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就労支援について -「社会や企業からの歩み寄り」と「本人の気持ちの尊重」-


「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」という韓国ドラマがあり、薦められてを観る機会がありました。主人公が自閉スペクトラム症の診断を受けている女性で、一流大学を卒業した弁護士という設定です。世界中で観られているようで、人気があるようです。魅力的な俳優さんたちとあわせて複雑な話をユーモアを混じえて表現していて私もハマりました。主人公のウ・ヨンウさんはいわゆるギフテッドでしょうか。記憶力が並はずれていてIQが高い。そして、対人コミュニケーションは苦手です。

ギフテッド

ギフテッドといえば、日本でも積極的に支援していく議論を国が検討し始めました。才能がある子を選抜して英才教育を行うのではなく、特異な才能を持つがゆえに困難さや生きづらさを抱える子どもたちを支援する考え方です。ギフテッドと呼ばれる子どもたちにとっては通常の学校教育は退屈でしかないという観点から飛び級などを積極的に勧めていこうという考えであったり、中には奇抜と受け取られる行動をとるギフテッドの子どもたちがいじめの対象となったり不登校になったりすることをケアしようという考えであったりします。今後、どのような進展があるかというところですが、支援という観点が持ち込まれたのは歓迎すべきところでしょう。

ところで、数年前まで診断名として存在していたアスペルガー症候群は、このギフテッドと混同されるところがあるようです。ギフテッドは発達障害ではない、とかギフテッドと自閉症をあわせもつ子供もいるとか議論は絶えません。診断名はどうであれ、ここで重要なのは子どもたちが難しさや生きづらさを感じているかどうかです。そうであれば私たちの出番でしょう。

ギフテッドの話題を続けましたが、実際、ウ・ヨンウ弁護士のようにずば抜けた記憶力があり、周りの支援を得ながら弁護士としてある程度稼いでいけるという子どもはさほど多くはないといえそうです。私たちが運営する放課後等デイサービスに通ってきてくれる子どもたちは、読み書きが苦手だったり、話すのが苦手だったり、計算が苦手だったり、コミュニケーションが苦手だったり、椅子に座っていられなかったり…そういうできないことを把握することは大切でしょう。しかし、就労する上で何が障害となっているかを分析することとは少し違うようです。

社会や企業からの歩み寄り

職業準備性を個人の能力の向上として捉える…すなわち、子どもたちの努力によってできないことをできるようにトレーニングすることだけが就労支援なのではなく、企業や社会側からの準備(歩み寄り)が重要であるという考えが広がりつつあります。単純にいえば、仕事や作業を本人たちができるように調整したり、作り出すということです。

日本国憲法は、日本人の働く義務と権利を保障しています。であれば、企業は、社会は、生産性や効率性より優先して誰もが働ける環境を準備する義務があるということになります。これは極論なのかもしれません。しかし、正論です。正論ですが、社会に浸透しているといはまだまだ言えません。人権擁護とか憲法というと言葉が固くなってしまったり法律で縛られている、という感覚も生まれたりしそうですが、企業や社会に「皆で幸せに暮らそう」という共生の考えが広まるよう、就労支援に携わる私たちは積極的に取り組んでいく必要があると言えます。

ニューロダイバーシティ

一般的に、障害者を雇用すると「生産性が落ちる」とか「単純作業しかできない」という風潮がまだまだあるとと思います。しかし、先日のnoteでも取り上げましたが、欧米ではニューロダイバーシティが進み、ASDやADHDの方々の就労が進んでいます。企業により取り組みは様々ですが、ニューロダイバーシティを進めたことで生産性が30%上昇したというケースもあるようです。

ダイバーシティは、あらゆる個性を尊重し、受容することで個々の個性を伸ばして活躍してもらうことを意味します。そして、欧米で進んでいるのはここにインクルージョン、すなわちあらゆる個性を受容して、それを組織の活性化やイノベーションに活用する考え方が加わるためだと考えられます。

日本でも数年前からニューロダイバーシティの推進が経済産業省などを中心に進められていますが、欧米にかなりの遅れをとっているのが現状のようです。

本人の気持ちを尊重する

国際労働機関(ILO)は、就労支援を次のように定義しています。

職業リハビリテーションの目的は、障害者が適当な雇用に就き、それを継続し、かつ、それにおいて向上することにより、社会への統合または再統合を促進することにある。

※ILOの「職業リハビリテーション」と「就労支援」は同義と考えています

社会への統合とは、誰もが社会の一員として権利や責任を持って社会参加できることを意味します。しかし、権利擁護にしても就労支援にしても、擁護したり支援したりする側の制度や考えです。そもそも、社会や企業がどう思おうが、本人たちには不安ながらも働きたい意欲や働くことにわくわくする気持ちがあります。私たちは、就労することに障害を感じる人たちがどのように感じ、何に困っていているかを知るとともに、働くことにわくわくしたり、楽しみとしたりする気持ちがあることを忘れてはなりません。本人がどうしたいか、本人の決定は何か、本人の選択は何か…そう考えるならば、私たちの就労支援の本質は、就労の仕方や制度に当てはめるのではなく、本人たちのそのような気持ちを引き出したり、行動を支援することではないでしょうか

最後に

社会や企業からの歩み寄り、本人の気持ちの尊重、どちらも大切です。そして、両者をつなぐのが私たち。私たちは、就労継続支援B型という、主に施設内における就労支援を行なっていますが、私たちの放課後等デイサービスに通ってくれる子どもたちや地域の子どもたちの就労に関するニーズは多岐にわたります。今後、就労移行や就労定着とニューロダイバーシティを融合させたり、障害者総合支援法にとらわれない支援も視野に入れて取り組んでいきたいと考えています。

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