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『国際寮の思い出』友達になって後悔したやつとその反対


学生時代に数年間だけ国際寮に住んでいたことがある。留学1年目の右も左もわからない留学生が入ってきて、ある程度自立のめどが立つまで生活する、離陸翼のような寮だった。留学生6人に日本人2人が1ブースで、留学生は日本人学生から日本の常識や言葉を、日本人学生は留学生から言葉を、そしてそれ以上に強烈な文化的洗礼を受けることができるという大学の隠れスポットだった。


そんな場所があったら『隠れスポット』化するわけないだろうと思われるかもしれないが、当時その大学に大学院から入るのはその8割が中国系の留学生で、しかもその多くは定員割れしている文型学部を埋めるように入ってくるので、日本語がある程度話せる。期待通りの国際交流ができるわけではない(し、どちらかというと中国留学状態になる)ので日本人学生にはごくごく不人気だった。そんな場所なので日本人学生はいくらでも長居することができるし、3か月単位、1年単位の入居者の入れ替わりを見送っていると、それなりに人間性のパターンわけもできるようになる。

友達になって後悔したやつ

手伝ってほしいことややってほしいことがたくさんあるのに、そのお礼が常に「自分がしたいことベース」なやつ

留学生寮に住んでいれば、ごみの分別や役所の事務手続きでの手伝いを求められることが多々ある。こちらとしても、いきなり日本語環境に閉じ込められて大変なのは想像がつくので、時間が許す限りは手伝ってきた。
手伝ってきた中でパターンとして明らかだったのは、「自分のしたいこと」でお礼をするやつはほぼ確実に、帰国や就職で距離が離れたとたん縁が途絶えるということ。自分の国の料理がふるまわれるレストランに招待したり、いかにも外国人向けのみやげものを旅行帰りにプレゼントしてくれるやつがこれだ。こいつらは、いくら同じ専攻の勉強をしていようと、バックグラウンドが似ていようと、あなたのことを理解しようとはちっとも考えない。自分の殻に閉じこもったまま、日本でしたいことだけをチェリーピックして、『空想の中のワンダーランド日本』と、あとは自国の出身コミュニティに閉じこもったままで留学期間を過ごす。

人に絶対に紹介しないやつ

そいつにとって、あなたは確実に現地妻ならぬ、現地友人だろう。日本にいる間は便利だから仲良くするけど、母国の友達や家族に紹介したいとは思わないし、留学生コミュニティ内の友達の悪口を言う相手にしているので彼らに紹介しようとも思わない。逆に親に『留学生同士だけじゃなくて日本人の友達もできたんだよね?』って言われたときに見せるための友人になる場合もあるけど。
一番良く覚えているのは、ベトナム人の留学生と一緒にいるときは一緒に日本の戦争犯罪のこととか、日本人の糞なところをのべつ幕なしに話していて、日本人が目の前に来たとたん『日本ってすごいねー^^』って言ってくるアメリカ人だった。もしかしたら日本人から『日本スゴイデスネ』を期待されすぎて、たまった鬱憤が留学生しかいない環境での『日本は糞』談義になってたのかもしれないけど、2秒くらいで切り替わるところを見せられた方はたまったものではない。

友達になってよかったやつ

日本にきてコンプレックスから解放されたやつ

たくさんいる。特に欧米系。顔が小さすぎるとか、背が低すぎるとか、しゃべるのが早すぎるとか逆に吃音ぎみとか、いろいろある。外国人であることで、外国語を母語とすることで、自国のような複層的に複雑なしがらみに巻き込まれないということが単に心地よいというやつもいる。こいつらにとっては、日本にいることは自国でのコンプレックスから解放されるということなのでいつでも戻ってくるし、あなたの価値観に触れることは一つの福音でもある。日本には良く戻ってくるし、こちらから遊びに行っても歓迎してくれる。末永く続く友達になれる可能性が高い。

純粋に日本の文化が好きで留学してきているやつ

特に欧米系、台湾系とインド系に多くて、中国本土の留学生には少ない傾向にある。好きな文化が、表層的なもの(キモノ、カタナ)や単純な生活の快適さに留まるやつを除く。こいつらは、日本のことも十分に知って調べたうえで、言葉もそれなりに勉強してから来ている。それに加えて熱心に日本人コミュニティに飛び込んで言語や文化交流を行っていればほぼ間違いない。あなたのことを「日本人」ではなく、一人の人格を持った人間として認識してくれる可能性が高いため、そこから友達になれば長続きする良い縁になるだろう。こいつらと友達になるときの感覚は、普通に日本人と友達になるときのそれと地続きだ。

友達にならなくって後悔したやつ

一人だけいる。留学初日に市役所まで案内して仲良くなったけど、寮の部屋に招待されたら高級バッグであふれてて、思わずひいてしまったやつだ。あのタイ人のFacebookは、その後もずっとフォローしているけど、きらびやかな生活のことではなく、猫のミームだの、恥ずかしかったことだの、すごく内向的な救済のことばかりを投稿している。10年間、コンスタントにずっとだ。経済状況の違いなんか気にせず、もっと仲良くなっておけばよかったー!!!


いろいろ書いたけど、損得は考えすぎずに体当たりしてみたからこそ得られたものを多くある。友達になって後悔したやつは、そいつと友達になることでそいつの友達との縁が確実に切れちゃったやつくらい(つまり陰口が多い)かもしれない。また5年くらいたって、残っている縁や思い出でもいうことが変わるかもしれない。





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