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せむ・すぃうみ

 今日もわたしは木橋の上に立っていた。立っていたと言うより、誰かが橋の下に落ちてしまわないために、塀みたいなものが橋の両端に設置されていて、それに背中をもたれるようにして佇んでいた。橋の材質に反して、その塀は黒い金属で作られていた。不釣り合いだった。巨大な街道のはじまりにある堀に川はかかっていて、さらにその上に橋が架かっていた。わたしはその上に立っている。  暇な時であれば、わたしは大体この橋に立っている。ほぼ毎日いる。けれど誰からもお金はもらえない。お金以外ももらえない。そ

    • 儚い驟雨

       あ、にわか雨だ。こういうの、なんて言うんだっけ。夕立、いや、もっとかっこいい呼び名があったと思うんだけど。なんだろう。なんとか。まあどうでもいいか。あ、シュウウ。しゅうう、シュウウエムラ? 違う。驟雨。一文字目が難しすぎる。驟。なんだそれ。  それで今日はいつにもまして、不安定な空もようだ。雲がかりながらも、晴れていたのは朝だけ。覗き魔な太陽の不在、街並みのさびしい昼。  講堂の大きい窓はアルミニウムで縁取られている。多分。それに貼っ付けられるようにして透明なガラス。小さい

      • 道と影

         これから記される文言は、まだ悪い大学生だった頃の俺が香港からイスタンブール、果てはイタリアのローマまでをも陸路で旅した時の回想だ。  当時、俺の親父と母は別居状態だった。そのことに関する親父からの八つ当たりもとい、心身ともに抉られるような酷い虐待に耐え兼ねた俺は、ある夜中に憎き親父の預金通帳とキャッシュカードを勝手に持ち出し、近くにあった二十四時間営業のコンビニエンスストアのATMで丁度五十万円の現金を引き出した。そして俺はそのまま家には帰らず、バイトやら何やらで必死に貯め

        • サイドキー

           あ、あ、あ。聞こえてますか。聞こえてますね、多分ね。ほら、コメントに「聞こえてるよ」という文字がちらほら。リスナーの皆さまありがとうございます。  それでは、はじめましての方ははじめまして。久しぶりの方は久しぶりです。サイドキー西園寺です。いつも思ってるんですけど、この名前あんまり語呂が良くないですよね。ネットラジオを始めたときはそんなこと全く気にしてなかったんですけど、今となってはなんでこんな名前にしてしまったんだろうって思いますね。ふふ。  あ、西園寺っていうのはもちろ

        せむ・すぃうみ

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          8本

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          while F :/ここに名前を入力.〉。

           これまでに人を殺したことがない僕は、決して人を殺そうと思ったことがないわけではなく、高校生の頃はいつも誰かしらに殺意の矛先を向けていたようなそうでもないようなことを、高校の同窓会の便りを見て思い出した僕は、それと同時に手書きで描かれた同窓会の名簿に林という聞き覚えのない名前を見つけたのだった。僕はそれが気になって、その高校の同級生で、今でも親交のある河村に電話をかける中、こんな夜分には迷惑かと心中で踵を返すことになってしまっている。 「もしもし河村」 「もしもし、どうした?

          while F :/ここに名前を入力.〉。

          木洩れ火

           どこか遠くで警報機が鳴る音がして、音に敏感なあなたはすぐに目を醒ます。よろめきながらもなんとか布団から立ち上がり、自律を手にしたあなたはそのまま寝室を抜け、リビングルームからバルコニーへ繋がる、鉄枠で縁取られたガラスの窓を開けて、音の方角を探る。けたたましい警報機の音が、一段と大きく聞こえた。音の正確な位置はわからないものの、あなたのアパートから一戸建ての家をふたつ挟んだ向こうにある、四階建てのアパートの一室から濛々と立ち籠める黒煙が、白み出した夜空に滲むように鮮やかに映る

          木洩れ火

          ワンダーランドのみるゆめ

           あおいあおいそらから、やわらかなひかりがそそぎはじめたあさのことでした。  どういうわけか、わたしはひとりおおきなくさっぱらのまんなかにたっていて、くさのつるぎはちへいせんまでひろがっていました。そらにはくもひとつありません。わたしはなぜじぶんがここにいるのかをかんがえました。ふしぎなことに、いくらかんがえてもなぜわたしがくさっぱらにいるのかということがわからないのです。わたしは、ひょっとしたらいま、じぶんはゆめをみているのかもしれないとおもいました。ほっぺをつねってみまし

          ワンダーランドのみるゆめ

          書き薙ぐリ

           「家系」という言葉は使われるだけ使い倒されて、もはや現世においては古典の風格が漂うほど熟成されたものになっている。ぼくは店の最奥のカウンターの席に座っている。ぼくの手元にあるメニュー表は既に一巡も二巡もされている、しかし右隣に座るミヤシタは未だに悩む様子を覗かせる。つい携帯を見やる、残念なことにこの無意味な時間を忘れさせる程、目新しい知らせは届いていない。ぼくは少し自信をなくして携帯を置く。目で追うメニューは三巡目に入る、手に伝うザラザラとしたメニュー表の感覚もまた、三巡目

          書き薙ぐリ