見出し画像

珊瑚樹には蜂がくる

 朝食の支度をすませると、生ゴミを木蓮の木の下にうめる。ミミズが忙しく土にもどる。そして、おとさんが植えた木や植物に挨拶してまわる。今年は玄関先の珊瑚樹が元気で蕾がいっぱい。お隣の沙羅もいつになく蕾が多い。蕾がふくらんでいくのを楽しんで見ていた。
 そんな毎日の中で、月を送り出した後、いつもぶんぶんぶんぶん羽音がするなあと思っていた。時々黒い蜂の姿を見かけた。でも、他の時間は音がしないから、どこかから飛んで来ているんだなあくらいに思っていた。
 ウォーキングから帰って来て、縁台に座ったおとさんが、変な声を出した。
 何かと思ったら珊瑚樹の奥に蜂の巣ができていた。

見事な蜂の巣
蜂の卵がちょっと見えた

 蜂の姿がないので、ちょきんと切ったら、中には卵がある。それからまもなくいつもの黒い蜂がやってきて、ぶんぶんぶんぶん。巣のあったあたりを飛んでいた。。ありゃあ。ちょっと申し訳ないことをした。でも、ここに巣は困るのよ。それ以来ぶんぶんぶんぶんという羽音は、聞こえなくなった。
 しばらくすると珊瑚樹の花が開いた。小さな小さな白い花は空に向かって拍手をしているかのようで、炭酸のはじけるような音が聞こえて来る気がした。
 その拍手が聞こえるのかと思うくらいに、それから毎日珊瑚樹の花に訪問者がやってくる。私が挨拶する相手が増えた。
 毎日コツコツと雨の日でもやってくるのが、ミツバチ。花粉団子を足にくっつけて忙しい。写真を撮ろうと構えている私を上手によけて、あっちの花こっちの花と移動する。
 時に黒い大きな蜂も来た。巣を失ったあの子だろうか。
 小さな小さなアブや、アゲハチョウや、キタテハたちも訪れた。
 花が終わるまで根気と通い続けたのは花粉団子をこさえたミツバチたちだ。どこかで子育てしているだろうか。毎日変わらずやってきては忙しく飛び回っていつの間にか姿を消す。花が終わるともう姿を見かけなくなった。さびしいものだ。
 蜂たちの姿を見ている日々の横で、私が見てきた世界がある。
 学校に行きたくないなあと言いながら、自転車に乗る月、元気に帰っておいでと言うと、うんと言って、立ちこぎしていく月の後ろ姿。時々体調が不安定になる月。
 ウォーキングをする。川沿いを歩く。川鵜が顔を出している。おとさんが横を歩くと川鵜が飛び立つ。白鷺が立っている。おとさんが横を歩くと、白鷺が飛び立つ。また黒い川鵜、おとさん、白鷺、おとさん。おもしろい3者の間合い。お互い無関心で淡々と過ごしているようなのに。
 小学校の前を通る。こわばった顔の3年生くらいの女の子が出てくる。しばらくすると、先生が出てきて、ゆっくり近づく。女の子が走って逃げる。車が来る。女の子はあきらめて、先生と学校に帰っていく。
 ちょっとうちのめされるようなしんどい世界も同時に進んでいるけれど、一生懸命生きている美しい世界を見ている時間が少しでもあるのはありがたいこと。幸せだと思う。
 うちのめされて、落ち込んで深い沼に入ると美しい世界が見えなくなる。蜂の羽音や珊瑚樹の拍手に気がつく感性を磨いておきたい。
 みんなみんな幸せで。私は私で、あなたはあなたであることを祈りながら。
 朝の祈りの時間。


花粉団子つけて働くミツバチ
キタテハ
ツマグロヒョウモン


この記事が参加している募集

朝のルーティーン

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?