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リスボンの熱。その3

「リスボンの熱。その2」からのつづき。

ルイスのお店まではそれほど時間はかからないはずと踏んであてずっぽうに小道をさまよい始めた。焦る必要もないし天気もすこぶるいい。

歴史も積み重ねてきた石造りの建物の2階住居部分に女性の下着も含む洗濯物が運動会の万国旗のようにはためいてるのが目に入る。「ラテンの国は大らか」ついそんな安易な言葉が頭をかすめてしまう。洗濯物の向こう側に真っ青な空が広がる。雨の日も曇りの日も好きだけど何もかも託せてしまいそうなこんな空も好きだ。

しばらく歩くとコインランドリーが角にあってなぜかここを曲がれと言われた気がした。だから曲がってみた。しばらく歩くとふと右側に薄暗い部屋があって入り口の小さな看板に書かれてる日本語に目が止まった。中には2人の女性がいるようだった。「日本の方ですか?」中から「そうですよ。あなたも日本人?」と言う声が聞こえてきた。

日差しの強さと部屋の暗さが相まって私は内部の状況がつかめなかった。「中に入っていいですか?」「散らかってますけどどうぞ」。中に入ってしばらくして目が慣れてきた。コンクリート打ちっ放しのままのそっけない内装は他者をよりつけないように居座らないようにするための防波堤のように感じた。でも漂う空気はゆったりと開放的。似た感覚をどこかで味わったことがある。沖縄民謡を習った1993年当時の沖縄。

その部屋はアトリエだった。1人はベニコさんもう1人はショウコさん。そこはベニコさんのアトリエで彼女はリスボン在住の影絵アーティスト。ショウコさんは結婚して20年以上ポルトガルに住んでるらしく今日はベニコさんの手伝いをしてるようだった。

「この辺をふらふら歩いてしかもうちに立ち寄ろうとする日本人なんて珍しいから驚いた」ベニコさんは時々目を見開くようにして喋り、声は高くあっけらかんとしてる。「そうですか?たまたまこの前の道を歩いていたら日本語が見えたから声をかけてしまいました」ロンドンからリスボンにやってきたこと奄美観光大使だということやリスボンに初めて来たからにはファドを生で聴きたいしできたらライヴもしてみたいという話をした。興味を持ってもらえたみたいなので「三線を持ってきてるのでまたここにきて演奏しますね」と伝えた。ルイスのお店のことを言ったら「多分そのお店すぐそこのカフェのことだと思う」

ベニコさんのアトリエからルイスのお店まで歩いて30秒だった。ルイスは思ったより早く来たなぁというような顔をしながら「何か飲む?」と聞いてきた。ルイスは幼馴染みの「ふみお君」に顔が少し似てて妙な親近感がある。暑いしビールもいいかなぁと思ったがレモネードにしてみた。黒板に書いてあったフードメニューの中からホットサンドも頼んでみた。

ルイスのお店はお世辞抜きで素敵だった。水色と白の壁。アナログレコードのジャケットを壁にかけていたりメキシコの骸骨をモチーフにした飾りつけもあったり。ポストカードの中に自分が入り込んでいるかのような気持ちになる。歩いてきたばかりの石畳の道に面してるカフェの中からゆったりとした時間が流れる街の一部を眺めてると、こんな時間がずっと続いてくれたらいいのにと思った。大きいミントの葉がのったレモネードと生ハムとチーズのホットサンドがじんわり沁みた。

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