平間鳩子

amazonキンドルストアにて電子書籍発売中。 2017年12月17日最新作「ブルーム…

平間鳩子

amazonキンドルストアにて電子書籍発売中。 2017年12月17日最新作「ブルームワゴン」発売。BASE内「ヒサオブックス」で単行本同時販売。 既刊一覧 http://amzn.to/2By7uoI twitter http://bit.ly/2zLJ5ru

最近の記事

「ブルームワゴン」発売開始しました

noteで冒頭部分を公開していた新作小説「ブルームワゴン」が発売になりました。電子書籍、単行本それぞれご用意しております。 単行本のみ、2015年に発売した短編小説「後継者」を収録しています。 STORY 森に棲むコーネリアスたち一族は、冬眠をする動物だった。 しかしある年の冬、一族の中でコーネリアスだけが冬眠状態に入れないことに気づく。ひとりぼっちのコーネリアスは、厳しい冬の森で生き残れるのか? 一方、別の場所でも物語は発生し、育っていく。嵐の夜に宗教家の家を訪れた女

    • 試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」最終回

      第十回最終回 コーネリアス、新たな受難 「血だらけ」 子供がコーネリアスの口元をつまらなさそうに蹴りながら言った。 「もともと弱っていたのよ」母親が言った。 「ずいぶん痩せているでしょう」 母親は爪とくちばしを使って、コーネリアスの体の皮を引っ張ったり広げたりした。コーネリアスはまるで古い人形のようだった。コーネリアスは自分の身の安全のために何ひとつしてやれなかった。母親は授業を終えると再び子供にコーネリアスを与えた。でももう子供はコーネリアスに手を出さなかった。短い悲鳴

      • 小説「ブルームワゴン」発売日のお知らせ&紙の本も出ます

        現在noteで冒頭部分を公開中の新しい小説「ブルームワゴン」の発売日が、12月17日に決まりました。 また、今回から新しい試みとして、Amazonキンドルストアでの電子書籍のほかに、紙の本での発売も行うことになりました。 ネットショップBASE内にある「ヒサオブックス」でご購入いただけます。 こちらの発売日も12月17日になっております。 電子書籍版の「ブルームワゴン」には、表題作のみ収録されていますが、ヒサオブックスで発売される紙の本には、表題作のほかに、2015年に発売

        • 試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第九回

          第九回 コーネリアス、捕獲される ある夜コーネリアスは白い大きな体をしたフクロウに捕まった。 気がついたときには凄い力で雪原に体を押しつけられていた。口にも鼻にも雪が詰まって息ができなくなった。白フクロウのフカフカした分厚い足としっかりした爪は、コーネリアスの体を要領良く掴んでいた。 コーネリアスはあっさりあきらめた。栄養状態があまりにも悪く、もう何日も、起きているのにまるで夢の中にいるような感覚の中にいて森を彷徨っていた。自分が何をしているのか分からなくなることがしょ

        「ブルームワゴン」発売開始しました

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第八話

          第八話 サッコ、3号を運ぶ やがてぼくらは院長先生のお部屋がある階までやってきた。ガラス張りの長い廊下の突き当りに院長先生のお部屋はあった。その夜廊下の窓ガラスはほとんど割れて床に落ち、窓にはギザギザした枠だけが何とか残っていた。 その廊下はほかの場所より風の唸る音が大きく聞こえ、雨の混じった強い風が吹き込んでくるので寒く、ぼくは3号が濡れないように、またガラスが割れでもして飛んできた破片で皮膚を切ったりしないように、着ていたユニフォームの上着を脱ぐと3号をくるんだ。「嵐

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第八話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第七話

          第七話 サッコ、3号が気にかかる ぼくの名前はサッコ。ぼくはそのとき十六歳で、山の上にある産院で働いていた。産院で働く人たちから雑用を引き受けたり、看護師の見習いの見習いのそのまた見習いのような仕事をしていた。 ある日ぼくはいつものように「支度部屋」に赤ん坊を運んだ。その赤ん坊は「3号」と呼ばれてほかの赤ん坊と区別されていた。「3号」は特別元気な女の子だった。ほかの多くの赤ん坊と違って、あの陰気な「支度部屋」の硬いベッドに移されてもしばらくは手足をばたつかせていた。 産院

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第七話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第六話

          第六話 「どうかわたしの願いを叶えて下さい」 彼女は赤ん坊を抱いてその部屋を飛び出した。途中でリネン室と書かれたドアの前を通り掛かったので、そこに忍び込んでバスタオルとシーツを盗み出し赤ん坊を包んでやった。彼女は転がるようにして階段を使って一階まで下り、産院の裏玄関から外に飛び出すと一目散に山を下った。彼女は看護師や医師に、「あなたが産んだ赤ん坊はもう死んだ」などという嘘をついた理由や、自分の産んだ赤ん坊があんなひどい目に遭っている理由について訊きたいなどとはまったく考

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第六話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第五話

          第五話 嵐の夜にやってきた女 普段から、家の中に明かりがひとつも灯っていなければ、ドアを叩こうとする人たちもさすがに遠慮するか、数時間後に出直してきた(自宅には帰らず、ふたりが住む家の壁にもたれて眠り朝を待つ人もたまにいた)。でもその晩ヨーク一家が住む家のドアは、そこが開くまでは決して諦めないという誰かの強い決意を反映しているかのように、繰り返し叩かれ続けていた。 「こんな日に」 ヨークの母親が、一定のリズムで続く重々しいノックの音に目を覚ましてベッドの中から声を出した

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第五話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第四話

          第四話 ヨークと人魚姫 ヨークは子供のころ、アンデルセン童話の「人魚姫」を繰り返し読んだ。その理由は、ヨークが「人魚姫」と同じように口がきけなかったからだ。ヨークは「人魚姫」が収録された「アンデルセン童話集」を、ある日両親の部屋にあった本棚で見つけた。その本はとても重たく、古びていた。表紙には粗い布が張られていて、ほつれた糸が何本か飛び出していた。ヨークは初めて見るその珍しいつくりの本を開いてみた。中の紙は厚ぼったく、鼻を近づけると古い着物のような匂いがした。 その本

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第四話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第三話

          第三話 コーネリアス、屈辱をあじわう もちろんコーネリアスはそんなつもりはまったくなかった。でもその後のひと月ほどの彼の行動は、ほかの動物から見れば、ただ森を彷徨い、闇雲に雪に穴を開けてそれを掘り返しているだけの、まったく意味を成さない嘲笑の的となる行為の寄せ集めでしかなかった。 コーネリアスが引っ越した先の巣の中にあった食糧は、話に聞いていたような量でも質でもなかった。苦労知らずで、飢えた経験のないコーネリアスは、十日と経たないうちに巣にあった食糧はおろか、すべての緊

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」第三話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第二話

          第二話 コーネリアス、旅のはじまり コーネリアスは一番仲良くしていた兄弟のそばへ行くと、固く閉じているまぶたを引っ張り上げた。しぶしぶ、という感じでまぶたの下に現われた兄弟の目玉はにぶい光を放ち、コーネリアスには決して見ることのできない、特別な景色を追っているかのように不規則に動いていた。コーネリアスは兄弟の目にそっと蓋をした。今度は虚しさがコーネリアスのもとを訪れていた。コーネリアスはもう仲間の体に触れなかった。コーネリアスの中から、仲間を起こしてやろうと思う気持ちは消え

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第二話

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第一話

          第一話 コーネリアス、眠りそこねる 冬眠は静かな場所で体を丸めて目をつむっていれば自然に始まるというものではなくて、どこかからやってくる「冬眠をしなさい」という信号を体が受けて初めて始まるものだった。 ある冬の日コーネリアスは、仲間の動きがみるみる緩慢になり、やがて巣が横になった仲間たちでいっぱいになった光景を目にした。コーネリアスにとってその光景は珍しいものではなかった。むしろその季節の巣の中で、それ以外の景色を見たものは、一族の歴史を遡っていってもおそらく一匹もいない

          試し読み!12月17日発売「ブルームワゴン」 第一話