今日は緑に挑戦します。
前半はピリカさん、後半ははそやｍです。

さあ本日も張り切って真面目にふざけますよ♪

✨🎄✨

11月に入ったばかりだというのに、もうクリスマスソングなんて。
「気が早いのよ」
誰にも見えないように、菜穂子はふうっ、とため息をつく。

夕方のスーパーマーケットは、人でごった返していた。皆それぞれ忙しそうで、そして何より充実して幸せそうに見える。

「超目玉商品！小松菜88円」
と書かれた値札がなぜか、隣のほうれん草の方についており、客からクレームが来たとフロアマネージャーからのお叱りを受けたばかり。

「小松菜かほうれん草かなんて、見りゃわかるでしょうよ」
形ばかり、すみませんと頭を下げながら菜穂子は口角を下げる。

ああ、もう心底嫌だ。

このクリスマスソングの浮わついた歌声も、やたら充実感に溢れた買い物客も、毛玉のついたカーディガンに、「安さが自慢です」と書かれたエプロンをつけた私も。

なんか、自分まで安売りされてるみたい。

毎日毎日、おなじことの繰り返しだ。
菜穂子は自分のささくれた指先を見つめる。

９時から１７時まで、倉庫とレジを往復して、なんとなく1日が終わる日々。
休みの日も、行くとすれば隣町のちょっとお洒落なスーパーだけ。そこで、うちの店には置いてないグリーンスムージーを買うのがちょっとした楽しみなのだ。

それだけ。

最近はメイクもしなくなった。
どうせマスクで隠れるし、だいたい私の顔なんて誰も見ていないんだから。
客が興味があるのは、２０%引きのシールが張ってある商品が、ちゃんとその値段になってるかだけなんだから。

このまま、ぱさぱさに乾いて年老いていくのだろうか。毎年クリスマスソングに苛立ちを感じるおばさんになっていくのだろうか。

いま一番頻繁に着てる服が、この緑のエプロンなんて悲しすぎる。

「おつかれさまでした」

今時あり得ない、昭和感漂うタイムカードを印字し、菜穂子は同僚に声をかける。
ジジジ、と辺りに響く時代錯誤な音で、また憂鬱な気分にさせられた。

「おつかれさま。今日の特売イマイチだったよね。佐々木マネージャー、ありゃ売れ筋を読み間違えたわ。ねえ、そう思わない？まあ、また明日ね」
精肉担当の吉村が割烹着を脱ぎながら声を返す。

また明日。

また明日？

また明日、私はおなじ1日を過ごすんだろうか。野菜を棚にならべ、豆腐と蒟蒻の品出しと発注をし、レジが混めばレジに入る。

気にいらないことがあった客にちくちくと嫌みを言われ、ただすみませんと謝る。

朝から晩まで、うかれたクリスマスソングは流れつづける。
私はずっとここにいる。

ずっといる？

私…
あと何年、ここにいるの？

私には、幸せなクリスマスはもうこないの？

「吉村さん…あの…」

菜穂子の顔は真っ青だ。
目は何かを決意したように、見開かれていて、尋常でないのは見てとれる。

吉村は思わず、一歩後ずさりした。

「ど、どうしたの？菜穂ちゃん」
「ごめんなさい、マネージャーには明日連絡します。私…これもう要らない！」

バタバタと店から出ていく菜穂子が投げ捨てたものは、緑色のエプロンだった。

✨🎄✨

菜穂子がスーパーを飛び出した途端、ドシンと誰かとぶつかった。店を出るだけでさえスムーズにいかない。

カーディガンの毛玉がぼんやりとにじみ始めた時、

「アイタタタ……」

と声が聞こえた。

こっちだって痛いわよっと言いたいのを抑え

「大丈夫ですか？」

と声をかける。
ああ、こんなにも悲しくても表面上は親切な言葉が出るんだ。

緑のエプロンを投げ捨てて出てきたくせに、と中途半端な自分を嘲り笑いたくなる。

「だ、大丈夫です。こちらこそすみません」

ぶつかった相手は私よりかなり若かった。ふーん、若いと心も擦り切れてないからそんな言葉が出るのね、とすさんだ気持ちで相手を見たとき、

「あ！ナオコさん！」

と呼ばれギョッとした。え？知り合い？
しかし、相手の顔に見覚えはない。

「あ💦急にすみません。いつも青果コーナーでお見かけするもので、つい親近感が先走って」

菜穂子は舌打ちしたくなった。緑のエプロンを投げ捨てても私は青果コーナーの店員「ナオコ」なのね。

菜穂子が務めるスーパーは空回り気味の佐々木マネージャーの提案で名札は下の名前で表記はカタカナと決められている。

外国出身者だけでなく全員がカタカナ表記の方が従業員に優しいイメージだし、下の名前にすればお客様からも親近感がわくというのが、佐々木マネージャーの意見なのだ。

あーあ。お偉い佐々木様のおっしゃる通りでございますよ。私は立派に青果コーナーのナオコとして認識されています。

と心の中で毒づいていると、

「この前はお世話になりました」

とぺこりと頭を下げられた。

「この前、うちの先生にココアの説明をしてくださったじゃないですか」
「え？せ、先生？」
「はい。ココアは砂糖が入っていないものをお選びくださいって」

そういえば2～3日前、この人と中年の女が騒いでいたっけ。ココアはいくら飲んでも太らないと騒ぐ女性をこの人が違うって止めていたわね。あまりにくだらなくて吹き出してしまったわ。思わず、

「食物繊維だけ取りたいのでしたらブラックココアを」
と仲裁に入ったのよね。

思わずクスリとした菜穂子に別の女性が声をかける。

「この前はどうも♪とっても美味しかった♪」

振り向くとココア騒ぎの女性が立っていた。ブラックココアのことかしら？と思っていると、

「ブラックココアじゃ甘くないと悲しくなった私に柿をすすめてくださったじゃない。熟した柿はプリンみたいですよって」

ああ。そういえば。それでも少し納得がいかなそうだったから、禁じ手の

「熟した柿に生クリームを添えたら」

を提案したんだった。

「柿と生クリームめちゃくちゃ美味しかった😊💕本当にありがとう」
「本当に助かりました。先生をなだめられる提案ができるなんてナオコさんはスゴイです」

たったそれだけのことでこんなにも喜ばれるなんて。どう反応をしていいのかわからずうろたえる菜穂子は、

「さっきから先生と言われていますが、あなた方って」

「ああ申し遅れました。私達、こういうものです」
すっと若い方が名刺を菜穂子に差し出す。

名刺には

「スイーツ探偵　お気軽にご相談を」

と書かれてあった。

なんだ、商売の営業で大げさに褒めていたのね、とまた心が凍り始めた。本当にもう世の中って……と思った時、

「ちょっと早いけれど。メリークリスマス、ナオコさん」

と小さなツリーとクマのチョコレートの入った透明な袋をスイーツ探偵が差し出した。

「いつもいつも笑顔で私達を迎えてくれてありがとうございます」
「青果コーナー担当なのにこの前はヘルシーなスイーツまで教えてくれて」
「え？生クリームはヘルシーではないですよ」
「もう！柿がヘルシーでしょっ。助手は黙ってて！」

もう先生ったらと言われながらもスイーツ探偵は、こちらのスーパーで買い物をするといつも元気をいただけるのでお礼をしたくて、と優しく菜穂子に微笑みかけた。

「ナオコさん、メリークリスマス！お疲れ様でした」

突然のプレゼントにぼんやりしていると、心配した吉村が近寄ってきた。すると2人は「タマエさ～ん、メリークリスマス」と吉村にも小袋を渡した。突然のプレゼントに吉村も目を白黒させている。

急に菜穂子の目から涙があふれた。そうだ。私はただ誰かにメリークリスマスと言ってもらいたかったんだ。子供の頃、緑のツリーを飾り無邪気にメリークリスマスと声をかけあった頃のように。

小袋と緑のエプロンを手に近寄ってきた吉村は泣いている菜穂子を見て戸惑っている。

「メリークリスマスって」
「早すぎるわよね(笑)」

エプロンを受け取りながら泣き笑う菜穂子を見て、吉村も少し目を潤ませた。2人の涙にもう、悲しみはない。

もう強引ですみません💦

どうしてもスイーツ探偵になってしまいます😂

白と金色もスイーツ探偵で書けるでしょうか？
色恋は苦手なジャンルなのでドキドキしております😂