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「分げつ」か「分けつ」か

「分蘖」という言葉がある。「イネ科作物が茎から枝分かれすること」を指す言葉である。農業に精通していない人にとっては聞き馴染みのない言葉であろう。これは、「ぶんげつ」と「ぶんけつ」の2種類の読み方を聞くことができる。

では、どちらが正しい読み方なのであろうか。様々な文献から確認してみることにする。

①Wikipediaによると、

「蘖」の読みは、「ひこばえ・げつ・げち」であり、「ぶんつ」と濁るように思われるが、日本国語大辞典〔第2版〕は、「ぶんつ」で清んだ読みを立項する。初期の用例としては、久田二葉『園芸十二ケ月』(1906年)、岐阜県産業課『稲作の一年』(1928年)などが、「ぶんけつ」と振り仮名をふり、辻川已之助「農芸文庫. 稲の巻」(1915年)が、「ぶんげつ」と振り仮名をふる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E8%98%96

とあり、Wikipediaでは「分けつ」の立場をとっている。しかし、文中にあるように、「蘖」は「げつ」と読み、「けつ」と読むことはない。

②国語辞典
デジタル大辞泉では「分けつ」
筆者の持っている国語辞典によると、
広辞苑(第五版)は、「分げつ」、新選国語辞典(新版)は、「分けつ」

③漢和辞典
筆者の持っている漢和辞典によると、
新選漢和辞典(新版)、角川新字源は「蘖」の見出しはあるものの、記載なし、新漢語林は「蘖」の読みは「ゲツ/ゲチ」と記載があるのにもかかわらず、「分蘖」の読みは「ぶんけつ」と記載。

④省庁の文書
文部科学省学術用語(植物学)では「分げつ」
米の栽培方法(農林水産省)では「分けつ」
1本のイネが生育するときに、どのくらい枝分かれしているのですか。(農林水産省)では、「分げつ」

⑤学術論文サイト
日本の学術ジャーナルを発信するJ-STAGEでの検索結果は、「分げつ」5101件、「分けつ」3465件
農林水産関係の学術雑誌や研究報告を発信するAgriKnowledgeでの検索結果は、「分げつ」496件、「分けつ」109件

これらのことをまとめると、「分げつ」派が有利な状況だが、「分けつ」派も少なからずいるということだ。
実際、農家さんと会話すると「分けつ」と発音していることが多いため、適切な日本語としては「分げつ」だが、日常での使用頻度としては「分けつ」が多いということなのだろう。
しかし、この「分げつ」派と「分けつ」派の論争は終わっていない。なぜなら、確固たる事実が示されたわけではないからだ。いつこの言葉ができ、いつ2つの読み方に分岐したという歴史が明らかになるまでは、狭い世界での論争はこれからも続く。


媒体による分げつと分けつの違い


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