新しいジョン・ハルの教科書の読み方:リスク管理編

以下では下記の続きを書きます(以下は下記の2つを読んでからご覧ください)。

新しいジョン・ハル教科書の読み方(服部レポートの活用とデリバティブの勉強方法)|服部孝洋(東京大学) (note.com)
新しいジョン・ハルの教科書の読み方:オプション編|服部孝洋(東京大学) (note.com)

前回まで、ハルの書籍の18章まで議論しましたが、19章からは下記の通り、リスク管理の話題が続きます(21章は特殊なのでこれは省略します)。

第19章 グリークス   
第20章 ボラティリティ・スマイル   
第21章 基本的な数値計算法   
第22章 バリュー・アット・リスク   
第23章 ボラティリティと相関係数の推定   
第24章 信用リスク   
第25章 クレジット・デリバティブ

グリークスについて
まず、グリークスについては下記の金利リスクに関するレポートをご一読ください(もっとも、これについてはここまでの流れ上、すでに読んでいるということにはなります)。債券では金利リスクをデルタということが多いですが、これは債券を金利のオプションだとみなしていると解釈できます。デルタは原資産の一回微分ですが、債券価格を金利で一回微分したものがデュレーションであり、これをデルタと呼ぶことは債券を金利のデリバティブだと解釈しているということです。

金利リスク入門―デュレーション・DV01(デルタ、BPV)を中心に―

その他のグリークスは下記の6章を読んでほしいです。特に、ガンマ・トレーディングについては非常にわかりやすく書けたと思っているため、この部分はぜひ読んでいただきたいです(ここの部分は分かりやすかったとかなり言ってもらえる部分です)。

https://www.jpx.co.jp/derivatives/products/jgb/jgbf-options/tvdivq0000003qr3-att/jgbopreport.pdf

スマイルとスキュー
20章のスマイルについては、スマイルとスキューだけで下記の通り、論文を一つ記載しているので、これを参照してください。

ボラティリティ・スマイルとスキュー―日本国債市場における正規分布から乖離した動きについて―(2020/6)

VaRとES
第22章はバリュー・アット・リスク(VaR)をとりあげていますが、VaRについても下記で記載しています。

グリッド・ポイント・センシティビティ入門―日本国債およびバリュー・アット・リスクの観点で―(2021/3)

私はVaRについて、GPSに焦点をあてて説明しているため、少し独特な説明になっていると感じるかもしれません。しかし、きちんとVaRの持っている特性や行列計算を説明しているため、ハルの22章の良い導入になっているとおもいます。VaR自体はもっとかけることが多いので、それだけで別途何かをリリースするとおもいます。

また、第22章では期待ショートフォール(ES)についても紹介していますが、ESの理解は実例を知ることだと思います。ESは、OTCデリバティブの証拠金の計算に使われているため、下記の論文で、VaRとどういう違いがあるかが理解できるとおもいます。

店頭(OTC)デリバティブ規制入門-清算集中義務と中央清算機関(CCP)について-

GARCHとCDS
第23章から第25章については私はまだ記載していません。ただ、ハルの書籍でも、これらの章は最低限の記載になっているという印象です。

まず、第23章ではいわゆるGARCHの話題になっています。ボラティリティは、ボラティリティ・クラスタリングといって、一度、ボラティリティが上がる(下がる)と継続して上がる(下がる)という現象があります。GARCHはその現象をシンプルにモデル化しています。

ボラティリティのモデリングはマニアな世界なので、私が細かく書くことはないとおもいますが、GARCHについてはウェブで調べると膨大なモデルが出てくることがわかるとおもいます。私個人の経験では、実務的にはハルのテキストで記載されている以上のことが活用されているのはみたことがありません。本当は具体例があったほうがわかりやすいのですが、ちょっと今思い浮かばないので後で思い出したら追記します。

第24章と25章についてはクレジットリスクおよびCDSですが、以前も記載したとおり、ハルのテキストでもクレジットの話題については本当に最低限の記載です。CDSについて知りたければハルのテキストではあまりに不十分なので、「ビッグバン後のクレジット・デリバティブ」などCDSのテキストを読むのがいいとおもいます。私も下記の通り、少しだけ説明しています。CDSやCDSから社債を合成したクレジット・リンク債はどこかで紙面を紙面を割いて説明したいと思います。

CDSについてにメモ|服部孝洋(東京大学) (note.com)
社債とCDSの類似性:CDSを用いた債券(仕組債)の組成|服部孝洋(東京大学) (note.com)

まとめ
上記をまとめると、私のオプションに関するレポートを読んだ後、スマイルとVaRの論文と、上記で記載したとおり、ご一読いただければと思います。もしCDSについて知りたければ、前述の書籍をざっと読んでもらったうえで、19章から25章について順番に読んでいただければと思います。

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