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『暁に還る』4.

“たそがれに還る  光瀬龍

「航路情報を申し上げます。航路管理局発表二十一時五〇分。
座標B、銀経三八・〇七一。銀緯四二・三二八。定点よりマイナス九・一八一。《青の魚座β》より《石の花座21》へ軌跡を引く流星群があります。同方面を航行する宇宙船は注意してください。また大圏航路第五ホフマン軌道上に遭難船の残骸が漂流していることが報ぜられています。現在位置を確認した船舶は航路管理局まで通報願います」
「木星サベナ・シティ行七〇二便。連絡船の乗船者は第二十一ゲイトよりフィンガーへ入ってください」
「金星エレクトラ・バーグ行四三一便は四六〇分おくれてフィールド9へ進入します。金星エレクトラ・バーグ行四三一便は四六〇分おくれてフィールド9へ進入します」
「フィールド18、フィールド18。貨物船が緊急着陸します。フィールド内のすべての車輛は至急退避してください」
「辺境航路八一四便乗船者は第九ゲイトに集合してください。辺境航路八一四便乗船者は第九ゲイトに集合してください」
シロウズは肩に負った手回り品を収めたバッグをゆすり上げると、フィンガーへつづく回廊へ出ていった。回廊はあわただしくゆききする人々で雑踏していた。宇宙服に身を固め、ヘルメットを背にはね上げた一団は、これからどこかへ出発する宇宙船の乗組員たちであった。……”


千年にわたる泥沼の統合戦争の過程で宇宙開発機構に統治が一元化されるのに、最も暗鬱で強大な力を奮った“調査局”の精鋭、シロウズは新鮮な人物造形だった。非常に虚無的な宇宙描写を背景に謀略と政略そして戦闘を戦い抜くシロウズが、ある時、未知の宇宙的事象に行き当たり、時空を超えた預言世界に巻き込まれる。孤独な人類の太陽系文明は、私の生存する人類が地球上で自滅した世界と何かしら共鳴するものがある。大消滅以後、数十年を経て潜水艦や飛行船、内燃機関船舶などで、世界中の人類生存エリアから収集された、膨大な紙のまた電磁的記録が、私の宇宙だ。並の神経では務まらない。孤独な作業の友としてまた、シロウズはタフな同僚なのだ。

∞『暁に還る』

中国人民解放軍海軍秘匿潜水艦隊、アメリカ沿岸展開チーム、戦略型原子力潜水艦《宵練》、攻撃型原子力潜水艦《含光》、攻撃型原子力潜水艦《承影》が暁闇の太平洋海面を並走していた。大消滅以後、電離層が観測不可能な変容を遂げ、大気圏も海洋も、地殻内部にも、従来の法則が消えた。新しいパターンをまだ艦の科学技術士官は見いだせていない。特殊な射出型ケーブルによる艦長間通信が不規則に実施された。                                          《宵練》艦長、李大佐「どうやらアメリカの沈黙は全土におよぶようだ。地下都市要塞からの通信も、あれ以来3年だが傍受していない。我が国も含め陸上ではEMP以外の核も濫用されたんだろうな。」《含光》艦長、世中佐「我々のような深海任務艦の発見が重要です。散開すべきと思われます。まだ生きている都市や地域を見つけ、支配すべきと思われます。いや私たちの母港を見つけなければ、士気を長期間保てません。」《承影》艦長、民中佐「まずは太平洋を3分割し、各円内の調査を充実させては?いつまでも恐れていては、始まりません。船の原子力は半永久ですが私たちの寿命は!?です。私たちの艦は、かの殷帝国の3宝剣から名付けられました。私たちが建国者、暁の艦隊です。」“含光”は刃に触れることも見ることもできない宝剣で、斬られたことを永遠に感じない。“承影”は刃が夜明け夕暮れに北にかざすとぼんやり見える。“宵練”の刃は昼は影につつまれ、夜は光を放って見えず、斬られた傷がすぐにふさがり、相手を殺せない宝剣だ。彼らが運命的な艦名にインスパイアされ、大消滅以降初の文明圏の始祖となったことも、うなずける。皮肉なことにアメリカには非常に精神的な文明が再建され、中国圏では如何なる精神論も含まない徹底した物質文明が登場する。そして人類は変容してしまった時空“ジョーカー宇宙”と対峙し、“巻き上げられる世紀”に突入する。


画像はナショナルジオグラフィックより。刀剣ワールド参照。

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