとっては苦痛に感じることでもあり、そこはなかなか難しいところだと感じています。しかし、DX化することで子どもたちや利用者さんの暮らしが豊かになったり、従業員さんの幸福度が上がるのであれば、達成しなければならないミッションでもあります。今後も、誰も取り残さない、丁寧な導入を心がけていきたいと思っています。


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