ドール

書誌情報

タイトル ドール
作者 山下紘加
出版社 河出書房新社

感想

山下先生の作品は最初に『クロス』を読んだ。
今となってはそれで良かったと思った。
こんな刃物のような作品を先に読んでいたら、とてもではないけど2作目を読めなかっただろう。

文藝賞受賞作となるこの作品。思えば、数少ない読書量の中では、意外と文藝賞受賞作をいくつか読んでいる。

綿矢りさ『インストール』
羽田圭介『黒冷水』

3作とも思春期に焦点が当たっている作品で、心のモヤモヤがひどい。『ドール』はとりわけそうだったかもしれない。

論理的に考えるということは、社会に出ると必要なことで、そのことに慣れると直情的に動くことがなくなってくる。

そういう意味ではこの主人公は久しぶりに、新鮮なキャラだった。自分の感覚に従って、特に主張もなく、ただただ欲望を消化していく。まるで子供なのだ。

子供でしかない彼は、大人のルールを気にしない。というよりも、すでにそのルールが意味を成していないなら、守らない。
自分が理不尽に傷つけられるのなら、相手もまた理不尽に傷つくことは許容される。そんな様子が見てとれた。

メインの要素である人形への愛も、なんだか不安定で、その愛よりも結局自己への愛がまさってしまうのは、やはり彼が子供なのだった。

作者が何をもってしてこの作品を書く気になったのだろうか?

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