中二病院(本)

「誰だよ、まだ受付始まってないんだけど」

…えっ⁈受付⁈

振り向くと、同じ歳、いや少し歳上だろうか。
白衣は着ているが明らかに養護教諭ではない人が保健室のドアを開けながらそう言った。
先生か⁈いやこんなヤツ見たことない。
色々頭の中で視界にいる輩を探したが検討がつかない。そんなことしていると向こうから、
「アンタか。さっきからドア叩いてたの」
重みのある声で呼ばれた。
「…つか、アンタ見えるんだね。なんだ新患かよ。少し待ってて。すぐ診察するから」

は⁈診察って…ここ保健室だよな⁈

「今日はそんなに患者いないし、早く開けて早く閉めるか。ほれ、そんなとこ突っ立ってないで早くいらっしゃい。受付しちまうから」

だから、ここは病院じゃないだろ⁈
思っていることと行動がうまくリンクしないまま、促されるように保健室のドアを開けた。
そこはもう、知っている保健室ではなかった。
目の前の光景に、当てはまる言葉が見つからなかった。

ドアを開けてすぐ横に簡易的なカウンターがあり、少し進むと質素な待合所がある。待合所といっても教室で使う椅子が2、3脚。全て校庭が見える窓の方を向いている。
診察台と待合所、そして見慣れたベッドは全てパーティションで区切られていた。
もはや保健室ではなく病院、いやちょっとした診療所か。
「驚くのも無理ないか。ここは昼間はアンタらが普段通っている中学校の保健室だもんな。でも、学校は昼と夜じゃ顔が違うって言うじゃないか。
ここは夜になりゃ病院になる。ただ、ちょっと診るものは特殊だけどね」
「特殊?」やっと言葉が出た。
「普通病院ったら体の悪いとこを診るもんだけど、ここは体や心の悪いとこを診る場所じゃない。性格の悪いとこを診るんだ。特に中学生は子どもの頃の影響を受けやすいし、その頃抱いた憧れや夢、空想や理想と現実のギャップでダメージを受けがちだからね。」
「それって、つまり…」
「そ、ここは中二病を治す病院なんだ。中二病の患者しか来れないとこ」

おい、嘘だろ…中二病の病院なんて聞いた事ないぞ…

「中二病なんてネットだけの用語だなんて思ってた⁇バカだねぇ。だいたいアンタら中学生ってさ、アニメとか漫画の主人公とおんなじ世代だよ。でもさ、実際の中学生なんかありきたりの生活してるだけじゃん。あっちは単なるフィクションだからいろいろあるわけだけど実際の世界に侵略だの魔法だのあったら大変じゃん。それをガキが本気で考えてそのまま成長しちゃったらそりゃこじらせるって」

…今の状況に全然飲み込めないけど、妙に納得できる…

「あとさ、学校生活うまくいかないって絶望感出してるヤツもいるけど、あれもよく考えたら中二病こじらせてただ自分守ってるだけだからね。今はSNSだのなんだのってあるから全部が全部じゃないけどさ」

思い当たる節があるからグサリときた。

「長話しすぎたね。とりあえず診察するから問診票書いて」

病院に初めて来たように問診票を渡されてその場で書いた。
氏名、生年月日、簡単な質問。病院と全く同じだ。
唯一違うのが問診の内容だった。
小さい頃なりたかった職業、好きだったテレビ番組。アニメや漫画を観たり読んだりした回数。友達とどんな遊びをしたか。ゲーム機の台数。一人遊びや空想の経験。今の自分より昔の自分を振り返らせる項目が多かった。
ひとしきり書いた後、診察台に呼ばれて問診票を渡した。
ざっくり読んだ後に、はっきりと言った。

「うん、中等度の中二病だね」

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