今日は金に挑戦します。
前半が紫乃さん、後半がはそやｍです。

真面目にふざける精神で頑張りま～す🙌

《前半》

校庭から、ウオーミングアップを終えた部員たちが、トラックを走り始めた声が聴こえてくる。

僕は、数Ⅲの問題集から目を上げ、窓を見つめた。
此処から見えるのはどんよりとした銀鼠ぎんねずの空、そして、ほとんど裸同然の銀杏いちょうの枝先。
ただ、一番手前、僕に近い銀杏のてっぺんにある、数枚の黄金こがねの葉が突然目に入って来た。

時折吹く風に、今にも負けて、散ってしまいそうな黄金の葉。
何だか僕みたいだな、と思う。

「僕がここにいる間は、がんばってくれよ」

ふと、黄金の葉に心を寄せた自分に、僕は驚いた。

　　　　　・・・・・

３年Ｓ組の教室は既にまばら。
僕を含めて残っているのは五名だけだ。
進学コースのトップの組、Ｓ組。この時期に教室に残っていること自体、負けん気の強い奴らからしたら異空間。
僕は問題集を解く振りをしながら、実は何も考えず、自分を解放させている。
正直、この空間と時間が、今の僕の拠り所でもあるから。

「たまには、マックでもよって帰ろうぜ」
「お、いいねいいね」

教室に残っている連中が他愛もなく話す。

「いや、俺は遠慮しておくよ」
「何でだ？」
「お前、今日は、13日の金曜日だぜ？知ってるだろ？」
「だから何だって言うんだよ。まさか、オカルト信じてる系？ちょっと笑えるな」
「いやいやいや、案外、気にする奴って、今でもいると思うぜ」
「まさか」
「実は、俺もだ」
「まじか」
「まじよ」

ガラッ

教室の後ろ扉が開く。
立っていたのは、ヒカルだった。

「え、ツカサ、13日の金曜日、苦手なの？　男子のくせに情けない」
「そういうのって、男子も女子も関係なくないか？ヒカルは気にならないのかよ」
「ふふふっ、私は大好き！だって、私、13日の金曜日生まれだもん」
「え、うそだろ、やばいじゃんそれ」
「何言ってんの、何でも自分の味方につけたもん勝ちでしょ。私はね、いいことが起きるっていつも信じてるよ、13日の金曜日」
「で、これまで何かいいことあったのか？ヒカル」
「まあ、そこそこね。でも、今日は何か特別なことが起こる気がしてる。あ、そうそう、ちなみに、カオルは違うからね。あの子は、私より3時間遅れの生まれだから、14日の土曜日なのよ」
「お前ら、ほんと見分けつかないよな」
「よく言われるけど、中身は全く違うよ、私たち。そういうのってほんと失礼。まあ、仕方ないけどね」

ちょっと口を尖らせたヒカルは、制服の白シャツの胸元から、金のチェーンを見せる。

「私は金曜日生まれだから、金のチェーン。カオルは、土曜日生まれだから、銀のチェーン。見分けるのは、これだからね、知っているとは思うけど」
「へえ、そうだったんだ」
「んじゃ、ヒカルと一緒にマック行ったら、俺たち安全じゃね？」

そんな四人を、ヒカルは、先約ありだからごめんね、と軽く断って、颯爽と教室を後にした。

　　　　　・・・・

ヒカル、僕は知ってたよ、もちろん。
この学校に入る前から。

　　　　　・・・・・

《後半》

「ごめん！俺用事があったんだ」
「あ、僕も。マックは今度ね」

「お前らこういう時は同じ行動取るんだな」

いつもは忘れているけれどさすが双子、とクラスメイトからツッコミが入る。そう、僕達も双子だ。

ただ、外見は全く違うのだが。

金銀のチェーンを見ないと見分けがつかないヒカルとカオルと違い、僕達は双子と自己申告しないとわからないくらい似ていない。

13日の金曜日を信じると言ってマジかよ～と仲間と笑い合えるのがツカサ。あーそうなんだと引かれるのが僕。

そんなことをぼんやりと考えているうちにツカサは教室を出ていってしまった。

「おい、ツカサと一緒に帰るんじゃないのかよ」
「ち、違うよ」
「そういうところは双子っぽくないんだよなぁ」

クラスメイトの軽いツッコミを背に慌てて教室をでた。

「もう！なにやってんのよ！」

待ち合わせ場所でカオルがふくれている。

「ご、ごめん」
「今日こそヒカルに渡すんでしょ？」
「う、うん」

ヒカルとカオルとは入試の席が近かったことから、入学前に顔見知りとなった。

「苗字同じだけど親戚？」

とヒカルが声をかけてきてツカサが、

「よく見ろよ双子だぜ？」

と返して仲が良くなった。
たまに4人で出かけることもあり、金銀のチェーンの由来もヒカルがツカサに説明をしてくれた。

そう。ヒカルの目には常にツカサしか映っていないのだ。
金のチェーンがなくても僕はヒカルを見分けられるのに。

去年、チェーンに似合いそうな星形のペンダントトップを見つけてクリスマスプレゼントとして渡そうとした時、

「ヒカルの好きな人ってツ……ｻ……よね？」

と友達に言われているのを聞いてしまった。
やめてよーとはにかんで笑うヒカルを見てペンダントトップの袋をカバンの底へとしまい込んだ。

ヒカルの好きな人はツカサ。わかってはいたけれど実際に聞くとズキズキと心が痛む。プレゼントはカバンの底で渡すわけでも捨てるわけでもなく迷子のままとなっている。

その迷子のプレゼントを塾の帰りにカオルに見つけられた。袋が透明だったため、ペンダントトップであるのも一目瞭然。しかも金色だったため、勘の良いカオルに誰に渡すのかも気づかれてしまった。

「手伝ってあげるよ」

それからカオルはヒカルの誕生日（自分のでもある）、文化祭の後夜祭での告白タイム、修学旅行とチャンスを作ってくれた。しかし、後ろ向きな僕がことごとくしり込みをしてしまい今に至っている。

「ほら！行くよ！」

カオルはヒカルほど社交的ではないが、やると決めたものはとことんやり遂げる。僕のヒカルへの気持ちを知ってからは、その性格がもろに出た行動で僕のアシストを買って出ているのだ。

「ヒ、ヒカルはツカサと付き合っているんだから渡さなく立って」
「バカ！渡してなんぼなもんでしょうがっ！」

カオルに半ば強引に引っ張られ学校近くの商店街まで来た時、ヒカルに追いついた。

「ヒカル……」

と声をかけようとした時、

「よう！」
と声がしてツカサが現れた。

なんだ……先約ってツカサだったんだ……

「ツバサくんどうしたの？」
「お、ツバサ！」

2人から笑顔を向けられ出しかけた袋をカバンにしまいそうになったその時、通りがかりの女性が僕にぶつかってきた。

どんと背中を押された僕は、ヒカルの方へとよろける。
「だ、大丈夫？」

「あら、ごめんなさい」
とさほど悪気のなさそうな声がした。
「も、申し訳ありません💦」
と別の声もする。

本当にごめんねぇと言われ「はぁ」と相槌を打っていると、ヒカルが「これ、なに？」と僕に聞いてきた。

ああああああああ！

カバンにしまおうとしていたペンダントトップの袋がヒカルの手の中に！

あうあうと狼狽える僕の目の前でヒカルの顔がクシャリとゆがむ。

ごめん！彼氏の前で！やだよな！ごめん！と言いたいのに口はパクパクとするだけで声が出ない。ああ！どうして僕ってヤツは！ツカサみたいに話せないんだろう……

「あ、ありがとう」
「え？」

恥ずかしさでカーっとなった僕の記憶はそこからあいまいだ。

おばさま突き飛ばしは危険ですよ、先生のアシストは荒ぶり過ぎです、俺もヒカルを足止めしていたんすから、との声は聞こえていた。

その中にはヒカルのすすり泣きとありがとう、うれしいの声もあった。

🌟🌟🌟

マックで三角チョコパイを食べ落ち着いてから話を聞くと、僕の星形ペンダントトップの存在をヒカルはずっと知っていたそうだ。

いつ渡されるかと待っていたがなかなか渡してくれない。そこでカオルに相談をして渡せる機会を何度も作ってもらっていたというのだが。

「え？え？ヒカルとツカサって付き合っているんじゃ？」
「バーカ。俺が付き合っているのはカオル」
「友達に好きな人はツバサ君って言ったとき近くにいたから、わかってくれたと思っていたんだけど」

恥ずかしそうにヒカルが言う。

ツとサしか聞こえなかったから、てっきりツカサかと思って、と僕も照れながら言う。

ところで僕達と一緒に三角チョコパイを食べているこの方々は？

「失礼しました、私達こういうものです」
と若い人が名刺を差し出した。

「スイーツ探偵　お気軽にご相談を」

と書かれてある。

「た、探偵？」
「うちの近くで探偵業を営んでいるの」
「そうなのよ。ヒカルちゃんとカオルちゃんは小さい頃からの付き合いなの」

カオルがヒカルを励ましているのを見て、三角チョコパイをおごってくれるならと申し出たそうだ。

「好きとわかっているはずの男子が急によそよそしくなったと聞いて、ああこれは聞き間違いをしたんじゃないかなって」

スイーツ探偵は、チョコと猪口の聞き間違いみたいってピンときたのよ、とフフフと笑う。

「そういう聞き間違いは先生だけですよ」
と助手らしき人が困り顔で突っ込む。

なんだかまだ夢の中でフワフワしているみたいだ、とボーっとしている僕の肩をヒカルがトントンとたたいた。

「似合うかな？」

ヒカルの胸元で金色の星がキラリと輝いた。

「うん」

耳が熱い。頬が熱い。
最高に幸せだ。

スイーツ探偵3作目です。

紫乃さん、強引でごめんなさい💦
ふざけ過ぎたかしら？

明日はとうとう最後ですね。

いけるか！スイーツ探偵？
やるしかないか！スイーツ探偵🙌