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スイカ革命「ピノガールと金色羅皇」

暑い。外にいればジリジリと天火で焼かれるような暑さ、部屋にいてもスチームサウナのようでムシムシと息苦しい。エアコンがなければ生き地獄だ。そんな時に食べたくなるのがスイカだ。でも、なぜ暑いとスイカが食べたくなるのか自分でもよくわかっていない。確かに水分が多くてみずみずしいけど、別に桃とかでも良いのではないだろうかとふと思う。なぜスイカなのだろうか

夏といえばスイカ

これは私なりに考えた結果だが、スイカ=夏の風物詩という認識が強いからであろう。私も小さい頃からスイカといえば夏だと思っており、暑い時にはスイカを食べるという認識が刷り込まれていたように思える。また、イベントとしても海水浴の時にするスイカ割りなどのイベントなど夏とスイカは文化的な関わりも強い。いまお使いの検索エンジンで「夏 イラスト」と入力いただければ、高確率でスイカのイラストが登場する。そのくらい夏とスイカはリンクしている。ここまで季節という概念に関連づけられた果物はそうそうない。

夏の風物詩とスイカ

江戸時代にはカットされたスイカが浮世絵に描かれるなど、古くから食べられていたことが窺える。ただ、当時のスイカは甘さが薄く砂糖などを塗して食していたようで味はあまり良くなかったのであろう。これは太田記念美術館様の記事が詳しいので、より知りたい方は下のリンクから覗いていただきたい。

より強力にスイカが夏という季節と結びつくようになったのは文明開花を迎えた明治からであると推測する。明治になるとさらに物流が発達して、味の良い品種が海外から導入された。昭和に入るとこの頃には完全に夏の果物の代表として紹介されたいる。銀座千疋屋の初代社長の齋藤政義氏が昭和5年に著した「果物通」では

「今では年がら年中、ない時はない。皚々たる白雪を窓越しに眺めながらの西瓜かじりも叉珍味には相違ないが、なんと言つても西瓜は夏のもの。ジリジリと照りつける夏の陽を縁蔭に避けて、ゆふべから井戸に漬けてあつたのを引き上げて家内中が西瓜を中心に圓を描く、お父さんの一太刀にサツト涼味が迸しる、西瓜は夏の味、夏の都会に西瓜は暮れる」と西瓜を紹介している。

同書によると昭和4年では多い時に27万から30万個のスイカが1日に消費されていた記されており、時期には少し前まで青果市場が存在した秋葉原駅や汐留駅にはスイカの山が築かれていたそうだ。東京都の資料によると当時の東京市は人口約500万ほどであり、周囲の都市を含めてたとして考えても、かなりスイカが消費されていたことがわかる。今の差スイカに対する価値観はこの頃から形成された。

また、この頃は7~8月に果物が少なかったことも挙げられるだろう。この時期は速成栽培は現在よりもはるかに少なく、桃なども早生のものは酸味がかなり強いものが多く、安価かつ甘いスイカが人々の渇きを潤したのであろう。

ここら辺は以前書いた記事があるので見て欲しい

時代と消費の変化

戦争を経て、昭和40年代に突入すると生活様式や家族単位が大きく変化した。昭和40年代の初めには3種の神器の中でも普及が遅かった電気冷蔵庫も普及し初め、都市部に人口が流れ込み「核家族化」が進んだ。戦前〜戦後直後のような大家族も減少を続け、冷却手段も井戸から電気冷蔵庫へ。そうなると夫婦二人と子供数人では大玉スイカは大きすぎる。当時の電気冷蔵庫はさながら少し大きい金庫のようなもので容量は少なく、大玉スイカをいれてしまうと何も入らないの。このような理由から丸ごと買っても食べきりサイズの小玉スイカが普及し始める。

昭和30年代初頭の冷蔵庫
この大きさでも現在価格にして100万程度と
非常に高価な上に容量も小さい

しかし、現在ではさらに甘みなど果物の要求値がかなり上がっており、多くの品目で消費が落ちているのが現状だ。現在の流行はシャインマスカットのように手軽に食べれて、なおかつ酸味なく甘いものが求められている。スイカは若年層を中心として、かなり消費が落ち込んでいる。その原因は様々で主なものとして種を出すのが面倒ゴミがたくさん出るというのが挙げられる。これがスイカを遠ざける大きな理由にも思える

種ごと食べれるスイカ「ピノガール」

2年前から流通するようになったこの品種。種ごと食べれるという謳い文句をみて最初は「どうせ口に種のカスが残るんでしょ?」と思って購入しなかった。タネについては、それ以前でも種無しのブラックジャックという品種があったが、タネの入るはずだった部分がやや粉っぽい。皮際は甘さがやや少ない。そして農家目線では樹勢が強く、育てにくいという欠点があった。

種無しのブラックジャック

美味しいものに当たればブラックジャックもシャリ感が強くおいしい品種なので、今後はもっと品質が優れる種無しスイカが出てくるのでは?と思っていたので、ピノガールのようなタネが邪魔なら食べてしまえばいいのではという発想には非常に驚かされた。

縦になってて見にくくても申し訳ない。上が普通の大きさ、品種は違うが下が同じ種ごと食べられるピノダディのもの。

恥ずかしながらピノガールを初めて食べたのは今年に入ってからのこと。私の経験上、こういう新品種のキャッチは大体誇張していることが多く、そうでもないことが多いのだ。なのでピノガールに対しても偏見の眼差しで見ていた。少し前にプライベートなきっかけで「ピノガールについて聞かせてほしい」と頼まれ、ピノガを食べてないことを思い出し急いで買ってきた。

肉質はシャリ感は少ないけど小玉スイカらしい密度ある、つまった感じの果肉。味についても深みがあって美味しかった。種に関しては、カスが残るかと想像していたがプチっと弾け、パリパリとまるでイチゴやキウイの種のようで抵抗なく、むしろ弾ける食感が楽しかった。その上に小玉スイカなので家族で食べきりサイズで、皮も薄く皮の際まで食べることが可能でゴミも少ない。現代のスイカの品種の諸問題を解決した画期的な品種だと考える。

盗まれる前のピノガール
玉返しをしたピノガール

育てやすさについても去年、放任で栽培したところ1株に10個ほど着果した。株も以上に強く、なり疲れしずらいのだと思う。ちなみに実がなったにも関わらず食べれなかったのは全て盗まれてしまったからである。もっと早くにピノガールのおいしさを知れたらと思うと余計に悔しくなる。強いて言うなら種が小さく撒きずらいことだろうか

若年層を中心とした嗜好形成について

話は変わるが「果物は出されたら食べる、嫌いじゃないけど自分では買わない」という人が多い。私と同年代の友達に聞くと、特にスイカに関しては甘さが少ない果物だと思っている人が多いと印象を持っている。

これは全ての果物に通じる話ではあるが、高度経済成長期以降に急増したお菓子の消費が若者の甘味に関する嗜好形成に大きく影響を与えていると考えている。最近では、離乳した後からお菓子を食べさせる方も多いと思う。クッキーやチョコレート、グミにキャンディーなど比較的砂糖を使用した甘味の強いものが多い。しかし、砂糖やお菓子が一概的に悪いということを言いたいのではない。

その後も小学生でわずかなお小遣いで駄菓子を買ったり、高校でも通学途中のコンビニでお菓子を買ったりと若年層でかなり身近な存在である。お菓子というのは食べたいと思ったら、子供でも容易に購入することができて、場所を果物ほど選ばず封を開けるだけで簡単に食べられてしまう。このお菓子の基準が果物にも投影されているのだと思う。その上、その時の気分に応じて食べたいものを多くの選択肢から簡単に選択できる

確かにその基準で果物を考えたら果物というのはお菓子より高くて、皮を剥く手間や残ったごみの処理も大きい。その上、一人暮らしなどしていると食べきれず腐らせてしまうなどデメリットが出てしまう。お菓子の基準で判断された結果、シャインマスカットやイチゴのような果物が選択されるのだと考える。

味に関しても「果物は嫌いではないけど出されたら食べる、自分では買わない」という人が多い。これは個人差があるので安易に断定はできないが、お菓子>果物になっていて、これがカットフルーツにしただけでは解決できない理由に思える。

スイカの概念を覆す「金色羅皇」


個人的にスイカといえば先ほども紹介したが、金色羅皇に出会うまで、スイカは夏にかぶりつく安価な果物という印象だった。果物の中でもマンゴーやメロン、マスカットなどは種類として高級感があるが、バナナやスイカなどは安価で日常に馴染みすぎて大衆の果物のように思える。一部の小玉スイカを除いて、大玉スイカには品種が明記されることも少ない。なので他の果物と違い消費者の購入の基準としては産地やカットスイカの場合だと糖度表示が重要になってくる。

スイカの品種が表示されない理由として品種の違いがわからないというのが大きい。私も全く区別がつかない。他にあまり品種表示がなされない果物に桃があるが同様の理由である。

私が金色羅皇を知ったのは2年前。先日「スイカパーティー」を主宰された「あまいスイカ」の佐藤タケルさんがマツコの部屋にて金色羅皇を紹介してからだ。果肉の見た目も黄色というよりオレンジ色に近く、とても食欲をそそる色をしている。私はその年に探したが買うことができず、去年の5月ごろに初めて購入することができた。しかし、11kgで1万近くと非常に高価で「スイカ=安い果物」と認識があった私は「まずかったらどうしようと…」悩みに悩んで購入した。今ではこの時に買ってよかったと思っている。

届いてまず大きさにびっくりした。普通に暮らしているとここまで大きいスイカはなかなかお目にかかれない。この前に金色を注文した際にできるだけ小さいの頼んだが、それでも10kg近くあり比較的大きくなり易い品種なのであろう。

人生でもこんな高級スイカを買うのは初めてでワクワクしながら動画を回しながらカットしたくらいだ。カットしてあのオレンジが混じった濃い黄色の果肉を見た時は感動した。いざ食べてみると経験もしたことがない甘さでびっくりした。食べた瞬間から最後まで断続的に甘さが残るのである。糖度も初めて食べたものは15度あり、スイカでは非常に高い値を叩き出した。黄色系は赤系より糖度が出易くはあるが、それでもかなり高い。

風味の形容が難しいが、ショ糖系のふんわり香る、乳臭さを無くしたミルクアイスのように濃く甘い風味。スイカといえばたまに混じるウリ臭に眉をひそめることはあったが、スイカの風味で良いと思ったのは初めてであった。食感も程よく硬くてシャリ感があり、なおかつ悪いスイカ当たった時の繊維感もなくスイカとしては滑らかで非常にビックリした。

金色の性質として木(草)にならしておいても果肉がボケにくい(軟化しにくい)性質があり、そのおかげで甘さをより乗せることができるのであろう。

ただ甘さがかなりあるので少しでも満足感がある。志村けんのように半月形に切り分けてかぶりつくスイカと言うよりは、ブロックに切り分けてメロンのようにフォークで少し食べるくらいがちょうど良い品種なのかな〜とも

それからというもののスイカに対しての認識がかなり変わり、スイカに対しても品種意識が芽生えた。元々スイカが好きだったので、スイカ熱が白熱して色々な農家さんから「品種」でスイカを買うようになった。これがスイカに対する私の「キッカケ」であった。

私はぶどうでも似た経験があり「シャインマスカット」を食べるまではほとんど食べなかったが、初めて食べた時にシャインの美味さに感動し、そのおかげでおかげでブドウが好きになった。なので人に果物を食べてもらう時には好きになってもらえるような「キッカケ」を見つけてもらいたい。

他の果物で例えるのはあまりよろしくないことは承知しているが金色羅皇は「スイカ界のシャインマスカット」だと思う。スイカは使用する台木や農家さんの腕でかなり食感や味が変わるが、それを考慮しても品種単体でスイカの概念を変える「キッカケ」を与えるポテンシャルを秘めていると思う。今までのスイカと金色羅皇はかなり異なるもので、別のジャンルとして暑かった方が良いのではないかと思うほどだ。

これから増えていく品種だと考える

黄金狂時代

今までの黄色系のスイカは赤系よりも甘さが薄く、肉質も劣り美味しくないというイメージが浸透してた。そんな悪いイメージは金色を食べたら払拭されるに違いないだろう。

しかも、金色羅皇の果肉は黄色と言うよりはオレンジ色っぽい美味しそうな色をしている。ただ色が濃いので皮がないダイスカットで売られているとパイナップルかと見間違えてしまう時がたまにある。

黄肉系スイカと言えばクリームスイカと言われるほどあまり色が濃くない。それが味と相まって美味しくないという印象になるのだろうか?

ただ、現状ではまだまだ認知度がないのが減少だ。今年は熊本産が多く出回り5~6月にかけてかなりの量が出回った。流通先は大体が高級フルーツ店か百貨店の果物売り場だ。

しかもカットされずに丸ごと冷ケースにディスプレイされているが、8000円〜15000円とスイカとしては非常に高価で認知度も少ないのでヘタの部分が黒ずんで古くなっているのが分かるものばかりであった。それで売れずに残って、最終的にカットに回される始末

個人的にはカットにして売った方が良いのでは無いか?と常々思う。ほかの赤系のスイカが多い中で、金色羅皇の映える黄色はひと目で区別ができて、金色羅皇はカット用のスイカだとは思うのだが、販売店にはリスクしかないと思われているのだろう


知り合いの青果店に伺った際、その日はかなりの猛暑日で赤いスイカのカットは全て売れていたのに関わらず金色羅皇は残っていた。それでも暑いからスイカが食べたいと思って残った金色を買っていくと仰っていた。

消費者は知らないものを買わないので、以前林フルーツさんがやっていた2種セットは非常にいいと思った。最近、果物でも食べ比べというのが流行っているように感じており見た目も2色で綺麗である。見た目以外にも、ふつうの赤いスイカが入っていることで馴染みのある赤いスイカが入っており、守りに徹している人でも知っているものが入っている保健付けでちょっと冒険してみようという気持ちさせるのではないだろうか?

これからの時代の品種

私は以前、糖度至上主義という記事を書いた。スイカも例外なくその影響を受けているように感じる

スイカは元々、酸度もない果物であるが私の周りの同年代の友達に聞いてみてもスイカにあまり良いイメージが無いようだ。というのもスイカは果物でも甘みが少ない果物でもだと認識があるように思う。

非常に甘いのもあるが、スーパーなどで購入したものは比較的外れの多い果物であるとは思う。最近は糖度12以上の腕の良い農家さんが作ったスイカしか食べていなかったので、スーパーで9度と表記されているものを見てびっくりしてしまった。糖度に拘る訳では無いが、確かにそれだと味が薄いのは容易に想像がつく。

それがあまり若年層がスイカを食べない理由のひとつなのでは?と考えてる。あとは、そこまで好きじゃないけど「夏だから食べる」みたいな人もいて美味いから食べるという訳でなく、夏だから行事の一環で食べるみたいな認識の人もいた。

しかし、金色羅皇は産地や時期など関わらず比較的甘さの強いものが多い。私も金色で果肉の薄い物を買って食べた時「色薄いなー」と思っていたが、色が濃いものよりは劣るもの甘い普通の赤いスイカ程度の甘さがあった。

私が所属している大学の研究室の友達に実際に食べてもらっても「甘い!美味い!」「スイカってこんな甘いんだ!」といっていたので決してスイカが苦手とかそういう訳では無いと思う。 

スイカパーティでも最後に金色羅皇が出た時は明らかに反応が違い、おかわりの声が絶えなかった。

甘さが求められる時代では、甘さが安定してることは非常に重要である。その上、殆どは非常に断続的に続く強い甘さを持っているので糖度至上主義の現代でも流行るであろう品種だと思っている。

果肉色、糖度の高さの他に金色羅皇というネーミングもかなり印象に残る品種であろう

スイカの品種意識の向上

スイカの品種意識がされていない状況でも、味と言い見た目といいかなり印象に残る。

最近はわたなべまこさんの断面図鑑やみかんノートさんのみかんの統計図がかなり反響を受けていて品種意識があまり果物を食べない人にも意識されているように思う。

そこで特徴のある金色やピノは品種として認識ができてわかりやすい。これからは産地や糖度だけでけなく品種で意識する時代も来るのではないだろうか?

今年から両二品種とも流通量が増えてきて、消費者が手に取る機会が増えてきた。その分、ハズレも増えてくるので品種の評判を落とさないかちょっと心配である。

ただどちらもほかの既存品種よりポテンシャルは持っているので今後、どのように普及していくのか観察したい














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