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チーム戦略の傾向を考える

前回の記事が思いのほか反響が大きかったので、前回と同様に、主に各選手の出場試合数から、ドリブンズとファイトクラブだけでなく、Mリーグ全8チームのチーム戦略を考察しました。

1.4つの基本戦略

前回の記事で紹介した3つの戦略に、新しく雷電戦略を追加し、基本戦略は4つ存在するとします。

(1) ドリブンズ戦略

レギュラーシーズンの赤坂ドリブンズの出場試合数と結果

ドリブンズ戦略とは、「最も期待値の低い選手に最低出場試合数(レギュラーシーズンなら10試合)だけ打たせる」という戦略を指します。

(2) ファイトクラブ戦略

レギュラーシーズンの麻雀格闘倶楽部の出場試合数と結果

ファイトクラブ戦略とは、ドリブンズ戦略とは真逆で、「最も期待値の高い選手に最大限多く打たせる」という戦略になります。なお、2021年以降のファイトクラブは、後述の雷電戦略に近い傾向になっています。

(3) DF戦略

レギュラーシーズン94試合の理想的な出場試合数

ドリブンズ戦略とファイトクラブ戦略を混合させた、「最も期待値の高い選手に最大限多く打たせ、最も期待値の低い選手に最低限しか打たせない」という戦略です。

(4) 雷電戦略

レギュラーシーズンのチーム雷電の出場試合数と結果

各チームの選手の出場試合数を見ていて、チーム戦略が他にもあることに気づきました。それがこの「すべての選手を平等に起用する」雷電戦略です。
前回の記事の最後で、2021ファイナルで全選手を平等に起用したファイトクラブを評価しましたが、レギュラーシーズンで試合数の差が少ない起用をいち早く実現していたのは雷電でした。その雷電でも、Mリーグ初年度は黒沢咲プロの出場試合数は少なかったので、雷電戦略は黒沢プロが実力で勝ち取ったものと言えます。そして、あえてつけ加えるならば、丸山奏子プロは、ドリブンズを雷電に変えることはできませんでした。
雷電戦略はDF戦略の真逆であり、本来は、すべてのチームがこうあるべきだと思います。しかし、残念ながらと言わねばなりませんが、この雷電戦略が雷電が勝てない理由にもなっていました。すべてのチームがDF戦略を取った場合、最も恩恵が大きいのは雷電でした。

ただし、今シーズンの雷電は、個人スコアのトップを突っ走る本田朋広プロの起用回数が多くなった分、萩原聖人プロの起用回数は少なくなっています。つまり、雷電戦略を捨てて、DF戦略に切り替えている可能性があります。

(5) まとめ

以上、4つの基本戦略を簡単にまとめると、(1)ドリブンズ戦略はカモ重視、(2)ファイトクラブ戦略はエース重視、(3)DF戦略はエースとカモのいいとこ取り、(4)雷電戦略は地上の楽園となります。
残りの5チームも、この4つの基本戦略のどれかに分類されます。

2.その他の5チーム

EX風林火山

レギュラーシーズンのEX風林火山の出場試合数と結果

風林火山は、3人チームのときは、二階堂亜樹プロの出場試合数をセーブしながらも比較的平等な起用がなされていました。しかし、チームをリニューアルした2021年は、オーディションで獲得した松ヶ瀬隆弥プロを多用し、同じく新規参入の二階堂瑠美プロの出場試合数をセーブするDF戦略を取っています。ただし、昨シーズンの松ヶ瀬プロの多用は、MVPを狙ったためということもありました。
亜樹プロの出場試合数もそれほど少なくはありませんが、風林火山は、松ヶ瀬プロと勝又健志プロのダブルエース体制かつ、二階堂姉妹のダブルカモ体制という、変則的なDF戦略を取っていると考えます。【DF戦略】

KADOKAWAサクラナイツ

レギュラーシーズンのKADOKAWAサクラナイツの出場試合数と結果

サクラナイツは、初年度は沢崎誠プロの驚異の40試合超起用などもありましたが、ドリブンズほど露骨ではないにしろ、岡田紗佳プロの出場試合数をセーブして、残りの試合数を男性プロ3人で分け合う傾向にあります。【ドリブンズ戦略】

渋谷ABEMAS

レギュラーシーズンの渋谷ABEMASの出場試合数と結果

ABEMASも同様に、日向藍子プロの出場試合数をセーブして、残りの試合数を男性プロ3人で分け合う傾向にあります。【ドリブンズ戦略】
安定性という面でファイトクラブの佐々木寿人プロを凌駕する、4年連続プラス200を超える鉄腕・多井を擁するABEMASこそが、エースを生かすファイトクラブ戦略に最も適したチームであるはずです。しかし、現状、そこまで多井隆晴プロを出さなくても十分に勝ち切れています。

セガサミーフェニックス

レギュラーシーズンのセガサミーフェニックスの出場試合数と結果

フェニックスも、追加となった和久津晶プロ・東城りおプロの出場試合数をセーブし、残りの試合数をオリジナルメンバー3人で分け合う傾向にあります。【ドリブンズ戦略】
しかし、試合数の多いエース・魚谷侑未プロが、MVPを獲得した2019年以外はすべての年で大きくマイナスしているため、ドリブンズ同様に、ドリブンズ戦略を生かせていません。

U-NEXT Pirates

レギュラーシーズンのU-NEXT Piratesの出場試合数と結果

Piratesは、初年度は平等な起用がなされていましたが、チームメイトが不安定さを露呈したため、故障知らずの小林剛プロに依存するファイトクラブ戦略を取るようになりました。
しかし、2021年にMVPを獲得した瑞原明奈プロの成長と、今シーズンからのチームのリニューアルによって、現在は、選手を平等に起用する雷電戦略を取るようになっています。【雷電戦略】

3.各チームの戦略まとめ

各チームの例年の実績と今シーズンの起用方法から、チーム戦略を4つの基本戦略に当てはめました。
もっとも、起用の仕方は、今後、大きく変わる可能性があります。
たとえば、ファイトクラブとPiratesは、現在は選手を平等に起用する雷電戦略を取っているように見えます。しかし、いずれも元々はエース頼みのファイトクラブ戦略を取っていたチームなので、レギュラーシーズン終盤にチームメイトが不調になったときは、「寿人、寿人、雨、寿人」や「一日一ゴー」が復活することはありえます。

前述のとおり、風林火山は、2021年のチームのリニューアルから、DF戦略を取るようになっています。元々、風林火山は、2020ファイナルの勝又無双(12戦中7戦出場5トップ)に代表されるように、ここぞというところでのDF傾向が強いチームでした。

エースに依存するファイトクラブ戦略を取っていたPiratesとファイトクラブは、それぞれチームのリニューアルをきっかけに、選手を平等に起用する雷電戦略に切り替えています。雷電戦略は、雷電では有効ではありませんでしたが、カモのいないチームでは士気も含めて効果を上げるはずです。

AEBMAS、サクラナイツ、フェニックス、ドリブンズは、女性メンバーの加入が必須となった2019年から現在まで、ドリブンズ戦略を取り続けています。ポジティブに表現するなら、カモが増えたことが、Mリーグにおいてチーム戦略を豊かにしたと言えます。
例年のレギュラーシーズンの成績を見ると、これら4チームは、はっきり上下(ABEMAS・サクラナイツ/フェニックス・ドリブンズ)に分かれており、エースの安定性とカモの成長が明暗を分けています。

特筆すべきは、愚直に雷電戦略を続けていた雷電が、今シーズンは本田プロを多用するDF戦略に切り替えたように見えることです。もっともこれは、単に萩原プロが俳優としての仕事などで試合数が減ったために、たまたまそう見えるだけなのかもしれません。それとも、ファイナルに進めなければメンバー入れ替えという危機を迎えて、勝利への執念が戦略の切り替えを決意させたのかもしれません。

4.エースとカモの採点表

ここまで、エースとカモに注目して、現在の各チームの戦略を見てきました。
さらに、過去のレギュラーシーズンの成績についても、エースとカモに注目して見ていきたいと思います。選手の起用に問題はなかったか、より有効な起用がなかったかを考察したいと思います。なお、各チームへの戦略の当てはめは、かなり恣意的です。

採点基準

エースとカモをそれぞれどう評価するかですが、多くのポイントを持ち帰ることを強く期待されるエースと、なるべくポイントを減らさないことを祈られながら送り出されるカモでは、自ずと採点基準が異なります。

  • エース ◎:プラス150以上 ○:50〜150のプラス △:プラス50〜マイナス50 ×:マイナス50以下

  • カモ ◎:プラス50以上 ○:プラス50〜マイナス50 △:マイナス50〜マイナス150 ×:マイナス150以下

  • その他(複数) ◎:プラス100以上 ×:マイナス100以下

2019-2020レギュラーシーズン

女性メンバーの加入が必須となった2019年は、多くのチームで、追加となった女性メンバーは控えめな起用となり、ドリブンズ戦略が席巻しました。
ファイトクラブは、初年度からのお家芸である寿人プロを多用するファイトクラブ戦略、雷電は、活躍を認められた黒沢プロの起用を増やす雷電戦略開始の年になりました。
Piratesは、小林プロ・朝倉プロを多用し、石橋プロ・瑞原プロをセーブするダブルエース体制のDF戦略を採用していました。

予選落ちのチームについて言うなら、無名の麻雀プロから一転してMリーガー第1号となり3桁のプラス、ドリブンズの初優勝に貢献した園田賢プロは、この年は大きくマイナスしチームの敗因になっています。園田プロがレギュラーシーズンをプラスで終えたのは、今のところ、初年度だけでした。
初年度2位の風林火山は、不調の亜樹プロをセーブするドリブンズ戦略を取りましたが、勝又プロがプラマイゼロ、他の2人は3桁マイナスで予選落ちとなりました。なお、3人チーム時の風林火山は、レギュラーシーズンでは、勝又プロと滝沢和典プロを毎年ほぼ同数起用していました。しかし、当時の勝又プロがチームから現在と同じくらいの信頼を得られていれば、終盤はファイトクラブ戦略によって、2020ファイナルの勝又無双を先取りできていたかもしれません。

2020-2021レギュラーシーズン

この年も4チームはドリブンズ戦略を継続しており、風林火山は、前年度よりは調子のよかった亜樹プロを他の2人と同じくらい起用する雷電戦略となっています。ファイトクラブと雷電は、それぞれの戦略を継続しています。
Piratesは、ファイトクラブ戦略で小林プロを酷使するも、他の3人が全員3桁マイナスなので、セミファイナル到達はかないませんでした。フェニックスも、前年度MVPのエース・魚谷プロと和久津晶プロの2人の大きなマイナスで、予選落ちになっています。

2021-2022レギュラーシーズン

2021年は、上位6チームのうち4チームで、エースがしっかり稼ぐ一方、カモがその稼いだポイントを景気よくバラまく派手なシーズンとなりました。エースとカモがそれぞれの本領を発揮したことになり、そうなるとその他のメンバー次第になるので、チーム力が順位を決したと言えなくもありません。
予選落ちのチームでは、ドリブンズはたろうプロのみ3桁プラスするものの、他2人のエースが機能しませんでした。雷電は、戦略どころではなく、全員が異次元のマイナスを叩きだしました。セミファイナルに到達した6チームが3桁のプラスとなる異常なシーズンでした。

2022-2023レギュラーシーズン(2月1日現在)

レギュラーシーズンの2/3(94戦のうちの66試合)を消化した現在、下位2チームでは、いずれも2桁プラスがひとりいるだけで、他3人は大きなマイナスなので、戦略どころではありません。

首位の風林火山は、DF戦略を取っているなら、今後も松ヶ瀬プロ・勝又プロを多めに、二階堂姉妹を少なめに起用するはずなので、上位のまま終わりそうです。
2位と3位のPirates・ファイトクラブは、エースがやや不調ですが、エースに頼らなくてもよいチームになったからこその雷電戦略でもあります。
ABEMAS・サクラナイツは、Mリーグデビュー以来、常に「◎」(150ポイント超)の多井プロ・堀プロの両エースがいるかぎり、安泰に思えます。

雷電では、本田プロがMVPの有力候補となる大活躍を見せていますが、黒沢プロが2桁プラスしている以外、他2人は3桁マイナスなので、孤軍奮闘が続いています。DF戦略に切り替えたようにも見える現在、萩原プロをセーブし続けるのか、それとも、ファンの期待に応えて終盤では起用を増やしていくのか注目されます。

エース東城の世界線

ここ2年のフェニックスでは、エースとカモの逆転現象が起きています。エースである魚谷プロが毎年のように大きなマイナスを叩く一方で、カモである東城プロが100未満とはいえ、2年連続でそこそこのプラスを重ねています。
そこで、麻雀星人から地球を救った東城プロが、フェニックスのエースとなる世界線を考えました。しかし、東城プロの今シーズンの成績は、15試合で66.5pt。1試合平均4.4ptでは、残りの28試合すべて打たせても、123.2ptにしかならないので、地球は救えてもフェニックスを救うことはできませんでした。
いずれにせよ、フェニックスは、これまでどおり、女流プロという枠を超え、男女混合の試合を含めて無数のタイトルを手にしてきたチームの顔である魚谷プロに賭けるしかないはずです。

5.この記事を書いてみて

最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。 唯一生き残るのは、変化する者である。

チャールズ・ダーウィン

ダーウィンは、実際にはこんなことは言ってないらしいですが、好きな言葉です。

唯一生き残るのは

本記事では、主にMリーグの各チームの起用方法から、チーム戦略を推測しました。しかし、選手の出場試合数はあくまで結果にすぎず、ランダムな星の配列から、勝手に星座を思い描くようなものなのかもしれません。萩原プロに代表される他業種から参入しているMリーガーには元々の仕事がありますし、専属の麻雀プロにも所属団体のリーグ戦などの諸用があります。特に、近年は、新型コロナウイルスの影響で選手の出場が制限されたことが何度かありました。

もしも推測したようなチーム戦略が存在するならば、5年目を迎えるMリーグでは、意外と多くのチームが戦略の切り替えを行っています。ファイトクラブはもはやファイトクラブ戦略を取ってはいませんし、雷電も勝利のために雷電戦略を捨てています。生き残るために、変化しようとしているのです。

疎外と平等と

それに引き換えドリブンズでは、とつい言いたくなってしまいますが、エースもカモもボロ負け状態のドリブンズは、採用する戦略以前の問題でした。
ドリブンズにはいろいろと厳しいことを書きましたが、私はこのチームにはあまり興味がないので、ことさら批判したかったわけではありません。ドリブンズほど露骨ではないものの、多くのチームがドリブンズ戦略に近い戦略を取っている——というのが、まさにこの記事の主旨ではありました。とはいえ、好感度を下げてでも、効率よくゲームをハックしようとしたけど、あんまりうまくいかなかったね、とは思ってます。

それよりも、この記事を書いたことで、今まで正直バカにしていた雷電を応援したい気持ちが高まりました。勝手な言い種ですが、今の賢くなった(と勝手に推測している)雷電よりも、これでもかとハギーを出し続け、負け続けた昔の雷電を応援したかったと思っています。それでも、自分の力で出番をつかみ取った黒沢さんのリーチに、今までよりももっと心を躍らせたいなと思っています。

終わりに

選手ごとの成績を見やすく配置するだけの単純作業でしたが、数字のチェックが大変で、Mリーグ成績速報(非公式)さんの苦労をちょっとだけ思い知りました。それでもこりずに、小学校高学年程度の算数とExcelちゃんを駆使して、また同じテーマの記事を来月くらいに書いてみたいと思っています。

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