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complicated birthday.(複雑な誕生日)

誕生日。
その幸せなお祝いの日に、happyという形容詞をなんだかうまくつけられなくなった。それはいつからなのだろう。

たぶん本当は子供のころからそうだった。
でも、その日は子供の私にとっても同じく子供の友達からしても、誕生日というのはハッピーバースデーという日だった。

それはhappy birthdayとしてあった。
そうありたいと思ったし、そうであってほしいと願っていた。


happyに込められた、「しあわせな・嬉しい・幸福な・祝福された」

そういう一つ一つと、私の目の前にある「誕生日」は似つかわしくないのに、子供の私は、それでも、私の心の中で(お誕生日おめでとう、ハッピーバースデー)と、そう唱えていたと思う。


「幸せな」の冠をかぶって当たり前のそういう日に、そうで在れないのは難しい。

普通に生きていてもだんだんと、その冠はくもってくる。
生きていく難しさのなかでハッピーという単純さが減ってくる。

complicated birthday
「複雑な誕生日」

名前をつけると、物事って収まりを持ったりするけれど。
「complicated birthday」、この言葉が内側から出てきて、なんだか色々しっくりきている。

happy birthdayでもなくunhappy birthdayでもなく。
もちろんspecial birthdayという日にもなりきれず。
かといってunspecial birthdayにはどうしたってならない。そういう日。
complicated birthday 、複雑な誕生日。


そういう日、それが誕生日。

単純になりたくてもなれない、複雑さ。
そういう日。
生きているとより純化して単純になっていくか、複雑になっていくか。
どっちかの道を辿っていく日。


「お誕生日おめでとう」というのに、少しだけ苦虫を噛んだ気分がある。けれど、そこに含まれる幸せな気分は好きで、反面、自分の中の冷えた部分も自覚する日。

私にとっては私の誕生日だけでなくて、家族の誕生日も複雑だ。
それは子供の頃にはその日の楽しさを親から教わったのに、方針の変更により誕生日をお祝いするということが無きことになったことに主因はあるけれど。

家族自身に対して私が抱いている感情と状況と経過の複雑さが相まって、私は物心ついてから、家族のこの日の扱い方がわからない。 あ、誕生日だ、と思った後の感情がぽっかりとしている。

少し前だが、先日に亡くなった兄の誕生日を迎えた。
なんとなくケーキを買って、一人暮らしの部屋で食べていたけれど。
それすらも、少しどう思えばいいかわからない。

「亡くなった人の誕生日をどうすごすか」は、きっと生きている人間の難しさのベスト10には入るのかもしれないなんて思う。

亡くなった人との特別な日はきっと、それだけで難しいけれど。
きっとさらに、こんがらがっている。

そんな日に、なんとなくバースデーソングを口ずさんでいて、
頭の中にふとよぎったのが、complicated birthday。
複雑な日。そういう日。

そういう一つの名詞にしてしまえば、なんだが収まりがいい言葉。

もちろんhappy birthdayと言える、単純に素敵な日が過ごせたらそれは素敵。

そんなまっすぐな日を過ごせたらいい。


でも多くの人はきっと、happyでも
unhappyでもない日を過ごす。

specialになりきれず。
だけどただの日だ、気にしてないと言い切れない形で日を過ごす。

ハッピーでもアンハッピーでも無い。
複雑な日。

複雑な誕生日。



ふと、
だから私たちは単純に甘いケーキを食べたり、きれいなお花を買ったりするのかな、って思った。複雑で、シンプルな・幸せなとは言い切れない日の、今日の彩りを甘さや華やかさで覆ってしまえるように。


complicated birthday、
全ての人の複雑な誕生日が、キレイだったりおいしいだったり、甘いだったりで覆われて、その瞬間だけでもなんだか優しいものに包まれますように。



果ノ子
(いつか書いたやつ)





このcomplicated (複雑な)という単語が私のどこから来たかというと。それと出会ったのは、ある映画。『リリイ はちみつ色の秘密』深夜放送の字幕版をなんとなく見ていた時に、「複雑な愛だった」と語る黒人女性のそのさまに、その言葉になんだか惹かれた。

その映画は、黒人の人権運動が始まったばかりの時代が舞台の映画である。
白人の少女リリイは、大きな農場を経営する父と二人暮らし。父は少女に冷たい。
ある日メイドの女性(黒人)が白人たちに暴力をふるわれる。助けてと言っても父は動かない。リリイは彼女を連れてにげ、亡くなった母の所縁のある土地へ向けて家出をする。
そこには、ハチミツ園を営む黒人の三姉妹が暮らしていて、リリイは家出の理由は隠して彼女らと生活を始めるー。

という大枠の中、
後半に三姉妹の一人、直接母と知り合いだった一人がリリイの母親との関係を話す。「お母さんのこと好きだった?」と聞くリリィに、彼女が返したのが、complicatedという言葉。
どういう意味?と聞き返すリリイに、愛していたけれど、黒人として白人の娘の育児をすることには深い溝があったという話をした。
簡単ではないし、単純でもない。でも愛していた、愛している。
complicated.

なんだか、その言葉は私の中に刻まれた。


複雑な誕生日として、私はもっと誕生日を好きになっていけるかもしれないなんて、思う。ハッピーでもスペシャルでもなく、かと言って無理やり何でもない日やアンスペシャルに封じ込めないで、複雑なままで。

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