自信には根拠があってはいけない

予定がリスケになって、ぽかんとあいた、足元のふわふわした日曜日。近所の銭湯がイベントを催しているというので、サウナ仲間のNさんと昼から出かける。アニメ『ポプテピピック』の感想をはじめ、とりとめのない会話をしているなかで、Nさんのアルバイトの話になった。

Nさんは35歳で、フリーターというわけではなく、自分の会社を立ち上げたりフリーランスでいろいろ仕事をしていたりする人だ。そんな彼は土日の朝に3時間、銭湯の清掃係として働いているという。

なぜ?と聞くと「自分が好きになった銭湯に関われるのも楽しいし、土日の朝にだらだらせずに動けるようになっていいんですよ。そうしないと前の晩に飲みすぎちゃったり、朝からぼんやり動画サイト見て一日終わっちゃったりするから」と、はつらつな笑顔を見せた。今日も一仕事を終えてから来たそうだ。

「そういう考えもあるのかー!」と開眼した思いだった。そうか、本業があるならそれとは別に、自分のしたいことだったり、あるいは「体を動かしたい」といった理由でアルバイトしたっていいのだ。お金が第一義に来ないからこそできる選択だし、とてもよい「土日ハック」だと思った。

Nさんと分かれて、ぼくなら何がしたいかなぁと道すがら目をきょろきょろさせているとブックオフがあった。いつもは長居をする時間がもったいなくて寄らないようにしているけれど、今日はいいかなと立ち寄った。

実用書の棚を眺めていると、心理カウンセラーである大嶋信頼さんの『「すぐ不安になってしまう」が一瞬で消える方法』が光って見えた。

ぼくは常々、自分がどうも心配性で、あらぬ思いに心を割かれる時間が多いことが気になっていた。手にしてみると、不安になる理由や暗示をうまくつかう方法など、さまざまなことが書かれていて、どうにも頼れそう。帯によれば10万部超えのヒット作。心のなかで「大嶋先生!教わります!」という気持ちでカゴにおさめたとき、視界が明るくなるふしぎな感覚があった。

その感覚と、勝間和代さんが以前インタビューで「読書は人との出合いと同じ。読書は今まで知らなかったことや考え方を教えてくれる。本を通してその著者と出合い、会話をしているようなものです」と話していたことがつながって、ぼくには書棚の本一つひとつが「先生」に思えてきた。

ブックオフにしろ、新刊書店にしろ、ここに本を並べられるのは、その分野で一家言ある証拠(ぜったいではないけれど……)だからこそ、見方によれば本屋はちいさなセミナールームみたいなもので、自分にとって必要な講義を、格安な費用で受けられる機会でもあるのではないかって。

メンタルトレーニング専門のドクターである辻秀一さんの『感情にふり回されないコツ』も手にとり、帰った。大嶋先生の本から読んでみると、不安が起きる原因、不安が自分の能力を制限してしまうこと、それから(ちょっと眉唾に感じるところもあったものの)症状に合わせた暗示の言葉を唱えることで不安と付き合いやすくなることなどが書かれていた。

ちいさな紙に僕が必要そうな暗示の言葉を書き留めて、いつでも見られるようにカードケースに入れてみた。不安におそわれたとき、騙されたと思って唱えてみると、たしかにすこし、気が紛れる。

辻先生は「自分がいまどういう感情なのかに気づくだけで、心の状態は整えられる」という。そして、人の心が乱れる13の原因というものがあり、たとえば不確実さを恐れる「未来思考」や、裏切られた過去からくる「疑念思考」などがあると知った。なるほど、このあたりは経験ともつながっていそう。

いちばんハッとしたのは「自信には根拠があってはいけない」という教えだ。人は自信を持とうと考えると、「実績がない」「自信をもっていいレベルではない」などと、かえって自分自身を疑う。自信がなければ心が不安定になり、パフォーマンスが落ちる。結果、良い成果が出しにくい。

では、どうするか。辻先生が出会った一流の人々は業界を問わず、根拠を基に自信をつくらない。その代わりに「ただただ自分を信じるのみ」だという。

「自分を信じるか、疑うか。これは実績や経験とはなんの関係もありません」

辻先生はそう断言する。あぁ、たしかに!数日前に読んだ堀江貴文さんの『ゼロ』には、自分に寄せる強固な信用のことが「自信」だという一文がある。すごい、つながった!

どこか興奮して読書を終えると、Nさんの、あのカラッとした笑顔が蘇ってきた。誰に言われるでもなく、自分のしたいことを叶えてみたNさんの行動は、自分自身だけを軸に判断したものだからこそ、しなやかでつよく見えたのだ。

Nさんのように、ぼくも何かできるだろうか?まぁ、いまのところは、僕の将来に対する唯ぼんやりした不安……に苛まれる夜が減るだけでも、うれしい。

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