20XX/8/4(小説風)

背中が湿っている。
いつの時からか、鼻の上だけではなく、背中の、それもボクサーパンツの少し上ぐらいに酷く汗をかくようになった。それまで背中など気にしたことはなかったのに。こういうちょっとした変化で自分が年々変わっていることを自覚する。また数年後、新たな場所から汗の吹き出し口が造られてしまうのだろうか。

ホームに電車がやってきた。外は太陽の日差しと、異常なまでの湿気によって支配されているが、車内はそれはそれで冬一歩手前とも思える程の冷気に包まれていた。
背中の汗が過度に冷えるその前に、空いている角の席に座る。

「仕事終わったー」という彼女からのLINEをチェックして、「お疲れ様ー」と返信した。こんな毎日が気づけば数ヶ月も続いている。それはそれで幸せなのだが、どこか物足りない。何気ない日常を謳歌しきれないのは、暴れ出したい自分が奥底で雄叫びをあげ始めているからなのだろうか。はちゃめちゃに生きたい。窓に映った富士山に向かって叫びたかった。

乗り換えの駅に到着した。外は、依然と蒸し暑いままだ。しかし背中の汗はもう止まっている。

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