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「ひろがるスカイプリキュア」感想! 挑戦的なようで保守的?プリキュアの正義論と現代的ヒーロー像について!

 こんにちは!今回はプリキュアシリーズ通算20作目にして18代目のプリキュア「ひろがるスカイプリキュア」の総括をしていきたいと思う。先に結論から言ってしまうと、正直僕はひろプリにはあまりハマれなかった。しかし、これは僕の好みの問題もあり、作品としてダメだと言いたい訳ではない。これから
ひろプリのいい所、悪い所を踏まえて、詳しく解説していきたいと思う。それでは初めていこう。


○挑戦的なようで保守的?「男の子」や「成人」を生かしきれてない?

 今作は、プリキュア20周年記念作品という事で、期待値も高く、色々と新しい挑戦をしている。例えば、主人公であるソラはプリキュア主人公としては初のブルーカラーであり、異世界側の女の子だ。他にも、ツバサやアゲハといった、初の男の子や成人プリキュアが登場するなど、今までにない要素が多く、一見すごく挑戦的なシリーズに見える。

 しかし、残念ながら、ストーリーの方にそれらの挑戦が生かしきれておらず、むしろ保守的な話になってしまった印象だ。

 例えば、アゲハなら、社会人として働いているからこそ描ける悩みや、それと向き合う姿をもっと深く描ければ、成人プリキュアを出した意味もあった。さらに言うと、アゲハは保育士として働いており、すでに夢(なりたい自分)が叶っている状態でもある。だからこそ「オトナプリキュア」の方で扱っていた「夢が叶った後の問題」のテーマを、アゲハ1人でカバー出来る可能性すらあったと思う。もちろん、そういった事を描いてない訳ではないのだが、少々物足りないと感じてしまったのが正直な所だ。

 ただ、アゲハは成人済みのキャラという事で、小さい頃プリキュアを観ていて、今社会人の人でも感情移入する事が可能であり、20周年という歴史があるからこそ価値のあるキャラだとも思った。

 次にツバサだが、完全レギュラーキャラとしては初めての男の子プリキュアだ。現代のジェンダー観的に、男の子でもプリキュアになれるという考えは理解できる。ただ女の子達の中に1人だけ男の子が入る事が違和感になり、作品の空気を壊してしまったら最悪だが、ツバサはその辺を特に気をつけてキャラ造形がなされており、女の子の中に混ざっていても特に違和感もなく馴染めていた。そこに関してはよかったのだが、欲を言うなら、ツバサが男の子である事に何かしらの意味を持たせて欲しかった。正直今作は、ツバサが女の子でも問題なく成立した話がほとんどであるし、男の子だからこそ描ける物語の射程をもっと効果的に使って欲しかったと思う。

 もちろん、ツバサはキャラとしては好きだ。不快感もなく、男の子なのにプリキュアの世界観に馴染めていてよかったと思う。しかし、キャラとしてよかったからこそ、出すだけではなく、男の子である事に意味を持たす所までいって欲しかった。

 そして、ツバサに関しては、もう1つ言いたい事がある。ツバサは元々飛べない鳥のプニ鳥族という種族であり、空を飛ぶ事が夢で、航空力学を勉強するなど日々努力をしていた。しかしツバサはその夢を、自分の力ではなくキュアウイングになり飛行能力を獲得する事で叶える。自分個人の夢を、自分の努力で叶えるのではなく、プリキュアの力という、自分以外の外部の力で叶えるのはさすがにダメだろ!と思った笑。

 しかし、その辺はさすがにフォローがあり、ツバサがプリキュアになってからも、飛ぶために勉強した知識が戦闘で役に立つ描写がある。これは、プリキュアの力とツバサ自身の努力、この2つがあるからこそ、そのどちらか片方だけでも到達できなかった高みにいけるという事である。このように、ツバサの夢はプリキュアになる事で叶えられたが、だからといって、ツバサの今までの努力は無駄にはなっていないという所はよかったと思う。

○ひろプリのメンバーはいい子すぎ?プリキュアは1人くらい問題児がいたほうが面白い!

 後は、ひろプリのメンバーは他のプリキュアシリーズに比べてもメンバーがみんな真面目でいい子に片寄りすぎている気がした。個人的には、プリキュアのパーティーの中には、問題児だったり、わがままなキャラが1人か2人くらい混ざっていた方が面白いと思う。例としては、ハートキャッチのえりかやトロプリのローラ、ハピチャのひめなどような癖の強い子がいる方が話も動かしやすいような気がする。

 そして、出来ればトロプリぐらい性格がバラバラなパーティーが僕の好みだ。もちろん、ひろプリのソラとましろは対照的な2人に見えるし、この2人が出会う事でお互いの世界を広げているとは思うのだが、プリキュアが初代から描いてきた、真逆の2人が出会う事で起こる化学反応という部分が弱く感じてしまった。

 後は、ましろとバッタモンダの絡みなかなか面白く観れた。絵本作家を目指すましろがバッタモンダとのやり取りのお陰で、子供に夢を与えるだけでなく、今悩んでいる人達を救えるような絵本を作りたいと思う所はよかった(これは今やプリキュアという作品の目指す所でもある)。

○曖昧な正義を自覚し、他者を頼る事が出来るとが現代のヒーロー像?

 そして、このひろプリのテーマは「ヒーロー」である。これは、そもそもプリキュアって存在って何だ?と考えた時、プリキュアって、ヒーローじゃん!という風に再定義しているのだ。そういう意味では、今作は、ある種原点に戻り、ヒーロー(プリキュア)とはどうあるべきかという問いを考えている。

 ソラは、最初は圧倒的に強くて、1人でみんなを守れるヒーローを目指しており、友達を傷つけたくないという思いから、ましろがプリキュアになる事も最初は反対していた。

 しかし、ましろ、ツバサ、アゲハ達と一緒に戦う内に、仲間と協力した方がより多くの人を守れるし、出来る事も広がる事に気づく。そうしたことから、ソラは、仲間に信頼して貰い、自分も仲間を信頼出来る関係性を持っているのがヒーローというように考えが変化していく。

 そして、ヒーローは正義に基づき行動していく訳だが、正しさというのは立場や視点によって変わっていく曖昧なものだ。だからこそヒーローは常に何が正しいか、何が正義かを考え抜かなければいけないとソラが教えられるシーンがある、この辺は、現代的なヒーロー像が提示されていたと思う。

○同じ立場の敵との対話ではなく、わかりあえない絶対的悪との戦い!

 また、アンダーグ帝国の黒幕であるスキアヘッドの発言から、ソラは、スキアヘッドも誰かのために戦っていると知り、それならば、誰かを守るために戦っている自分自身と同じだと考え、敵であるスキアヘットと対話を試みる。つまり、自分の正しさを押し付けて敵を倒すのではなく、敵の事ですら、理解しようとして、考えて悩むのがヒーローのあるべき姿だと考えられる所まで、ソラは成長したという事である。ここまではよかったと思う。(実際カイゼリンなどは、そういった相手を倒すのではなく、理解しようとするソラのヒーローとしての姿勢に救われた訳だし) 

 しかし、この後、実はスキアヘッドの愛する人のために戦っているというのは全部嘘であり、対話による理解という方向にはいかず、スキアヘッドとのバトルが始まってしまう。

 プリキュアシリーズに限った話ではないが、やはり社会が複雑化する事により、単純な悪と正義の対立というのは作りにくくなる。だからこそ正義対悪ではなく、単純に考え方の違いによる対立が起こる。そうなった時、プリキュアの場合、敵と戦い単純に力が強い方が勝つという、極めて現実的な側面があり、この部分はアンダーグ帝国の力至上主義の考え方とある意味同じなのだ。だからこそ、今回ソラが、スキアヘッドとの対話を心みた時、立場が違うだけで同じ思いを持った敵と、武力による解決以外の新しい答えを描いてくれるのではないかと期待していたのだ。しかし、結局、スキアヘッドという、わかり合えない絶対悪的存在を倒して終わってしまうというのは勿体ない気がした。ひろプリには、また違った解決方法にたどり着ける可能性はあったはずなのだ。

 ○ソラとましろの答え! 絶対的な強さより、仲間を頼る「弱さ」と強さ以外の価値を見つける「視点」!

 そして、物語の終盤、スキアヘットとの戦闘中に、アンダーグエナジーを吸収してしまったソラは絶大な力を制御しきれず暴走しかけるが、ましろの存在をきっかけに正気に戻る。そして、ソラはアンダーグ帝国の力が全てという思想に対し、力以外に自分が信じられる物として、ましろという友達の存在を答えとして提示したのだ。最初はヒーローとしてみんなを守るために、絶対的な強さと正義を理想としていたソラが、プリキュアとしての戦いを通して、自分自身の強さを求めるだけではなく自分の弱さを認め、仲間を頼ることや、相手の事を理解しようとする柔軟な正義の大切さに気づくというまとめ方はいいと思う。

 さらに、実はましろの方も、「落ち葉くん」という絵本を作る上で、強さという絶対的な価値を信じるアンダーグ帝国に対して、別の考え方を持ち出している。例えば、落ち葉はアンダーグ帝国からみるとなんの価値も見いだせない物だが、ましろからみると、落ち葉は、風にのって飛んでいく事も出来るし、川の上をプカプカ浮くことも出来る。要は、強さという1つの価値観からすると無価値な物も、多様な視点で見ることで、役割や価値を見いだすことが出来るのだ。そして、それを言うのが、最初に自分には取り柄(価値)がないと思い込んでいたましろだからこそ視聴者の心に響くのである。

○プリキュアの普遍的なメッセージにシリーズ独自の挑戦があるシリーズは名作になる?

 これらのソラやましろがたどり着いた答えは勿論いいと思うのだが、正直20周年記念作品として気合いが入っていたひろプリだからこそ、もう一歩踏み込んで欲しかったと思う。というのも、ひろプリのメッセージである、友達の存在や関係性が大切という事や、多様な価値や考え方を尊重する事は、今までのプリキュアシリーズでもずっと繰り返し描いてきた事だからである。だからこそひろプリでは、それらのメッセージを踏まえつつも、もう一歩深い所に踏み込みんだ結論に挑戦して欲しかったというのが正直な気持ちだ。

 ここで最初に言った事に戻るのだが、やはりひろプリの要素の1つ1つは挑戦的なのだ。しかし、全体のストーリーやメッセージは保守的であり、今までプリキュアが描いてきた範囲の外には出れていない。何か1つ突き抜けた部分がなかった事がすごく惜しいと思う。

 例えば、今までのシリーズだと、ハグプリのようにジェンダー問題に切り込んだり、ハートキャッチのように、おジャ魔女以降と以前の女児向けアニメの総括をしたり、プリンセスプリキュアのように「夢」というテーマの明と暗を異常に完成度の高い脚本で描いたりというように、特にここが凄という突き抜けた部分がひろプリにはなかった。個人的には、プリキュアが名作シリーズになるかは、プリキュアがいつも伝えているテーマに加えて、そのシリーズならでわのプラスaの挑戦があるかどうかで決まると思っている。残念だが、ひろプリはそのプラスaの部分が弱かったのだ。

 後は、作中に出てくる登場人物達の人間関係が、プリキュアの5人とプリキュア関係者ばかりに閉じてしまっている感じがした。ソラが野球部の助っ人に行く話があったが、あのような話をもっと増やし、ソラ達を色んな登場人物達と出会わせて、自分達の世界を広げるようなエピソードをもっと見たかった。

 とまあ、色々とうるさい事を言ってしまったが、別に悪い作品だとは思ってない。プリキュアが好きだからこそ、色々と期待してしまうという事をわかって頂きたいと思う笑

 「わんだふるぷりきゅあ」の感想に続く!

 

 

 

 

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