ニャンコがたまに店番を頼まれるタバコ屋さんには、ミュートンが来ます。
よく喋りよく笑う、気さくなイイヤツ、って感じです。

ニャンコは好意を持っています。


ミュートンは、先輩ミュージシャンのハニワさんという方のおつかいでタバコを買いに来ているそうです。


「先輩って言っても、そんなに年齢変わんないんすけどねー！まあでもカタチだけでもなんとなく、上下関係って事にしとく方が、何かとお互いやりやすいっちゅーかなんちゅーか。ま、そんな感じッス！！」


あっけらかんと話す内容が、案外含蓄に富んでたりします。


ミュートン自身はタバコを吸わないそうです。
そして時たま寂しそうな横顔を見せます。
そんな時ニャンコは、ふとマジンガーZに出てくるあしゅら男爵の事を思い出します。


あしゅら男爵とは、男性の顔と女性の顔、真ん中で分かれている不気味なキャラクターです。

あしゅら男爵の横顔は、左右どちらかが男女いずれかの性別になっていますので、反対側の性別は見えません。

性別、という概念でもって、人間が生まれつき持つ二面性みたいなものを表現しているのだ、とニャンコは昔から思っていました。

子供向けのアニメの中には、時としてこんな風に、人として生きていく上で把握しておくべき社会通念のようなものがちりばめられているのですね。

でもミュートンの表情は真ん中で分かれてはいますが、左半分右半分で相反する印象が表現されているわけではありません。
ミュートンの顔が真ん中で分かれているのには、陽気なカラーリングの境目である以上の意味は無さそうです。

ただ、二分されているだけ。

なんとも、この国の世相を表しているようなそうでもないような。


連立政権？？？と、ニャンコは密かに、ラディカルでシニカルな気分になったのでした。



もう、早く帰ってくれないかなぁ。
とっくに勤務時間終わってるからドロンしたいのに。。。



気さくで積極的なコミュニケーション能力っていうのは、時としてちょっと疎ましい。

ニャンコは、自分が結構ワガママであることも自覚しつつ、気づいてくれるといいな、と、ため息で自己アピールするのでした。

…to be continued

ハシビロコウバンド物語
「第七十三話　タバコの匂いのシャツにそっと寄り添うから」
初出　2021.12.17